救国のポンコツども
調子に乗ってる主人公、生暖かい目で見てやってください。
翌朝、歯磨きやら洗顔やら色々と身支度を終える。
用意してもらった服に着替えた。ここの服はやはり、王城だからか、上質な絹を使っているようだったが、それに身を包んで、部屋の外に出る。
朝食会場まで、兵士に案内される。
城の中は華美とはいかないまでも、洗練された美しさを持っており、シャンデリアなども美しかった。窓から見える王国の景色は、昨晩、真っ暗で見えなかったが、朝の光に照らされ中世ヨーロッパの街並みがよく見える。
城からもよく見えることで、城壁の低さとこの城の、防戦対策の低さから、長年の平和が理解できた。朝なので、人々も動き出しているようで活気あふれる声もする。
のどかだ。
そして優雅だ。
こんな朝もいいかもしれない
「ぎゃああああああああああああああああ!!!斬られてぇのか!!!」
「ごぎゃああああああああさわんじゃねぇえええええ頭いてえええええええ叩き斬るぞぉおおおおお!!!」
俺はぶすくれた。声のした方に向かう。
少女が部屋の前で暴れてる。刀振り回して。
俺は近づく。一瞬で。
「ふえ?あ、日本のジジイ」
ゴンッと頭にゲンコツを進呈する。
「いだっ!」
「ガキのクセに二日酔いにかまかけて騒ぐんじゃねぇ!品位がねぇぞ!あと俺は兄さんと呼べ」
「う、う、うるせぇくそジジイ!あたしァ下町生まれでぇ、こんなわけのわからねェような南蛮の城なんざ連れてこられてどうしろってんだい!上品すぎてへどが出らァ!酒飲むしかねぇだろうよ!誰も説明もしてくんねぇだぞ?」
「昨日、散々、王様が説明してたろうよ、アホかよ」
「う、うるせぇクソジジイ!酔っててよく覚えてねェ、あ、頭いてえええええええ」
「すまねぇが、水を持って来てくれるか。そこの兵士さん。ほら、とりあえず朝飯だ。ションベンガキ。くそジジイと呼んだこと、後悔させてやるからな。」
俺は微笑みを浮かべながらすごむ。頭を押さえながら、少女はこれからのことを不安に考えた。
改めて朝食も終え、一同、冷静になったところで自己紹介と顛末、そしてこれからの相談を始めた。
まずは大暴れ刀剣少女。
名を清水三郎左衛門。お江戸浅草生まれの浅草育ち、年は恐らく16,7歳。どうも、江戸時代から飛ばされて来たらしいが、酒飲みの博徒一家の娘なようで、祖父の形見である白木の鞘の長刀、いわゆる長ドスを抱えている。
あと、顔は美少女。うん、カワイイ。酒飲むと暴れる。酒乱。
身長は、俺より少し低いくらい。
この面妖な世界はなんだと、パニックになってたが、そろそろ落ち着いて、ここが地獄でも天国でもない事をようやく悟った。
次に泣きわめきサラリーマン。
名は田中結。岡山のブラック企業から広島のブラック企業に転職した社畜戦士。
どうも年を聞くと29歳の、俺のいた時代からすこし後から来たようだ。
スマホ知ってる人間が、俺しかいないから、めっちゃ話しかけられる。あと、29歳に見えない。
普通に童顔、っていうか、綺麗な顔してる。男ですかって聞くのも悪いかなって思えて、とりあえず聞いてない。身長は、俺より少し高いくらい。
そして、優雅な二足歩行ドラゴン。
レスト。名前長すぎるので、もうレスト。王族付き騎士として、鍛えられた肉体と、落ち着いた物腰。
一番の便りどころになる。そして優しい。めちゃめちゃ優しい。紳士すぎる。
あと身長も体重も、俺よりはるかにデカい。2メートルくらいか?
