18:詐欺師の才能
『人は人を必要とする。だがそれが誰でもいいというケースは稀だ』
★
アナスタシアと別れた後、ユウは周囲を警戒しながらサブアジトに戻った。
特にこれ以上外でやることは思いつかない。
念のために遠回りして尾行されていないか背後を確認する。
(尾行されていないのか、単に俺が気づいていないのか。それが問題だ。)
悩んでも仕方が無いのでそのままサブアジトに入った。
ちなみに結論を言えば尾行はされていない。
ナルヴィとダリアにクリスティの三人が遅めの昼食を取りながらプチ女子会を開催していた。
こんな生活を続けていく上では彼女達にも精神的な潤いが必要だろう。
ユウがステラとの時間を楽しみにしているのと同じことだ。
盛り上がる三人の邪魔をしないように注意しながら横を通り過ぎて自分の部屋に戻る。
テーブルの上に置いておいた時計の時間を確認すると、針は既に十三時半を指していた。
(そろそろ頃合いか。)
心臓の鼓動が一段大きくなったのがわかった。
自分の部屋の窓の鉄格子を確認してから部屋を出る。
まずはステラからだ。
隣の部屋にいってからドアをノックして反応を待つ。
ノックの回数は四回にしてみた、特に理由はない。
少ししてドアが開いてステラが顔を出す。
「ユウくん、どうしたの?」
ユウにはステラが自分の訪問を内心喜びつつもそれを隠そうとしているように見えた。
そのことに頬が緩みそうになるのを慌てて我慢する。
このまま彼女を連れて逃げ出したい衝動に駆られたが、それでは根本的な解決にならないことはわかりきっている。
「さっき街を見てきたんだけど、今日の夜ぐらいにまた何か起こりそうなんだ。もしかしたらここも襲われるかもしれない。」
「え? うそ……」
聞いた瞬間にステラの顔色が変わる。
色で言えばピンクから青にだ。
もしかしたらというか、襲われるのはピンポイントでこの場所だったりするのだがそれは言わない。
「でもどうしよう、それがホントなら急がないと」
この時点ではユウの話には根拠も詳細もないのだが、ステラは即座に行動しなければならないという結論に達した。
前日もユウのアドバイスでエル・グリーゼは難を逃れているからだ。
それに加えてもう一つの理由もある。
「ステラはみんなを集めてくれる?俺は先にブレッド達に話してくるから。」
「うん、わかった」
やけに話が早いのは自分に対する好感度が上がったからだろうかとユウはほくそ笑む。
ステラがエル・グリーゼのメンバーを集めに行ったのを見送ってから、ユウはブレッドの部屋へと向かった。
リーダーであるブレッドはサブリーダーのソフィアと一緒の部屋だ。
男女が相部屋になっているのはこの二人だけ。
(リア充の香りがプンプンするぜ!)
ユウは二人がお取込み中でないことを祈りながらドアをノックした。
ノックはもちろん三回だ。
幸いにして中から嬌声が聞こえては来ない。
「あら、どうしたの?」
顔を出したのはソフィアだった。
扉の奥ではブレッドが剣の手入れをしている。
「ちょっと急ぎで相談。街で今起こってる連続生贄殺人絡みでどうも女神教が今夜大規模に動くみたいなんだ。もしかしたらこっちにも来るかもしれないからどうしようかと思って。」
ユウはできるだけ簡潔になるように心掛けたが、こういうのには慣れていないせいかイマイチな感じになってしまった。
もう少しスマートな感じでいくつもりだったユウは内心で自分の本番の弱さを嘆く。
元々コミュ障気味だった割には上出来なんだと自分で自分を慰めた。
とはいえ女子力の高いソフィアにはしっかりと伝わったらしく、ユウの言葉を聞いた彼女の顔色は即座に変わった。
(あれ? もしかしてステラがすぐに動いてくれたのって……。)
自分への好感度が上がったからではなくて単に女子力が高かっただけではないかとユウは少し不安になった。
奥にいたブレッドが何事かとこちらを見ている。
ソフィアが振り向いて今夜も一騒動あるかもしれないことを伝えると、こちらも目の色を変えた。
組織を預かる人間としては妥当な反応だ。
幸いなことにメンバー全員がサブアジト内にいたので即座に作戦会議が収集された。
先にステラが動いてくれていたおかげですぐに全員が倉庫の中央に集まった。
さっきまでプチ女子会を開催していた三人も今は真剣な表情だ。
「それで? ステラはまた今夜も一戦あるかもって言ってたけど?」
女子会を中断されたせいかナルヴィが不機嫌だ。
「何? もしかしてここもやばい感じ?」
同じく女子会に参加していたクリスティは不安な感じだ。
「はあ、彼氏欲しいなぁ……。お兄ちゃんを消せばできるかなぁ?」
(――! 彼氏だと!)
ダリアは別の意味で不安な感じだ。
というか彼氏という単語に反応するなシスコン。
お前、妹に消されそうになってるぞ?
「ユウ、詳しく話してくれ」
ブレッドの一言で周囲の注目がユウに集まる。
さて、ここからは再びハッタリの時間だ。
「さっき街に出てきたんだけど、女神教の連中が話してるのを偶然聞いたんだ。街で起こってる連続生贄殺人事件、あれの犯人達を今夜襲撃するつもりらしい。直接こっちを狙ってるわけじゃないみたいだけど、もしかしたら飛び火してくるかもしれない。」
「本当なのか?」
シスコ……、ロトが訝しむ。
もちろんこれはユウの創作だ。
女神教が生贄殺人事件の犯人を襲撃すると言うのは、前回のループでアナスタシアから聞いた話をベースにしている。
(そういえばこの話は今回出なかったな。)
ユウが無難な話になるように心掛けていたのがその理由だが、もしかしてこれが襲撃のフラグだったのではないかと少し不安になった。
ここまで言っておいて何も起こらなかったらそれはそれで恥ずかしい。
襲撃自体は発生した上でこちらには来ないというのがベストだ。
「もちろん本当かどうかはわからないさ。でも本当だったらまずいだろ?」
「まあな」
シスコ……、ロトはあっさりと納得した。
ユウの言っていることが完全に的外れというわけでもないので異論は出ない。
「リア達への連絡はもうしたのか? 一応お前が連絡役ってことになってるけど」
「……あ。」
ブレッドの言葉でユウは自分がここにいる口実を思い出した。
外に出たならついでにリア達の所にも行っておくんだったと後悔する。
こういうときはなんだか非常に損した気分になるから不思議だ。
「これから行ってくるよ。終わったら戻ってくるから、ここを守る準備の方よろしく。」
今夜は徹夜で警戒するということになったのを確認してから、ユウは興醒めした気分でレッドノート邸に向かった。




