14:生首
『大半の人々にとって、他人の四葉のクローバーを踏みにじる行為こそが幸福だ』
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不可視の敵の姿が薄い煙の中に浮き上がる。
アルトバでモンドに襲撃されたときに試した、小麦粉を地面に撒いて足跡を確認するという方法。
それと同じ種類の方法が予想外に上手くいった格好だ。
(アイツの上位互換じゃ……、なかった?)
ジュリエッタが敵のシルエットに向けて剣を振る。
ようやく状況を把握したブレッドも参戦しようと剣を抜いた。
ソフィアとパウロも杖を抜いたが、魔法を使うのは目立つので参戦を躊躇った。
実際、ここで魔法を使ってしまえばさらなる敵を呼び込むだけだ。
手っ取り早く火力を出せる代わりに隠密行動を不得手とする魔法の特性がモロに嵌ってしまった格好である。
「……」
自分の姿が見破られたことに気が付いたのか、敵のシルエットはあっさりと反転して後退し始めた。
その動きはかなり速く、煙の広がった空間を抜けたことでその姿がわからなくなる。
「大丈夫か?」
ブレッドがジュリエッタを案じる。
「ああ。だが急ごう、今ので私達のことを仲間に知らせに行ったはずだ。ユウ、今のは助かった。だがあまり大声は出すんじゃない。敵に見つかるからな」
「あ……、悪い。」
ユウはそこまで思い至らなかったと決まりの悪い顔をした。
煙幕玉も思っていたのとは違っていたし、期待していたのとはかなり違う展開だ。
しかしそれでもこの場面を切り抜けられたことに違いはない。
「行くぞ、敵が来る前にゴーストロッドを破壊しよう」
ブレッドが再び先頭を走り始めたので他の四人もそれについていく。
それが果たして幸いなことなのか、ゴーストロッドがある部屋までは誰にもしなかった。
両開きの大きな扉を静かに開けて中に入る。
――部屋の中には誰もいない。
待ち伏せを警戒した五人だったが、広い部屋の中には誰もいなかった。
念のために周囲を警戒しながら奥にあるゴーストロッドに近づいていく。
「他のみんなは?」
「どうやら俺達が一番乗りらしいな」
ソフィアの問いに答えながら、パウロは自分の魔法袋から魔法爆薬を取り出した。
手早くゴーストロッドの周囲に爆薬を取り付けていく。
強力なアーティファクトなだけあって一般的な手段では容易に破壊できないのが厄介なところだ。
ユウは部屋の隅にある黒水晶とその中に入っている人間らしきモノのことが気になったが、今はそんなことを気にしている場合ではないと思って作業を手伝った。
詳しい使い方はわからなくとも、取り付けるぐらいならできる。
「おい、誰か来るぞ!」
先ほどの戦いで足音に敏感になっていたジュリエッタの耳が、この部屋に向かって勢いよく走ってくる足音を拾い上げた。
「ステラ達か? それともロト達か?」
「いや、……これは!」
……バン!
ジュリエッタが剣を抜いた直後、先ほどユウ達が開いた扉が勢いよく開かれた。
現れたのは以前のループで指揮官のように振る舞っていた男。
味方からはサントスと呼ばれていたスキンヘッドだ。
「そこまでだ、背教者ども!」
ゴーストロッドに取り付けられた爆薬を見て状況を把握したサントスが良く通る声を上げた。
どうやら他に僧兵は連れてきていないらしい。
敵の襲撃を確認して慌ててこの部屋にやってきたといったところだろうか?
「パウロは作業を続けろ! 俺達で止めるぞ!」
ブレッドが剣を抜き、ソフィアも既に杖を構えて臨戦態勢だ。
ユウもそれに倣って剣を抜いた。
戦力比は四対一でこちらに分がある。
ユウを抜きにして考えても三対一だ。
「ふん、今度は手応えがあるといいがな」
ブレッドが怪訝な顔でサントスを睨みつけた。
二人の視点では互いに初対面ということになる。
しかしサントスがホーリーウインドの服装をしていることに加えてその体格の良さ、そして単騎で乗り込んできたことから、ブレッドはサントスがかなり手強い相手であると判断していた。
「手応え? ……どういうことだ?」
「つまり、……こういうことだ!」
警戒するブレッド達に対し、サントスは手に持っていた『何か』を乱暴に放り投げた。
それがちょうどユウの前に落ちて転がる。
(これは……。)
「ラプラス……?」
全員が思わず息を飲んだ。
ユウと同じレッドノート家の従者、ステラやリアと一緒に行動していたはずの少年、ラプラスの生首。
その目は両方共開かれており、定まらない視線がユウを見つめ返していた。




