第一章 二話 「転校生」
翌日―
カズは体調も全回復とはいかないものの、回復はした。今は登校中。近くに高校がないため、わざわざ駅までみんなで歩いて、電車に乗り、学校までバスに乗るのがいつもの登校ルートだ。ちなみに今はバスの中。
「ユウくん、新しい転校生ってどんな人なの~?」
モモがさっそく昨日通話中に聞いたことの詳細を求める。
「おい、ちょっと待て。転校生って?」
まだスマホデビューしていないカズは昨日の通話の内容を知らない。ちなみにこのままバイトをしていくと2か月後にはデビューできると踏んでいる。
「ああ、カズくんは知らないんだっけ。昨日ユウ君が、私たちを裏切ろうと...。」
「いやちょっと待ってくれる?!裏切るも何も質問しに行っただけだから!!」
「いやでも、ユウ君質問しに行っただけで、そこまで教えてくれるかな~?もしかして先生と密接な関係だったりして...。」
「いやそんなんじゃないから!!」
ユウマとモモは楽しそうに話しているが、カズには中々話の糸口がつかめない。
「...で、カズくんはどんな人だと思う?」
突然話を振られたカズは、
「そうだな~。まず男子なの?それとも女子なの?」
男子か女子かによって、イメージは随分変わる。
「「しらない。」」
しっかりハモって返事をされた。
(これじゃあ、予測も何もたてられない。)
「う~ん、女子だとしたら...。やさしい人がいいかな~。」
なんとなく、転校生のイメージを言ってみることにした。
「あれもしかして、カズの好みはやさしい女子?」
すかさず茶化しに入るユウマは既に、プロの領域に達している。
「いや、そんなんじゃね~よ。そんな感じかな~って思ったのを言っただけだし。」
だが、カズは気づいていない。自分の頬が少し赤くなっているのを。
そして、ユウマは見逃さない。隣りで、モモがどうしたらカズ好みになるのか、必死に考えているのを。
(やっぱり、茶化すと面白いなこの二人w。)
ユウマは、面白がって二人を見ていた―。
学校2-B―。
今日の教室は少しざわついている。転校生の話はもう全員知っているのだろうか。カズもユウマとどんな人なのか話している。ちなみにモモはトイレに行っている。
何かいいことでもあったのか、モモは嬉しそうに教室に戻ってきた。
「カズく~ん、よかったら前使ってたスマホいる?」
唐突に大声でモモが話し出したのでクラスは静まり返った。モモの声が教室中に響く。
すると、その言葉を聞いたカズは
「おい、貰えるなら貰っておくけど、声デカいわ!」
((結局、貰うんかい!!))
クラス中の全員がそう思った。
そして、HRを知らせる、チャイムが学校中に鳴り響いた。
「じゃ、カズ君帰りうちで渡すね。」
「ああ、ありがとな。」
一通りの会話を終えると、モモは席に着いた。それとほぼ同時にチャイムが鳴り終わった。
その後、一人の男子生徒が、号令をかけ終わると、いつも通りHRが始まった。
長い髪をまとめている女性の担任が、チョークで黒板に何か書きながら話し始める。
「知ってる者も多いと思うが、今日から新たな仲間が、この二年B組にやってくることになった。...入ってきなさい。」
チョークで書いているのは名前だろうか?担任はその転校生に指示を出す。
ガラガラガラ....。
ドアの開く音とともに、長身の女子生徒が入ってきた。モモより、10センチくらい背が高い。というか、カズよりも背が高い。
なぜか、ワイシャツの第三ボタンが空いていて、下着が少し見える。ちなみに胸も大きい。そのせいで、クラス中の男子の目線が一点に集中した。
一方、カズはなんでそんなに、男子生徒が興奮しいるのかわからず、周りを見回している。
((反応が、いかにもカズ≪くん≫らしい))
ユウマとモモはカズを横目に、少し呆れていた。こうも無関心となると、逆に距離を置かれるようだ。
「では、自己紹介を。」
先生も察したのか、少し顔が引きつっている。
「はい、岡田 美鈴です。部活は、(前いた学校では)写真部です。よろしくお願いします。」
もはや定型文と化しているこの挨拶。しかし違った視点で見ると、日本中の誰が聞いても不思議に思われないというメリットも同時に存在するのだ。
「というわけだ。よろしく頼む。....席は....沢波の隣り空いているな。じゃあ、沢波の隣りで。」
