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分岐点

翌日、キャンプ地を出発した一行は森の中を予定通りに進んでいた。

一日である程度は慣れたのだろう、前日よりも手間取ることは減り、安全な道を進めている。

若い兵士たちで構成されているだけあって、疲れは全く感じさせない。


ジルバーは前日と同じように、列の最後尾を歩いていた。

森の気配はやはりどこか落ち着かない様子で、結界の近くであっても獣の気配が濃く感じられる。

今のところ結界を超える獣はほとんどいないようなので、大狩猟祭に大した影響はないだろう。

だが、この結界の中がジルバーの予想通りになっているなら、大狩猟祭どころではなくなってしまうかもしれない。


本日一度目の休憩になった時、ジルバーはディールがいる先頭へ向かった。


「ジルバー、やっぱり来たか」

「ディール。おまえも、気づいてたか」

「ああ、やっぱ何かいるな」


昨夜のうちに、ディールとは話し合っていた。

ジルバーほどではないが、ディールも森の気配には敏感だったため、すぐに調べた方がいいということで意見が一致した。

だがディールは夜の森に入るのを嫌がり、ジルバーはアルノーに見つかり止められてしまった。

結局、翌日にアルノーたちとともに調査するということになっていた。


「正直言って、オレはこの中には行きたくない。勝手に中に入らないことになってるし、狩りの開始時刻までに部隊を連れて行かなくちゃならないからな」

「だが、今俺たちが確認しないと、大変なことになるかもしれない。もしディールがイヤなら、俺だけで行ってこよう」

「……それがいいのかな。じゃあ、オレは部隊を案内して先に行ってる。向こうに見える丘を越えたところが、ちょうど目標地点のはずだ。オレたちは丘を大回りして行くから、そっちは寄り道しつつ直線で横切るってのはどうだ?」

「それだとディールの方は問題ないだろうが、俺の方が調べ切れるか不安だ。何かがありそうなのは、作戦範囲のもっと真ん中に近いところだ。丘の辺りじゃあ調べ切れない」

「いや、近づきすぎる方が危ないだろ。丘の上に登れば、中央近くまで見渡せるだろ。あそこには小さい結界だってあるはずだし、安心して観察できるはずだ」

「いや、木が邪魔で見えないだろ」

「でも……」

「だが……」


ディールにとって、ジルバーが例え気に入らないヤツだとしても、ハンター仲間の一人ではある。

仲間が怪我を負うことは、自分だけでなく、村の不利益につながる。

安全か危険かを見極められる人物だとメッサーに認められ、森の奥への案内という一番重要な役目を任された以上、ディールはジルバーを危険に近づけたくはなかった。


「ならやはり俺が一人で行く。そうすれば獣にも見つからないし、ずっと早く動ける」


ディールの意外な食い下がり方にジルバーの声がつい大きくなる。

それを耳ざとく聞きつけて、近づいて来る者がいた。


「おいおい、昨日も言っただろう、私たちも付いていくぞ。キミたちは大切な客員なんだ。それを一人で行動させることなんて、できるわけない」


アルノーが4人の部下を連れて来ていた。


「彼らを今回の特別偵察に連れていく。みんな私の部隊の中でも特に森での行動に慣れている者たちだ。左から順に、ベルノルト、クラウス、デニス、エーミールだ」


2人は、紹介された兵士たちと挨拶する。

最後に紹介されたエーミールに、ジルバーは見覚えがあった。


「きみは、昨日の兵士だな」

「どうもこんにちは。今日はよろしくお願いします」

「結界の中は危なくなるが、大丈夫か?」

「後でどうせ入ることになるんですから、それならより自然に近い森を見てみたいと思い立候補しました」

「ここは観光地ではないんだぞ」

「はい、もちろんわかってますよ」


メッサーから教えられた注意をしてみるが、エーミールはそれを本当に理解してはいないようだ。

他の兵士たちとも話してみるが、エーミールとそれほど変わらないようだった。

どうすれば、彼らを危険な目に遭わせずに済むだろうか。


ジルバーが慣れない考えごとをしているうちに、アルノーとディールが細かい相談を終えたようだった。


「ジルバー、さっき言った通りに行動することになった。オレは予定通りのルートを進むから、お前は怪我をしないように結界の中を調べてきてくれ」

「わかった。仕方がないが、あいつらと一緒じゃ危ない場所には少しも近づけないだろうな」

「そうだよ。オレたちの仕事は、あいつらを安全に目的地まで案内することだ。それに昨日のうちに結界に異常があることは知らせてあるんだから、他の仲間がなんとかしてくれてるかもしれないぜ」

「ディールは本当にそうだと思っているのか?」

「……あー、ちょっと甘すぎるかな。でも、皆が無事に到着すべきってところは本心だ。でもあいつらだって、ドシロウトってわけじゃないんだからよ、少しは信頼してもいいんじゃねーの?」


そう言ってディールが示す先では、アルノーが兵士たちへ通達を行っていた。

兵士たちは無駄な話はせず、アルノーの言葉を聞き洩らさないように静かにしている。


「わかったな!」

「「「はい、わかりました!」」」


タイミングがそろった返事をして、伝令が隊の後方へと走っていく。

続いてエーミールたちへと訓示を始めるのを見て、ディールが肩をすくめた。


「あいつらにとって、結界の中を歩くいい予行演習になるだろうさ。森に少しでも慣れておけば、追い込みが始まってから怪我をすることも減るだろう。なによりこれだけの数がいるんだから、何が居たって怖くないさ」

「だといいな」

「なんだよ、その言いかたは。お前は結界の中に、何が紛れ込んでいるのか分かるってのか?」

「予想はしてる。だが確信はない。だから言えない」

「なんだよそれ」


ディールは不満そうだったが、それ以上の追及を諦めたようだ。

自分の荷物からいくつかの道具を取り出し、ジルバーに手渡す。


「何があるか分からないから、とりあえず持ってけ。お前はこういうの使わないかもしれないけど、あるとけっこう便利だから」

「ありがとう。使わなかった分は後で返す」

「いや、いらない。その代わり、村に帰ったらその代金分おごれよ。……ノインと一緒にな」

「わかったよ。全部きれいに使い切ってやるからな」


ディールが拳をつき出し、ジルバーがそれに拳を当てる。


2人はニヤリと笑いあい、荷物を背負って別々の方向へ歩き出した。


「おお、ジルバーくん。もう行くのかね?」

「はい、アルノー、さん。俺たちはこれから結界の中へ入り、向こうの丘の上を目指します。道はこれまで以上に険しくなるので、しっかりとついてきてください」

「うむ、任せたまえ。では調査班、出発!」


ジルバーを先頭に、アルノーを含めた5人が森へと入っていく。

ディールと残された小隊員たちは、彼らが木々に隠れて見えなくなるまで見送っていた。

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