プロローグ 最終話 「後悔」
オレ達は結局モモの家で遊ぶことになった。
ユウマとオレとモモというのが気に食わないのだが...。
どうやら、ゲンちゃんの母親が無理やり私立のトップ校に行けせてあげたいらしく、それに反対しているゲンちゃんと揉めているようだった。そして、どうやらその問題にはオレも関わっているらしい。
自覚はないけれど...。ちなみにゲンちゃんの家は父親が大手企業の経営者らしく、会社の後継ぎとしてもゲンちゃんは有望なんだとか。だが、それになぜオレが関わっているのか全くわからないが、
無理に干渉すると余計、長引いてしまいそうなので、今はゲンちゃんの判断に任せることにしている。何か自分で解決できなくなったときには、オレ達を頼ってくれると信じているから。
「カズく~ん。トランプやるよ~。」
モモが今日一番やりたいこと。それはトランプだったのだ。
「じゃあ、ババ抜きね。これカズくんの。」
「あ、お前まさかスキを突いて、オレの手札見ただろ。」
オレはいつもどうりのやり取りをしたところ、いつもとは違う返事が帰ってきた。
「じゃあ交換する?わたしのと。」
まさか、モモがこんなことを言ってきたのだ。何か裏があるに違いない。オレが断ろうとすると、トランプはすでに交換されていた。
手札を改めてみてみると、やはりあった。ジョーカーが。
「なんか、今日は色々ついてない...。」
一方その頃。川村家:ゲンちゃんの家では...。
「おい、どういうことだよ。カズを養子としてもらうって!」
家に響き渡る声はゲンちゃんの声だった。
「いいでしょ。これはあなたのためだけじゃなく、一輝君のためでもあるのよ。あなたは一輝君と一緒に過ごすことで、成長できる。そして一輝君は整った環境
で勉強や生活ができる。両者win-winの関係でしょ。あ、勿論この先も後継者はあなたであるように仕向けてあるから。」
三〇代後半のゲンちゃんの母親らしき女性は、笑顔で答える。ちなみに、表向きはカズが合意したことになっているが、実際合意したのはカズの母親である。
少なからす数千万円の金が動いたんだとか。そりゃ、養育費のかかる興味のない子供と数千万の金だったら、数千万の金に目が飛びついてしまう。
「でも、その後カズはどうなるんだよ。カズはロボットじゃないんだ。自分の言いたいことははっきり言うし、自分の行く道くらい自分で決めるだろ。だから将来、足枷になるはずだ。」
ゲンちゃんはカズを守るために貶す様なことを言ったが、親はそうでしょうねと言わんばかりの顔だった。
「いい、ゲンキ。一輝くんは、うちの養子になって、ゲンキも立派になったら、もう邪魔者。何処かで殺すわよ。」
そうゲンちゃんの経営している企業は運送メーカー。下見という名目で紛争地域にカズを向かわせ、現地の住民か誰かに金を渡せば喜んでカズを殺してしまうだろう。
殺すという言葉の冷酷さをここでゲンちゃんは初めて知った。
「あ、これは他言無用よ。ゲンキ。わかってるわね。」
あまりの恐ろしさに、ゲンちゃんは声も出すこともできなかった。
カズと出会ったのはいつだっただろうか...。
思い出してみたら、引っ越し初日。父親の会社も落ち着き、これからずっと住むであろう住居に住み始めたのはいつだっただろうか。
そこで、カズが『一緒に遊ぼう。』と誘ってくれたのだった。あの一言で引っ越し続きで友達をつくることができなかったゲンキは、初めて友達をつくることができた。
気づいたらもう夜だった。カズのことをどうしたら救えるのか?と考えていると、時間はあっという間に過ぎてしまったのだ。
ゲンちゃんは寝る前、ベットの中でも悩んでいた。考えていた。必死に答えを模索していた。
だが、その答えを導き出すこともできず、次の日が来てしまった。
登校中ゲンキはカズに訊いてみることにした。養子の話は知っているのか?オレの親がどういう考えで養子の考え方を持ち出したのかを。
「なあ、カズ。オレ、し...」
「なあ、ゲンちゃん。ゲンちゃんの道はゲンちゃんが決めるべきだよ。そこにオレが介入する余地はない。」
