救国の英雄たち
もう登場からすでにあらぶってるというより、調子の乗ってる系ですね。
転移した先はどこかの城の大広間らしき場所だった。目に飛び込んできたのは入れ歯が外れた老魔術師で、
「あ・・あがぁ・・ああああがぁ」
ポト、と入れ歯が落ちた
とりあえず見なかったことにして、周りに眼をやる
さっきの女神の話の通り、魔法騎士団が勢ぞろいしており、王様らしき人が広間の奥の玉座に座っている姿も見える。俺は少し、俺を呼んだという少女の姿を探した
「いねぇな・・・」
と、いきなり老魔術師が俺の服のすそをつかみ、叫びだした
「救国の英雄様ぁ、た、助けてくださいませェ!!!我が国の、危機をお救い下され!」
歯がないはずなのに、と俺は静かに語りかける
「あんた、この国の最高魔導士っぽい顔してるな」
「・・・・ふぇ!?」
そ、そうですが、と老魔術師はあっけにとられた
そして俺は聞く
「なんで入れ歯なんだ?歯作れるだろ」
「入れ歯を作ってくれた妻の遺言です」
「すいませんした」
老魔術師は深く微笑みを浮かべながらうなずいた
「分かっていただけたら良いのです」
「まぁ、冗談はここまでにして」
「待ってください、私の涙必至の入れ歯のエピソードを冗談で済まそうとしてませんか!?」
「えーと、そこの王様っぽい人?」
「まって私を無視しないで魔術騎士団の管理者私だから」
老魔術師が涙を流しながら何か言っているが、無視する
部外者を決め込んでいたような王様が、声をかけるタイミングをずらされて泡を食ったような顔でふぁい!?とか奇声を上げた
「王様、説明お願い」
「いや、さっきからなんでこう、態度がデカいものが多いのじゃ・・・ご、ごふん。まぁ、はい。えー、さて、救国の英雄よ、わが国は窮地に立たされているのじゃ。わが国では、数々の侵略、反乱、疫病に悩まされていての。そいて、数ある魔法騎士、騎士団、豪傑たちが戦火の中に散って行ったしまったのじゃ。今、わが国は疲弊し、そして、国民はみな、平和を願い、そしt」
「あ、そういうのいいです」
「説明しろって言うたじゃろ!」
「しょうがないな、いいよ」
「いいんかい!なんで止めたのじゃ!」
ここの国はノリが良いことがわかった。あと、色々と分かったことがある
まずあの可愛い打算女神が言っていた事と、この、太った王の言っていることを合わせれば、この何チャラ王国は、諸国の侵略、魔族の侵入、反乱や飢饉など、未曽有の危機に瀕している。その危機に対応するために、召喚魔術を使用し、国の再起を平和のために、救国の英雄を呼んだ。そして、英雄には、英気を養ってもらい、この国の平和維持活動、はっきり言えば反乱をおさえ、騎士団を率いて他国の侵略戦争で一騎当千の活躍をして欲しい。そのための報酬や、その他もろもろは王国側が世話をすると。
「つまり、俺に国のために戦え、ってことか?」
「そういうことじゃ」
王はゆっくりと首を縦に振る。
「でもな、俺はこの国に恩があるわけじゃないぞ。むしろ、無理やり呼ばれた側だ」
「それについては申し訳ない事をしたの思うておる。じゃが、国の危機、民の危機なのじゃ」
頼む、と王は頭を下げた
「頭上げてくれ、王。王はそういうことをするもんじゃない」
「よいのじゃ。民のためならなんだってするのじゃから」
「いや、そうじゃなくて、頭下げるとハゲが目立つ」
「おいこらぶん殴られたいんじゃな?」
「気にすんな、ハゲ王」
「処刑していいか、アヤツ処刑してもよいのじゃろ?」
俺は、異世界に転生したあげく、もとの世界に帰るためには、王様の頼み事を断れない事に改めて気づき、渋々ながら、頼みを聞くことにした。