先生は、たまたま空いている席を選んだつもりだが、男子からの嫉妬の目線は、なぜかモモに向かう。モモも対応に困っていた。
その直後チャイムが鳴り。HRは終わりを告げた。
休み時間―。
美鈴の質問攻めに巻き込まれたモモは、美鈴と一緒に席から動けなくなっていた。
五分後―。
やっと、解放されたモモは、急いでカズのところへ向かう。
カズは、ユウマと一緒に会話をしていた。
「カ~ズ君。」
モモが話しかけると、カズも気づいたようで、モモの方向を見ると、いつもとは違う。生徒が一人いた。先程の転校生だ。どうやら、モモと仲良くなったようだ。
「で、こっちがカズ君で、向こうがユウ君ね。」
モモの紹介を受けた二人は各々、自己紹介を始める。
...三人とも自己紹介が終わると、美鈴が
「なるほど。カズキ君にユウマ君か...。で、モモちゃんが好きなのは、カズ君と....。」
「「「え?!」」」
どさくさに紛れて言った言葉に三人が、一斉に驚きを示す。
そして、カズとモモの顔が少しずつ、赤くなっていく。
二人を横目に見ながら笑いをこらえつつ、ユウマは『なんでそう思うの?』と訊いた。
「いや、だってモモちゃんカズ君に声かけたときとっても嬉しそうだったから...。」
(なるほど...。観察力すごいな...。)とユウマが感心していると、カズが、
「それって、俺たちがただ幼馴染だからじゃない?自然とそうなっちゃうから、別に恋愛感情とかはないと思うんだけど...。」
カズが真っ向から否定した。
(この、鈍感野郎!!)
ユウマが隣りで心の底からツッコんでいると、モモも、
「そうそう、幼馴染だから、幼馴染....。」
モモも顔を真っ赤にしながら、必死に否定に入り、美鈴も『そうかな~。』と納得がいかなそうにしていた。するとカズがふと、気づいたように、
「なんで、岡田さんのワイシャツってボタン空いてるの?」
と、そっけない質問をしてみた。そして、それに気づいた美鈴は顔を真っ赤にしながら、ボタンを留める。そして顔を真っ赤にしながら、
「誰にも...。言わないで...。よね?」
その言葉を聞いた瞬間。ユウマや同性であるモモもドッキっとしてしまった。
((やばい、案外かわいい...。))
それと同時に、モモはあることが気になった。
(カズ君はどう思ったんだろう?)と。
そしてカズのほうを向いてみると...。
平然と『わかった。』と返事をしていた。
(やばい、カズって案外ハードルめちゃくちゃ高いんじゃないの?!)
ユウマは顔を真っ青にしているものの、一方モモは、安堵していた。
「よし、じゃあ明日から午前授業だからな。間違えて弁当持ってくるなよ。持ってきたやつは、そのあと、延々と授業だからな。」
今は、(帰りの)HRも終わり、全員帰りの準備をしていた。担任が明日の予定を話し、このまま帰宅することになる。
「じゃあ、チャイムが鳴ったらこのクラスから出ていいぞ~。」
担任のその言葉とほぼ同時に、チャイムが鳴り響いた。
そして、先を急ぐように生徒が廊下を走りだした。こういうことは運動部の男子限定だな。と、カズは勝手に決めつけていると、隣から美鈴が、
「よし、じゃあみんな、昇降口まで競争だよ?」
一人だけやる気満々な女子生徒がいた。そして、モモが、
「よーい....。どん!!」
掛け声をかけるとともに、カズ、ユウマ、モモ、美鈴はダッシュで、昇降口に向かった。
...。 「よし、俺が1ば~ん!」
学校の昇降口から一番最初に出てきたのは、ユウマだった。
「私、2ば~ん!」
そのあと、美鈴が昇降口から出てきた。
「あれ?モモとカズは?」
「そういえば、いないね~。もしかして、私たちより先に?!」
美鈴はまさか、自分が負けるとは思っていなかったのか、ソワソワしていた。実際ユウマには負けているのだが。
すると、校舎側のほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「イヤだ、ちょっとカズくん恥ずかしいよ~。」
「いや、しょうがねえだろ...。ってか、暴れるな。オイ!」
先程の声は間違えなくカズとモモの声だった。そしてその声は徐々に近づいてくる。
「ったく、大体スタートダッシュで転ぶなよ。しかも顔面から。」
そう言いながら、カズは校舎から出てきた。
「あ、カズ!遅かったなって え?!」
