1章 死神との出会い
1 魔導元
俺は夢を見ているのか…そう思った。高校からの帰り道で普通に歩いていたら、急に意識を失って気づいたら、知らない家の知らない部屋で寝ているのだ。
「気づいたか、少年。悪い、少々手荒な真似をしてここまで連れてきちまったが許してくれ」
……誰だ。そう思っても声には出さなかった。まだ頭がぼんやりしている。話の内容についていけてない。だがまず聞きたいことがあった。
「誘拐ですか?」
俺がそう言うとソファーに座るその男は、目を見開いた。
「俺を誘拐犯にするなよ!確かにそうなるかもしれねぇけど…違うからな!なんの用もなしにここまで連れてくるわけないだろうが。理由を話せば長くなる…が、話さいことにはなんも始まんねぇ」
そう言ってその男は素性と俺をここまで連れてきた理由を話し始めた。
「俺はフリーダ=アレックス。年は20歳だ。んで、お前は?」
「!!俺ですか?俺は西城春輝、高2っす」
急に話を振られてびっくりした。
「春輝か、分かった。お前も、敬語じゃなくていいからな。気を使うことはない。別にお前を拉致した訳でもないし脅してるわけでもない。殺すつもりも毛頭ない。
お前をここに連れてきたのは、簡単に言えば組織内の戦争に加入してもらうためだ」
「………はい?」
組織、と言われても意味が分からない。というかその前に戦争って何のことだよ。
「そういう反応になるだろうとは思ってたぜ。だろうな、急に組織だの戦争だのごたごた言われて、そうですか、なんて言える訳ねぇさ。じゃあまずは組織について、だが…」
「いやいや、ちょっと待てって!俺まだ高2なんだけど…」
「分かってるよ、そんなことは。高2だろうが関係ねぇよ。お前より年下のやつはいくらでもいるんだ、この組織の中にはな。そいつらも戦争に参加してる。俺たちの所属するこの組織は、ブラックワークスと呼ばれてる。この世界には2大勢力と呼ばれる組織があってな、その1つが俺達の組織。もう1つが…今戦争中の((死神))だ」
死神、と聞いてザワッとした。聞いたことがあったのだ。前に一度だけ、友達からとんでもない奴らだということだけは聞いていた。俺はその噂の組織と戦争しなきゃいけないというのか!?そんなの、死んでもおかしくないってことだろ??ふざけてる!
「何言ってんだよ!おかしいだろそんなの!!!俺は死ぬかもしれないってことだろ!?そんな戦争に何で俺が参加しなきゃなんねぇ?つーか、何で俺を選んだんだよ!?」
するとアレックスは笑った。まるで鼻で笑うかのように。嘲笑うかのように俺を笑った。それが余計にムカついて、俺はアレックスの胸ぐらを掴んだ。
「何だよ…何なんだよ!!!!何がおかしい!?」
「くっ…はっはっはっ!!戦争は死と隣り合わせだ、高2だから?おかしいだ??甘えてんじゃねぇぞてめぇ…!!さっき言っただろ、お前より年下のやつはたくさんいるってよ。確かに無理やり連れてきたのは俺が悪かった。それは認めるさ、だが、その高2だからまだ子供だからみてぇな言い訳は許せねぇな。死ぬ覚悟でこっちは戦争してんだ、ふざけ半分でやってんじゃねぇんだよ」
ハッとなった。俺は死から逃げているだけなんじゃないかと。死が怖いだけで、子供だからとか言い訳つけて目を逸らしてるんだ。…それじゃいけないと分かっていながら。それに俺は死神の存在を少しだが知っているのだ。知っているのなら尚更、避けて通れる道ではないだろう。
「わ、悪かった…確かにそうだ、俺はただ死が怖かったんだ。それに俺は死神の存在を少しでも知ってた」
「!?死神の事を…知ってた?どのくらい知ってた!?誰から聞いたんだ!!!」
「いや、知ってるって程でもないんだけど…友達から1度聞いたことがある。とんでもないヤツらの集まりだって」
「そうか…そうだったのか。お前は、死神を知ってたんだな。死神の事を知ってる奴は少ない。俺達は組織だと言った、それはお前達の住む表社会とは違う社会だ。俺達ブラックワークスと死神は裏社会に住む存在で、表の奴らには知られることのない存在さ。だからお前が知ってるのには驚いたな」
「ともかく、その戦争に参加しなきゃなんねぇのは分かった。俺だってスカウトされたからにはやってやるさ」
「心強いな!そうと決まれば、早速特訓するぞ。組織内では魔法を使うのが主流だ」
魔法って特訓して使えるものなのか?そう思うが、ここではそれが当たり前のようらしい。そもそも、魔法は人間の体内にあるという魔導元からエネルギーを取り出して使うという。魔導元とは魔法を使う元になるものである。魔法を使えない人にも必ずそれが潜在しているそうだ。どんな人間にも必ず魔導元があり、そこからエネルギーを取り出すことが出来ないから魔法を使えないのだという。そのコツさえ掴めれば、誰でも魔法を使える。…らしいのだが。それが一筋縄ではいかない。単に力を入れればいい訳でもなく、かといって力を抜いてもエネルギーは抽出できない。コツとしては、集中力を高めることが大事らしい。
「何の音も声も、聴こえてはいけねぇ。全てが無になった時、魔導元の流れが掴めるのさ。1度流れが掴めれば次からは意識しなくてもエネルギーを取り出せるようになるぜ。この1回が大変なだけなんだよ」
(何の音も、何の声も…聴こえてはいけない、か)
俺はとにかく集中した。邪念を払い、無になる。もうこれで何回目かも分からない。ただ、今は集中力を高めて、流れを感じるのが大事なんだ。その時だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
自分の体の中で何かが勢いよく流れているような、まるで滝のようなそんな何かを感じた。さらに、体中の力がみなぎってくるのが分かった。
「う、おアアアアアアアアア!!!」
ゴオッッッ と体が光の炎に包まれた。
「すげぇぞ、春輝!!お前は、光の使い手だ」
アレックスがにっと笑った。これが俺の魔法…………。俺は、その光にただただ圧倒された。