最後に俺。自己紹介がてら、みなに紹介する。神にはちょっとイジワルして秘密にするが、これから協力する人間には情報を開示しちゃう。個人情報ガバガバとか言わないで。
「俺はアイダケンジ。神田生まれの江戸っ子であり」
「なんだってェ!?」
「落ち着け左衛門。それで、まぁ、東京生まれ東京育ちの大学2年生だったわけだが、」
「いいなぁ、東京っ子」
「・・・はい。いや岡山もいいとこだろ・・えと、それでな、異世界に転移すること20余回。」
「「「は!?」」」
「いや、異世界転移、20何回かして、それで」
「ちょ、ちょっと待って、ど、どういうことですか?」
田中さんがめっちゃ、慌ててる。あわてんぼうさんかよ。可愛いな、田中さん。いや、俺に男好きな趣味はないから!でも、本当に男なのか?こんなに可愛いのに?これなら男でも、いや、待って脱線した。
「まぁ、運が悪かったんだろうな。俺は異世界転生、異世界転移を20回ぐらいしたわけだ。」
そう、俺、アイダケンジは運と神に見放されし、悪運の強者。その悪運は神さえも同情した。特にあの、魔人の異世界に飛ばされた時の、あの神、名前なんて言ったっけな。すっごい哀れむような眼で、「カワイソ」って言ったの、あれ忘れてねぇからな。
まぁ、行く先々で不運に見舞われ、異世界転移も無理やり、ほぼ偶然によって繰り返された。落ち着いて、この世界で結婚して暮らしていこうとした時もあった。
だが、すぐにほかの世界に飛ばされる。
そんな中で、ようやくあの世界でのんびり羊飼いとして暮らしていけていたのに。あの世界で出来た妹、愛すべき妹と静かに暮らそうかと、腰を落ち着けたのに!
「で、では、あの勇者とか、も、やったことあるんですか?」
「ああ、何回か」
「す、すごい!」
あ、田中さんに褒められると結構まんざらでもない。だって綺麗だし。声も可愛い感じだし。
まぁ、そんなわけで、行く先々で能力を付与されたり、体力なんかも、色々といじられて、今現在、自分がどのくらいの力なのか分からないし、はっきり言えば。
忘れてしまった魔法とか、もあるし・・
それで、混乱を避けるために、あのギャル女神から、なにも貰わなかったわけだ。
これ以上増えても困る。
だが、そうなると疑問もあるはずだ。
「それほど魔法が備わっていれば、どうして召喚陣を消せないのかね?」
レストが問う。
「それももっともなんだが、召喚魔法は、召喚している側にいれば、封じたり止めたりできるんだが、呼び出される方は、すでに呼び出される魔法が構築されていて、何もできないんだ。これが、召喚の迷惑なところなんだがな。」
「なるほどな・・・それで、ケンジ殿は、何回もそういう目に遭っているわけだな?」
「ああ」
「だけどよぉ、そんな伝説みたいな兄さんがぁよ、神の力とやらを超えるこたぁねぇのかよ?もう神よりつえぇんじゃねぇの?」
案外、左衛門、バカに見えて賢いのかもしれない。話を聞いて予測出来てる。
「そこがな、この世の不条理でな。例えば、この世界の女神いるだろ」
「あ、ギャルJK」
「それ、田中さん、それ。あいつの力以上にはならないようになってる。」
「それは吾輩も気になるところだ。なぜだ」
「え、ま、まぁ、それはそうなっているからな・・」
いかにベラベラとしゃべろうと、ここの詳しいことについては言えない。
それは、絶対の秘密がある。
これを知る者は、命を賭けなければいけない。
そんな重荷を、こいつらに背負わすわけにいかないしな。
「と、いうわけで、とりあえず俺たちは、ここに泊まってウダウダするよりも、街に出て、ほら、色々とギルドに申請したり、することがあるからな。さっさと行くぞ」
「王様に頼むのはダメなんですかね?そういうの」
「うーん、ありっちゃありだが、お高い英雄様止まりになって、直接的に民を救いづらくなるかもなァ、立場的に。ここは、いっそ、街に溶け込んじゃった方が良いんじゃないか。多分、向こうも興味津々で、お触れも出ているだろうし」
というわけで、4人組、連れ立って街に出ることになった。
だが、これがポンコツ珍道中ご一行になるとは、この時誰も予想していなかったのである。
もちろん俺も。