8:奇襲
『天は他力本願の者に救いの手を差し伸べようとはしない。……そうでなくとも差し伸べられたことなど一度も無いのだが』
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ロトが建物の影からそっと敵の様子を確認した。
視界の奥の方には白地に青と金の入った服装に集団が固まっている。
間違いなくホーリーウインドだ。
どうやら本隊は一箇所に集まって待機しているらしく、距離は約百メイル程度。
(まだ見張りがやられたのには気づいてないみたいだな)
ロトは背後のソフィアを振り返って頷いた。
それを見た彼女が他の魔法使い三人に目で合図をする。
リアが赤い宝玉のついた銀色の片手杖を、ダリアが彼女の身長ほどもある羽飾りのついた両手杖を、パウロが飾り気のない金属製の片手杖を構えてそれに答えた。
その様子を見てラプラスも静かに剣を抜く。
ユウも慌ててそれに続いた。
「いくわよ。一番強力なやつね?」
ソフィアの小声を合図に四人が一斉に建物の影から飛び出して詠唱を始めた。
ロトもいつの間にか数本の矢を矢筒から抜いて弓を構えている。
「風よ、無数の刃となりて我が敵を切り裂け! ウインドハリケーン!」
「炎よ! 悪しき敵を貫け! フレイムノヴァ!」
「大気の精霊よ、大地に罪人の血を与えよ! アイシクルパニッシャー!」
「轟け雷鳴! サンダースウォーム!」
ソフィアの放った無数の風の刃が、パウロの放った熱線が、リアの放った氷槍の雨が、ダリアの放った無数の雷撃弾が油断していた敵の一団に殺到した。
ザシュザシュザシュ! ドンッ! ドドドドドッ! バヂバヂヂヂヂッ!
「すげぇ……。」
ド派手な視覚効果と大音量。
大破壊を引き起こした魔法の威力にユウは唖然とする。
同時にこれでは暗殺に使えないわけだと納得もした。
いくらなんでも目立ちすぎる。
「なんだっ!」
「敵襲! 敵襲!」
舞い上がった土煙の中から敵の声が複数聞こえてくる。
あの攻撃で生き残った奴がいたのかとユウは驚いた。
「みなさん! 散開です!」
リーダー格の少女の声の後で土煙の中から何人もの男達が出てきた。
どうやら彼女も難を逃れたらしい。
「いたぞ! あそこだ! ――ぐっ!」
出てきた男達にロトが容赦なく射掛ける。
最初に煙の中から出てきた男の腕に矢が命中した。
「なん、だ? 体が……」
腕に矢を受けた男がふらついて倒れる。
「どうした?! ちっ、即効性の毒か!」
近くにいた男が倒れた男の様子を確認したが、自分にできることはないと判断したのかすぐに離れた。
「数を減らすわよ?! ブレッド達には当てないようにね! エアカッター!」
ソフィアが再び風の刃を放った。
今度は数が一つしかないが、その代わりにさっきよりも大きい。
「なんの!」
射線上にいた数人の男達が難なく回避していく。
最初の奇襲こそまともに食らったとはいえ仮にもエリート部隊、そう容易くはない。
ソフィアの魔法で土煙が晴れる。
倒れているのは十人強。
ユウはほぼ壊滅しただろうと思っていたのだが、敵に与えた被害は思ったよりもかなり小さかった。
「突撃です! 魔法使いは援護を!」
「おう!!」
指揮官の号令で残った男達の半数ほどが武器を構えてユウ達の方向に駆け出す。
その場に残った男の一人は杖を取り出した。
「アイスバレット!」
「ファイアボール!」
敵の魔法使いが放った氷の塊をパウロが即座に炎の玉で撃ち落とす。
「来るぞ! アイスブレイド!」
リアが魔法で杖に氷の刃を発生させて構えた。
ラプラスもその一歩前に出て剣を構える。
彼女とその近くにいるソフィアを守るつもりのようだ。
手に持っていた矢を放ったロトもダガーを取り出してダリアの前に出た。
「ユウ! お前はパウロを!」
「わかった!」
ロトの言葉にユウの足が震える。
だが動けないというほどでもない。
ここまで一方的な負けばかりとはいえ、それなりに死線を経験した影響がいい方向に出始めていた。
ゲームで言えば経験値を得てレベルが上ったというところだろうか。
剣を構えてパウロの前に出る。
これでパウロが美少女だったらユウのモチベーション的にも完璧だったのだが、そこまで言うのは流石に酷だろう。
「オラァ!」
先陣を切った男がモーニングスターをラプラスに向けて力いっぱい振り下ろす。
ラプラスは紙一重で横に避けながら剣を突き出した。
相手はそれをバックステップで回避する。
入れ替わりに剣を上段に構えた男が突っ込んできた。
ラプラスは振り下ろされる剣を自分の剣で受け止めようとするも間に合いそうにない。
(くそっ!)