そう、カズはまだ何も知らなかったのだ。カズが俺の家の養子になることすらも。そして多分彼はそのことを知ったとしても受け入れてしまうだろう。カズはそういう人間だ。
自分よりも仲間や友達をとても大切にしている。どこにでもいる、小学六年生なのだ。
そして、オレはある答えを導き出した。一番簡単にこの難題を終わらせる方法。それは、
死ぬことだった―。
昼休み。屋上へ向かった。向かう途中、モモがカズを呼び出していた。自分の思いを伝えようとしているのだろう。
恋愛という感情が全くないカズはどんな反応をしているのだろう。見てみたかったな―。
実は気づいていた。モモがカズのことが好きということを。
実は気づいていた。カズはものすごく心の優しい存在だということを。
実は気づいていた。ユウマは遠くからみんなを見守ることができる。すごく優しい存在なのだと。
実は気づいていた。オレは一番この世界からイラナイ存在なのだと。
そして、オレは自ら、死と選んだ―。
またいつか会おう。みんな。
まるで、トマトが台所のテーブルから床に落ちたときのような鈍い音が響き渡った。
「おい、誰か、救急車...。児童が...屋上から...。」
「おい、ゲン!起きろよ!ゲン!」
「ゲンちゃん!」「ゲン!」
ゲンちゃんは、助からなかった。いやこう言うと語弊があるのかもしれない。
ゲンちゃんは、自分の人生に終止符を打った―。
その後、時間はあっという間に過ぎていった。
カズの家。ある女性の声が聞こえる。
「あん?養子の話?取りやめ?お詫びとして金はもらえると。仕方ねえな。正式に破棄してやるよ。」
葬儀場。みんなが泣いている。
「ゲン。なんで!あなたがいないと!何もできないでしょう!」
ゲンタの母親も混乱していた。葬儀場の人が止めに入る。
「ゲンちゃん...。なんで...。」「なんで先に行くんだよ...。」
オレ達三人も泣いていた。
ゲンちゃんの母親が、葬儀場の職員に連れられて一時退出しようとしているときに、オレの真横をすれ違った。
すれ違いざまに母親はこういったのだ。
「あなたがいなければ、ゲンキにプレッシャーを与えることはなかった!あなたがいなければゲンキは死なずにすんだ!ゲンキを殺したのは―。」
お前だ!!
オレは頭の中が真っ白になった。そういえば朝のゲンキの様子がおかしかった。
モモやユウマはゲンキの母親に反論していた。そして、そこで知ったのだ。
オレが川村家の養子になるところだったことを。
誰もが絶句していた。それはオレだけではない。モモもユウマもその場にいる全員だった。
オレはその時モモの言った一言をよく覚えている。一生忘れることはないだろう。
「もうやめて...。これ以上カズくんを傷つけないで...。なんで...。カズくんは何も悪くないのに..。なんでカズくんに、責任を押し付けないでよ..。もう、これ以上カズくんを苦しめないで!」
オレには全て理解ができた。
ゲンキが自殺した理由。ゲンキが追い詰められていた理由。ゲンキがオレのことを守ろうとしてくれた理由。
すべてわかってしまったのだ。ゲンキを救えなかったオレが一番不甲斐なかった―。
これが小学六年生の直面した人生最大の後悔だった。
プロローグ ―完―
初めて閲覧した方ははじめまして。いつも見ていただいている方、いつもありがとうございます。
今回は特殊な感じでしたね。
最初はカズ目線で書いていましたが、途中から、ゲンちゃん目線に話が変わり、最後にはカズ目線に戻るという、文章型式にしてみました。
そして、この物語は動画投稿者の物語なのですが、プロローグ編では基本的に主人公の過去しか触れておりません。
本当は、プロローグをまとめようと思ったのですが、気軽に読めることを重視したかったので分けて出していたりします。(他にも、書いていたら思ったより長くなってしまった。ということもあるのですが..。)
次回は行間としてモモの告白しかけるシーンが書かれます!!
ラブコメ形を書くのは初めてなので少し楽しみです!
また次回のあとがきで...。