40:切り札は取っておくもの
『女性の活躍、なんて言ってる連中がどうにも胡散臭くて仕方ない。……もちろんそいつ自身の性別に限らずな』
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「おいおい、嘘だろ?!」
直剣の男が叫ぶ。
エル・グリーゼが倍以上の人数で押しても一向に崩れる気配を見せなかったU&Bの五人。
その一人が乱入してきたハウルによってあっけなく首を飛ばされた。
動揺するU&B。
対するエル・グリーゼには光明が差した瞬間だった。
ダンッ!
曲剣の男が即座に反応した。
戦っていたステラとナルヴィの相手を放棄してハウルを狙う。
処理する敵の優先順位を判断した結果だ。
ステラが慌ててその後を追った。
「逃がすわけないでしょうが!」
ナルヴィも叫びながら追いかける。
だが相手の方が速い。
ステラは魔法で、ナルヴィも靴の付加効果で移動速度は上がっているのだが、それでも曲剣の男に追いつけない。
疲労で遅くなっている分を加味してもまだ敵の方が速いという事実がナルヴィを苛立たせた。
殺気を隠そうともせずに迫る敵をハウルも迎え撃つ。
「見逃してはくれないかね……」
ハウルは独り言を漏らした。
今度の相手の武器は曲剣。
杖の男よりも近接戦闘に長けているであろうことは想像に難くない。
相性の面では先ほどよりもよろしくない相手だ。
(後ろの二人との距離は一手分。上等だ、一撃で決めてやる)
曲剣の男は背後から迫るステラとナルヴィとの距離を冷静に観察した。
二人の邪魔なくハウルに攻撃を仕掛けられるのは最初の一回のみ。
先ほどまでの動きを見る限り、勝てそうに無い相手というほどでもないが、かと言ってそう容易な相手というわけでもない。
ということは相応のリスクを取らなければならないだろう。
――しくじれば死。
当然だ、それが戦いというものだろう。
曲剣の男は自分で自分を震え立たせた。
「ふん!」
体重を乗せて右手の剣を振り込む。
同時に左手の短剣を盾代わりに構えた。
ギィン! ブシュ!
「ぐっ!」
曲剣を自分の剣で受け止めたハウルだったが、当たり負けして押し込まれる。
左肩に痛みが走った。
心臓までは届いていないが、かなり大きな傷になったことは感覚ですぐにわかる。
「浅いか?!」
仕留めるつもりで放った一撃で思ったような効果が得られなかったことに舌打ちしつつ、曲剣の男は背後から迫るステラとナルヴィを迎え撃とうと体を反転させた。
左手の短剣でハウルを追撃したい衝動を押し殺す。
この位置関係なら味方を巻き込むような強力な魔法は使えないと踏んだ。
ドッ!
その代わり、自分が追撃を受けないように肩から剣を抜くと同時にハウルの腹を蹴り飛ばした。
腹筋を固めたハウルだったが、足元の準備は間に合わない。
吹き飛ばされて距離が開く。
再び曲剣の男がステラとナルヴィの二人に向き合う構図――。
ドスッ!
「――!」
ステラとナルヴィの目が見開かれる。
……そして曲剣の男の目も。
背中、そして左胸。
曲剣の男は痛みを感じた箇所を視界の下隅で確認した。
(剣……?)
曲剣の男の左胸。
そこからは刃が生えていた。
背後から心臓を貫かれたのだと瞬時に理解する。
(一体、誰が……?)
驚愕の表情で背後を振り向いた。
突き刺さった剣の角度から言えば候補は一人しかいない。
――だがこの威力は?
男が身につけているローブは魔法で強化してある。
鎧ほどではないとはいえ、半端な攻撃では心臓を貫くには至らないはずだ。
それが出来る位置にいた唯一の候補であるハウルは蹴り飛ばして体勢を崩したばかり……。
――では一体誰が?
曲剣の男の視界に入ったのはやはりハウルだけ。
だが彼の剣がその答えを示していた。
「マジック、アイテムか……」
ハウルが曲剣の男に向けていた剣、握った柄には刃がついていない。
「発射式さ。安物もたまには役に立つもんだ」
「そんなもの……、使ってるやつを初めて見た……、ぞ……」
その言葉を最後に曲剣の男は崩れ落ちた。
ステラとナルヴィは唖然とした表情で見ている。
杖の男に続いて曲剣の男までもやられたことで、U&Bの残り三人に緊張が走った。
「おいおい、冗談じゃねーぞ!」
そう言いながら、直剣の男がロトの顔面に蹴りを叩き込む。
「ロト!」
「お兄ちゃん!」
頭部への衝撃でロトの意識が飛んだ。
これで終わりだと言わんばかりに直剣が首を狙う。
ドッ!