そして、話がひと段落ついたところで、控えていた老魔術師がこういった。
「それでは、他の救国の英雄様の方々とも、ご対面を」
「おい他にもいんのかよ」
「ええ、あと3人ほど」
マジか、合わせて4人か。4人も呼ばれていたのか、この世界。
「救国の英雄も一人じゃないんだな」
しみじみと考え、これからのことを考える。
さっさと仕事を終わらせ、この国を安定させ、俺はもといた世界に戻るためにも。
多分、協力し合わないといけない他の英雄たちが、変な奴らじゃない事を祈った
俺は英雄が集う部屋に連れていかれた。
召喚が行われたのが城の中であったため、城の部屋に通される。
一人の兵士が扉を開こうとする。だが、その手は震えていた。
俺は問う
「どうしたんだい、開けないのかい?」
「あ、いえ、はい、では」
兵士は恐る恐るドアを開ける。そして部屋が開かれた
結論。俺は扉を閉じた
「待って待って、え、なにあれ」
整理したい。まず部屋にいた、恐らく召喚された3人
一人、酒らしきものを抱え、白木の鞘の長刀を抱えて喚き散らす、まだ年端も行かない少女
一人、スマホがつながらない、取引先との会談に遅れると泣き崩れているサラリーマン
一人、優雅にお茶を飲み、椅子に足を組んで腰かけているドラゴン
帰りたい、今ものすごく帰りたい。もとの世界に戻してって、神に祈りたい。全員クセしかない、くせ者以外の何ものでもない。無事にすべてが片付く未来が見えない
「こいつぁ、大変だわ」
閉めた扉の前で、隣の兵士は激しくうなずく
「もう、こちらの世界に来られてから数時間しか経ってないのに、あの有様。我が当番兵士たちは、もう、心労で死にそうです!」
「だろうねぇ、大騒ぎだもんねぇ」
心底同情した
だが、このままってわけにもいかないのでとりあえず自己紹介をしながら、ここは部屋に入って、和やかな雰囲気を醸し出しつつ、友好的な感じで
「どうもー・・・」
「なんでぇ、こいつぁ、くせ者じゃねぇか!!アタシに斬られてぇのか!?あ、日本人!?」
豪華な机の上で少女が酒瓶を振り回しながら、わめき散らす。刀もそろそろ抜きそう。
「がいじゃああぐいびになづうううう(会社首なる)どうじぼおおお(どうしよう)ばあ!?(あ!?)にぼんじいいいいん?(日本人?)」
端麗な模様の大理石の床の上で泣き叫ぶサラリーマンが救世主でも見つけたかのような顔をする。
「おや、あなたも召喚されたのですか?初めまして、吾輩、ヱンダレル第三帝国ガリエル家付き騎士グリュールスエル・ファファニールスタングレン・アバンチュー・レストでございます。レスト、とお呼びくださいませ」
ドラゴンが優雅に椅子から立って、そのまま流麗に挨拶をする。
「ごめんなさい俺も結構無理です」
俺は隣の兵士にそう言うと、その場に突っ立ったまま、天井を仰いだ。
もう夜だった。
そのうちに王主催の晩餐会が行われることになり、俺たち一行は、食堂に通された。途中、酔った少女が刀を振り回し、サラリーマンがスマホを片手に振り回し、ドラゴンはおろおろしていて、俺は発狂寸前であったが、何とか食堂に一同が集まる。
大騒ぎしながら飯をむさぼり食らい(この表現しかできない)そして、疲れ切った各々は自己紹介や相談しあう前に、個室で就寝した。
俺は寝る前に考える。
あの世界に置いてきた、我が妹の事。いや一人っ子だけど。
いやいいじゃん。異世界で妹作ったっていいじゃん。心配なんだよ、あの子。大丈夫かな。いや、隣の家のガウスばあさんがきっと面倒見てくれると思うし、一応、国からの保護も過保護なくらい受けてるし。
心配はないと思うんだが、と俺はそのまま上質なベッドの眠りの中に沈んでいった。