「いや~これはこれは、見ものですね~。」
片方はその光景を見ながら、口を大きく開けて驚いていた。そしてもう一方は、まるで探偵のように顎に人差し指と親指を当てて、興味深そうに二人を見る。
その光景の先では、カズがモモをお姫様抱っこで抱えながら、『どうしたの?』という表情で、二人を見ていた。
一方、モモは顔を真っ赤にしていた。
その光景を一方的に見たユウマは、いつ、この二人がここまで発展したのか、原因を探っていた。
「ねえ、カズくん...。早く...。降ろして...。もう...。大丈夫だから...。」
モモは顔を真っ赤にしながら、カズに申し出たのだった。
「ああ、分かった。じゃあ降ろすから、いくぞ。」
そんな矢先だった―。
ドバ~っとカズの顔に環境委員の女子生徒が持っていた、散水用のホースから勢いよく水が噴射され、襲い掛かってきたのだ。
当然、カズも避けることができず、そのまま顔面に水が降りかかってしまった。
その後、ホースを離してしまった環境委員の女子生徒がカズに謝っていた。
そして、ここからがカズの不運っぷりだった。季節は夏。早くタオルを貰おうと思ったのだが。保健室にも職員室にも、タオルがなかったのだ。
残念ながら、この学校では体育の授業が殆どない為、タオルは運動部に貸し出していて、生徒は殆どタオルを持ってきていない。
結局、モモの家に行くついでにシャワーを借りることになった。ちなみに、カズの乗る電車の駅前にあるスーパーマーケットは改装中なので、タオルを買うことができないのだ。
「まったく、カズ今日はマジ不運だな。これ、『不●だ~!』とか言っても問題ないんじゃないの?」
「あぁ、そうだよ。今日はなんか不幸だよ。スマホ貰えるからいいけど...。」
カズは現在、上半身がすべて濡れてしまい、もともとシャツを着ないカズはブレザーの隙間から見えるワイシャツから肌が透けていた。
ちなみに、モモはほんの少し水が顔にかかったが、周囲が暑かったのですぐ乾いてしまった。
「そもそも、そこの二人がいきなり競争とかするから、私は転んだんだからね!」
モモはひとりでに怒っているが、まさかスタートダッシュから転ぶなんて誰も予想していなかった。
「ってか、カズ。他にモモの担ぎ方なかったのかよ?」
ユウマは一番そこが気になっていた。
「いや~ホントは赤ちゃんを持ち上げるみたいな感覚で、持ち上げようと思ったんだけど、中々、上手くいかなくて...。」
カズとモモの身長差はおよそ5センチ。さすがにその持ち上げ方では、ほとんど持ち上がらないだろう。というか、この年になってその持ち方はどうなんだろう...。
(もっといじりたい所だったけど、まあモモは嬉しそうだったからいっか。)
ユウマは珍しく深く追及しなかった。
段々辺りはオレンジ色の夕日に支配されていった。モモ宅―。
ユウマは岡田と話があるから、と言って美鈴と一緒に帰ってしまった。
「なんか、懐かしいな。この雰囲気。」
カズはまだ幼いころ、父親も既に亡くなり、母親もほぼ育児放棄状態だったので、モモの家族がカズと一緒にご飯を食べていたのだ。今でも、クリスマスやお正月の時にはたまにお邪魔していたりする。
「そういえば、四人で最初にご飯を食べたのも、この時期だったよね~。」
モモはカズと一緒にご飯を食べた時のことを思い出していた。
「で、カズくんご飯食べてるところでいきなり泣き出しちゃってさあ~。」
モモは話しているうちに泣いてしまっていた。モモはカズの苦しみを知っている。だからこそ、自分のことのように受け止められるのだ。
「なんで...だろうね...?一番辛いのはカズくんなのに。」
泣いているモモに後ろから抱きかかるようにカズが寄り添っていた。
一方その頃。
ユウマと美鈴はあまり広くない道路を歩いていた。
「で、お前は実は知ってたんじゃないのか?自己紹介した時からモモがカズのことを好きなことを。」
ユウマは見ていた。この美鈴という女が入室時、カズとモモを見て何か不敵な笑みを浮かべていた事を。
ただ、美鈴はユウマの話を華麗に受け流し、家に帰っていった。
だが、ユウマも確たる証拠がない為深く追うことができなかった。
そして、二人はこう思った。
(また、俺らに≪私に≫厄介な邪魔者が入ったな≪わ≫。)と。
モモ宅。
ハクション!!
