1 前編
前編、後編で終わります。
妖精と人間が一緒に暮らしていたのは短い間だった。
人間達の果てしない欲についていけなくなった妖精たちは
世界を二つにわけた。
二度と人間が近づかない様に、純真無垢な妖精を欲で汚させないために―。
空は青く澄み、木々は揚々と息遣いをしている。
花は美しくたたずみ、鳥は歌う。
ここは妖精界、たくさんの妖精たちが楽しく過ごす。
それを取りまとめるのが妖精王、銀色の髪、背にある蝶の様な虹色に光る羽。
透き通る丸い球体に人間界を映し出し、眺めるその眼は金色に光る。
監視の為にもあるが、何故争いを好むのか欲を捨てきれないのか、
見ていて飽きないが妖精からみればくだらない生き物だと思う。
共に暮らしていたとは虫唾が走る。汚らわしい人間。
「セスナ様!!」
息を切らして側近のリンツが駆け寄ってきた。
「に、人間が!!!」
「!!!!」
まさかと考えを張り巡らせる。
人間だと・・・思い当たるのは一つだけだった。
「こんにちは。無粋な登場で申し訳ない。美しい羽の妖精王。」
声の主を見る。震える体を支えながら一点に集中させた。
「きさま、どうやってここへ。」
近づく男は身なりは整ってた。身分が高い者だろう、後ろに二人従えている。
「この鍵で参りました。」
やはり・・・・。
手に持っている金に光る『鍵』は確かに妖精界と人間界をつなぐものだ。
私が持っているものと同じ。祖先が唯一信じていた人間に渡していった鍵。
逆に妖精界から人間界にも行ける。そんな事は永劫にしないが。
「おとぎ話かと思ってましたが、どうやら本当に私のご先祖様は
妖精と仲が良かったようですね。」
丁寧な口調で微笑む男に私は睨みつける。
「なんの用だ!人間なんか邪気を運んでくる厄介ものだ。今すぐ出て行け!!」
「どうか話を聞いて下さい。」
すっと頭を下げる男は声を震わせている。
よほどの事情なのだろうか、それとも振りなのか。
「話を聞いてやろう。もしくだらない内容ならばその『鍵』を置いてすぐ帰ってもらうぞ。」
「ありがとうございます。」
男は整った顔を上げて私の目を見る。
「わたしはレオン・レヴェンス、レオンとお呼び下さい。国の王子です。
妖精界の事は昔から本で読んだり、聞いたりしていました。
それで今回どうしてもお願いしたく参りました。」
「私はセスナだ、願いとはなんだ。」
ろくでもない事かもしれないと怪訝な顔をする。
「我が弟を助けたいのです。不治の病に侵され今にでも息絶えてしまう状態で、
妖精界にある黄色い花を調合すれば治ると本に書いてあり分けてもらえないかと。」
黄色い花・・ああ妹が大好きで育てている花だな。
それでさっさと帰るなら、
「いいだろう。そういった理由なら、花はやるがもうここには来ないで欲しい。」
「お兄様!!」
妹のリリアが後ろから抱きついてきた。
「今、周りの者から聞いたの。人間の方たち?お話ししたいわ。いいわよね?」
好奇心おおせいな妹は無邪気な目で訴えてくる。
確かに悪い人間ではなさそうだと感じる。
見かけだから分からないが、油断は出来ない。
「いいですよ、かわいらしいお譲さん。わたしはレオンです。」
人間とは口が上手いものだ。あきれた目で見る。
「リリアよ、嬉しい!お兄様お願い!」
リリアに言われると甘くなる自分がなさけないと思う。
私も興味がないわけではない、まあ少しくらいならいいだろう。
二度とここに来ないならば。
「いいだろう。だが妹に何かしてみろ、生きて帰れると思うなよ。」
「決して何もいたしません。帰りに黄色い花をいただければいいです。」
「こっちに黄色い花があるの!」
リリアは人間の王子の手を引っ張り花園に連れて行った。
人間とは妖精より寿命が短く、病気とやらで死ぬ。
なのに人間同士で殺しあったり、自ら命を絶ったりする。
生きたいのか死にたいのは分からない。
気付けばリンツは人間の従者の一人と何かしゃべっていた。
もう一人はどこに行ったのだろうか?
嫌な予感がする。