とりあえず冒険者になる話
王に街に出るといったら、護衛をつけるといわれた。
だが、結構調子に乗ってる俺らはいらないと言った。
「なにせ、アタシらぁ神の御加護持ってるしなァ!」
「ええ、私も貰いましたし♬」
「吾輩も、恥ずかしながら頂いたぞ」
街中を民衆に見られながら、和気あいあいと一行は進む。
この人たち、すごい元気でよかったです。
どうも話を聞く限りだと、みんな、何かしらの能力は貰ってるみたいだな。
街の様子は、活気づいている。
王国の首都、城下町だし、活気づいているのだろう。それに、国中に喧伝されたらしく、「救国の英雄ご一行」は意外に、存在を認知されていた。
やはりお触れでも出てたのだろうし、噂でも広まったのだろう。
それで、町中の人が見物に来たのかもしれない。
まぁ、中世ヨーロッパの、ごく普通の服とズボンで往来する民衆の中に、
和服で酒瓶と長ドスを抱える美少女。
スーツでびっしり決めたサラリーマン。
2メートルを優に超える二足歩行ドラゴン。
そして、羊飼い用のマントに、この世界のズボンをはいた俺。
目立つ!激しく目立つ!!
危ないこともあるかもしれないから、目立たないようにって王様に言われたけど。
これ絶対無理だよね!あと王様のお母さん感、半端ない。
とりあえず無駄な努力と分かっていても、それでも頑張りながら、みんなでこそこそしながら、ギルドを聞き、訪れる。
大広間の周りを囲うように、ギルドが立ち並ぶ。
冒険者ギルドは、横の商館ギルドやら、他のギルドと並んで、大きくそびえる門構えのしっかりした建物で、繁栄しているような雰囲気を感じた。
冒険者ギルドは、どうも各国にあるようだ。
国ごとで、別々になってはいたり、色々と仕組みは変わるが、ほぼ同じ。全世界冒険者ギルドが運営しているらしい。
「ここが冒険者ギルドですか!」
田中さん、少しテンションが上がっている。会社のことなどで気が動転していたようだが、異世界転生で、女神から能力を付与されたとあれば、テンションも上がってくるだろうし
「私、こういうの少し憧れていたんですよ!異世界に来て、冒険者とか勇者になること!」
まぶしい、なんかキラキラしてる。
レストも、冒険者ギルドは若いころを思い出すと言っていた。
それは291歳だしな。ドラゴンにしては若い方だけど、他の二人なんか、妖怪か!とか言ってたしな。騎士になる前は武者修行で、冒険者もしていたみたいだ。
ギルドに入る。
「たのもううううう!!!!」
「はしゃぐな」
ゴンッと左衛門の頭上に一発落とす。どこの世界にギルドに道場破りみたいに乗り込むバカがいるんだ。
ここにいた。
「なんでだ・・・いてぇ」
「だから言っただろう、俺たちはお願いをしに来ているんだから、お前、抜刀しながら乗り込むやつがいるか」
左衛門はしぶしぶ刀を収める。どこの戦闘狂だよ。
と、レストと田中さんがしずしずと受け付けに歩み出て、何やら話始める。そして、なんか盛り上がってる。おいてかれてる。
「んなことより行くぞ左衛門!」
「あたぼうよ!」
受付では、二人がギルドでの、冒険者申請のために能力やステータスの確認作業に入っていた。王から、連絡が行っていたのか、スムーズに確認に入る。
個人の能力が魔力数値に表示される仕組みのようだ。受付のエルフっぽいおねぇさんが手元の板を眺めている。どうやら、田中さんの能力を計測しているようだ。
「こ、これは!!と、とんでもない!!」
「ふふん」
田中さんは自慢げだが、大丈夫か、あまり悪目立ちすると、かえって冒険者ギルドに眼をつけられかねないし、王様も、そこを危惧していたが。
「体力数値が・・・Sのようです。それも、ただのSではない・・・魔力がほぼないSです。」
あんた、神に何をお願いしたんだよ。ギルド大騒ぎじゃねぇか。
どんな体になってんだ。魔力ほぼないってどういうことだ。あとでしっかり聞かなきゃな。
ざわめきの中で、レストが測る。またエルフの受付嬢の顔が驚愕に染まった。
「こ、これは、戦士としてもA、Bランクなのに、回復術士としてSランク!?ど、どういうことですか!?」
どういうことですか、それ。戦うゴッドハンドドクターな設定になってるじゃねぇか。
これもあとでしっかり聞く必要がある。
そして、左衛門の番である。
「ふっふっふ、、アタシぁ、どのくれぇになってるかねぇ!」
結果。
俺と左衛門はBランク。
「なんでなんでぇ!?なんでなんでぇ!?」
「落ち着きましょう、さえちゃん。ほら、元気出して」
「うるせェ、えすらんく!えすってすげぇんだろう!?」
「まぁ、強者ですけどね(どや顔)」
「くっそおおおおお!!」
レストがつかつかと歩み寄る。
「吾輩よりもランクが下とはどういうことか、ケンジ殿。貴殿、古強者と申されたではないか。あれは嘘であったのか?」
俺は小声でこう告げる。
「ここの魔法は、体の中に魔力を溜め、そして魔法を生成する。俺のは、体外にある魔力をいじって魔法にする。だから仕組みが違うんだよ。体力やらなんやらは、魔力で封じてるから、ランクもこの通り、普通よりちょっと強いぐらいだ」
「なるほど、わざとですか」
「ああ、わざとだ(どや顔)」
あと、魔力計測にも細工を施しておいた。
恐らく俺の見立てだと、俺が普通に計測したら、ギャル神から力を授かったあの3人のランクやステータスを、ぶっちぎりで、抜いてしまう。
とは、ならないようにしたのだ。それに、悪目立ちもしすぎない方が良い。
4人が冒険者ギルドでSランク以上であるとなると、国のなかから、外から利用とするもの陰謀が渦巻くことになる。
ただ左衛門のBランクは意外だったが。
俺たちはとりあえず、ギルド認証カードを受け取る。
どうもこれで、クエストの申請や討伐の管理をするらしい。いつも思うが、魔法ってハイテクだよな。
さて、これで一通りの受付は終わった。
俺は、王様には止められていたが、クエスト(依頼)を一つ、みんなで受けようかと考え、
「ちょっと、依頼でも受けて、色々と、試そうぜ、みん・・・・な・・」
レストは筋骨隆々とした冒険者に囲まれていた。
田中さんと泣きわめく左衛門は、連れ立って食堂に入る所だった。
俺は肩を落としながらボッチでクエストを受注手続に行った。
というわけで俺は一人でクエストを受けることにした。
別にボッチは悲しくないもん!
これまでだって数えきれないほど、一人ぼっちで戦ってきたもん!
・・・・・うっ、胸に寂しさが響く。
まぁ、簡単なクエストを一人でちょろっと受けるぐらい、別にいいだろう。
俺、結構強いし。
そう、その慢心が、不運を呼び込むとは、調子に乗っているこの時の俺は、想像すらしていなかったのである。