カズが大きなくしゃみをすると、モモも
「そうだよね。私が泣いてちゃだめだもんね。風邪ひいちゃうから、早くシャワー浴びよう!」
と笑顔で言い残してから、カズを家の中に入れた。
洗面所。
「じゃあ、カズくん脱いで!!」
モモの変なスイッチが入ってしまった。というか母性本能が発揮されたというべきだろうか。
「いや、いいよ自分で脱ぐから。ってか一回ここから出てよ!!」
カズは顔を真っ赤にしながら、自分の意見を述べた。というか、自分の意見というか、一般人ならだれもがそう言うだろう。ただ、モモの暴走は止まらない。
「もう、カズくん。早く脱がないとワイシャツ洗えないでしょ。もう私が脱がしちゃう~!」
「おい、ちょっと待て!頼むから待って~!」
しばらくして。
浴室。
外はもう暗く、時刻は午後6時を指していた。カズは昼に受けた水のせいで、モモの家でシャワーを浴びることになった。カズはシャワーを浴びながら、
「なんか、不服...。」
結局、カズはモモに素っ裸にされ、シャワー室に放り込まれた。ちなみにもうこんなことが起きないよう、バスタオルも一緒に持ってきた。
『カズく~ん。ワイシャツ洗っちゃうよ~。』
モモが扉の向こうでいろいろやってくれていた。
「ああ、頼む~。」
そう返事をした瞬間。
『あれ、この洗濯機どう使うんだっけ?』
と、モモが、洗濯機の使い方に手間取っていた。
「ったく、しょうがないな~モモは俺が教えてやるよ。」
といい、カズはシャワー室から出てきた。そして、こんなこともあろうかとさっきから準備していたタオルを下半身に装備していた。
ピッ!!
スタートを押すと、自動的に洗濯機が作動した。っと思った矢先、ガチャとモモ宅のブレーカーが落ちた。
どうやら、モモが謎の親切心からか、家の中にある電気を片っ端からつけていたのだった。
「え?」っという声とともに電気も消えた。
モモが、壁を伝って立とうとした矢先、何かにぶつかり、思いっきり転んでしまった。
運よく、両腕が先に前に出て、顔を床にぶつけることはなかったのだが、その腕と腕の間にカズが倒れている。まるで、モモがカズに覆いかぶさるように。
カズの吐息がモモにかかり、モモの吐息がカズにかかる。二人とも状況を察したのか、顔を赤くしていた。
そして、二人の目が、だんだんこの暗さに慣れていった。
そして前を見ると、二人で固まってしまった。下手動くこともできず、そのまま静止状態に入ってしまったのだ。
すると、ガチャっと玄関のドアが開く。
そのことにびっくりしてしまったモモは、バランスを崩し、不意にモモの唇がカズの唇に吸い込まれていくように。
キスをしてしまった。
「モモ~。帰ってるの~。玄関くらい鍵かけなさいよ~。」
と言いながら、モモの母親らしき、40代程度の渋い桜色のジャンバーを着た、婦人は洗面所のドアを開ける。
「ったく、靴くら....。え?! ま~ま~ま~お盛んなことで。」
案の定、二人は母親に見つかった。しかもモモとカズがキスをした状態で。
しかも、(母親から見ると、いきなり自分の娘が幼馴染の男を家に連れ込み、上半身裸なその男にキスをしているところを見てしまった母親は、どんな気持ちなんだろう?)
とカズは考えたが、意外に母親は大丈夫そうだった。
どうも西田東吾です。
今回はメインは転校生です。
ただ、そのあとのモモとカズのキスのほうが印象に残ってますよねw。
そして、今回はユウマが転校生美鈴に疑念を抱くシーンも描かれていましたね。
しかし、もし美鈴が最初から狙ってあんな風にカズ達やクラスと接していたのだとすると...。
少し、悪寒が走りますよね。
その後、ラストパートではカズのモモの一面が描かれていました。
あのようにずっと一緒にいるからこそ、何か感じるものもあったのでしょうか。モモが泣いている部分では、どのように執筆すべきかすごく悩まされました。
ただ、この物語を最初から見直してみると、ふとカズにとっての家族は幼馴染のモモやユウマとなのではないのかな。と改めて考えさせられました。
そして、実はこの話の後半パートはモモの気持ちの続きの意味も込めて作成しました。モモ視点での描写は行いませんでしたが、モモの心情の変化は繊細に表現したつもりです。
さて、モモ母親に見つかったカズやモモはその後どうなってしまうのか?次回にご期待ください!!
西田東吾でした。