ロトの命が刈り取られる寸前、ラプラスが直剣の男に横からタックルで突っ込んだ。
「このっ、死に損ないがっ!」
ドスッ!
「うっ!」
感情を代弁するかのように直剣がラプラスの背中に突き立てられ、更にグリグリと剣をねじ込まれる。
「ラプラス!」
リアが魔法で敵を引き離そうと杖を構えるも、ラプラスと重なって下手に撃つことができない。
(ラプラスを人質にするのも計算の内か!)
一見して冷静さを失ったように見える行動にも意図があるのだと、この時点で気がついた。
ピンポイントで敵の頭部を撃ち抜けるのならこの局面は好機でしか無いのだが……。
リアは自分の魔法の精度が不十分であることに歯噛みする。
――ラプラスごと敵を撃ち抜く覚悟は彼女には無い。
「こちらも、呑気に構えすぎたか」
悪化した状況を見て大鎌の男も動き出した。
彼は現在ブレッド、ソフィア、パウロの三人と相対している。
ブシュ!
「ぐっ!」
「ブレッド!」
状況の好転に油断したブレッドの太腿をすかさず大鎌で斬りつけた。
踏ん張りが効かなくなった彼はその場に崩れ落ちていく。
ブレッドは魔法を使えない。
つまり足を封じられた時点で戦闘能力をほとんど奪われたのと同義。
そして彼ら三人の中で大鎌の男を相手に前衛としての役割をこなせるのはブレッドのみ。
それとて後衛のソフィアとパウロの支援付きで辛うじてだ。
つまりはブレッドが倒れた時点で大鎌の男を押さえ込む人間がいなくなったということになる。
「これ以上負担が増えるとこちらも厳しいのでな、殺らせてもらおう」
大鎌を背負うように構えながら、男がソフィアに迫る。
攻撃能力で言えば彼女を上回るパウロを後回しにして、回復能力を持つ方を狙った。
エル・グリーゼには本職の治癒職がいない。
数少ない回復要員を失えば、状況は再びU&B側に傾くことになるだろう。
大鎌の男はそれを的確に見抜いていた。
「ソフィア! 逃げろ!」
ブレッドが叫ぶ。
だが彼女の足で逃げきれるわけがない。
ソフィア自身もそれを理解していたのか、覚悟を決めた顔で杖を構えた。
「アイスウォール!」
半透明の氷の壁がソフィアの前面を包み込むように囲む。
動じること無く突っ込む大鎌の男。
先程ハウルが杖の男を屠ったのとは逆の構図だ。
ソフィアの首が刎ねられるのを想像したブレッドの血の気が失せる。
男が飛ぶ。
そのまま氷の壁に駆け上がって大鎌を下に向かって縦に振り出した。
氷壁の展開されていない真後ろから、刃がソフィアの背中を狙う。
「ソフィア!」
ブレッドの叫びも虚しく、ソフィアは刃に貫かれた。
ガキンッ!
「――! この感触……、イリュージョンか!」
刃が肉を貫くのとは明らかに異なる音と共に大鎌の男の手元に伝わったのは固い氷の感触。
立ったままのソフィアは背中に刺さった刃に反応すること無く杖を構えた。
「フローズンコア」
ソフィアの冷たい声が氷の壁に反射して響く。
「これは! 足が……、離れん!」
大鎌の男が足場にした氷の壁が、冷気とともに男の両足を包み込んでいく。
引き離そうとしてもまったく動かない。
「格下相手だと油断したわね。これで終わりよ、アイスランス」
「――!」
氷の壁から発生した氷の槍が男に向かって何本も発射された。
至近距離から放たれた槍達は、ソフィアのそれまでの鬱憤を晴らすかのように容赦なく彼に殺到する。
ドドドドドッ!
血が、そして肉が飛び散る。
その途中で男の手から大鎌が落ちた。
攻撃が止んだ後、体中に風穴を開けた男の体が少しだけ動く。
「なるほど……。弱者と侮った……、これが報いか……」
最後の言葉とともに意識を手放した男の体が崩れ落ち、そして完全に動かなくなった。