「ラプラス!」
キィン!
ラプラスの代わりにリアが氷の刃を割り込ませて敵の剣を受け止める。
相手が一瞬動揺した隙にラプラスは前蹴りで敵の胴体を蹴り飛ばした。
「すみません!」
「気にするな!」
リアに礼を言ってから再び剣を構えて追撃の構えを見せるラプラス。
「下がって! エアハンマー!」
「――!!」
ドンッ!
「ぐっ!」
ラプラスの前蹴りで崩した体勢から復帰しようとしていた敵に、ソフィアが近距離から空気の塊を叩き込む。
男は衝撃をまともに食らってそのまま十メイル以上後ろにふっ飛ばされた。
その横では両手にナイフを持った男がロトに襲い掛かる。
リーチではダガーを使うロトが若干有利とはいえ、速さと手数では分が悪い。
体術も組み合わせて使う相手に防戦一方だ。
仲間がロトを足止めしたのを確認してから、今度は剣を持った男がダリアに仕掛ける。
ギィン!
「くっ!」
「ダリア!」
かろうじて杖で振り下ろされた剣を受け止めるも、相手のスピードについていくのがやっとだ。
「エレクトロウォール!」
「――ちっ!」
ダリアは周囲に雷の壁を張った。
本来は周囲の敵をまとめて攻撃する魔法なのだが、雷撃への耐性を持たない相手への牽制としても使える。
彼女の技量ではあまり広範囲に壁を展開することができないので、主に敵を遠ざけるために使用していた。
即座に反応した敵は雷撃の発生した領域からバックステップで脱出する。
だが左手が間に合わずに焼かれた。
苦戦するロト達の横ではさらに二人がユウとパウロに仕掛ける。
一人は副官の青髪の少年だ。
「さっさと決める!」
走りこんだ勢いのままユウに向かって袈裟斬りに剣を振り下ろす。
ユウは慌ててそれを自分の剣で受け止めた。
ギィン!
(うわっ!)
体重を乗せた攻撃で一気に押し込まれる。
青髪の少年の体重が軽かったおかげか、刃はユウに届くギリギリで止まった。
自分の攻撃が止められたと見るや、青髪の少年を体を横に回して回転斬りを仕掛けた。
ユウは自分の身を守ろうと必死に剣を構える。
ギィン!
甲高い金属音を響かせながら、今度も辛うじて受け止める事ができた。
しかし完全に防戦一方だ。
その間に曲刀を構えた男がユウの横をすり抜けてパウロを強襲する。
ユウにそれを止める余裕などある訳がない。
キンッ、キィン!
パウロは敵の曲刀を杖で受けた。
金属製なのでそう簡単に折られることはないだろう。
「フレイムタン!」
さらに杖の先端から炎の刃を発生させて反撃を試みる。
敵はそれを避けながらさらに攻撃を続けてきた。
至近距離での斬り合い。
リアの氷の刃とは違って刃の部分で敵の攻撃を受け止めることはできないからか、少し防御が苦しい。
パウロが本職の剣士ではないということもあるだろう。
「ブレッド達はまだなの?!」
ソフィアが叫ぶ。
味方が巻き添えになるのを恐れてるのか、敵から飛んでくる魔法は散発的になっている。
だがそれでもユウ達魔法組は防戦一方だ。
――このままではやられるのも時間の問題。
前衛組がどのタイミングで参戦してくれるのか、それが勝敗を分ける鍵となっていた。




