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森へ進軍

大門が、ゆっくりと内側に開いてゆく。

ジルバーにとって大門が開く光景は初めてのものだ。見上げるくらい大なものが動く様子を見るのも初めてだったので、つい無意識に感嘆の声を上げていた。

そして門の内側には、そろいの鎧を身につけた兵士たちが整然と並んでいた。


「前へ、進め!」


馬に乗った隊長の号令一下、兵士たちは足並みをそろえて歩き出す。

ジルバーはその様子を見て、まるでひとつの生き物のようだと思った。

兵士たちの後ろから音楽が響いてくる。兵士たちの中に、楽器を持って演奏している部隊があるのだ。

彼らは楽隊といい、見方を鼓舞するために音楽を鳴らす兵士たちだ。

楽隊が鳴らす太鼓のリズムに合わせて兵士が歩き、ラッパの音色に合わせて村人たちが歌っていた。

それはこの国の行進曲であり、兵士たちのパレードがあると必ず演奏されている。勇ましく心躍るその曲は、国民なら子供でも知っているものだった。

ハンターの中にも、近づいてくるその曲に合わせて歌っている者も多い。

ジルバーはその様子をとても興味深そうに見ていた。


兵士たちはゆっくりと、だが着実に行進してくる。そのうち先頭はハンターの待機している仮拠点を通り過ぎてしまうが、まだ門の中に残っている部隊もいた。

どこまで行くのか人々が見守っていると、隊長がふたたび号令を出す。


「隊列、展開!」


この号令により、先頭はその場で足踏みを始める。そして続く部隊が横へ逸れ、先頭の部隊に並んで止まった。

これによって空いたスペースに後ろの部隊がやってきて、さらに隊列を組んでゆく。

6つの部隊が3つずつ縦に2列になったところで、兵士が全て村から出てきた。


門の内側や壁の上には、見物客が詰めかけてその様子を見ている。

その見つめる先で、楽隊の奏でる音楽が盛り上がっていき、そして隊長が指揮棒を振り上げて叫んだ。


「全体、止まれ!」


音楽が止まるのと同時に、兵士の行進がピタリと止まる。

その場の全員が見つめる中、馬上の指揮官が村を振り返って声を張り上げた。


「これより、大狩猟祭、獣狩りを始める!勇敢なる兵士たちよ!勇猛なるハンターたちよ!共に協力しあい、森の恵みを分かち合うのだ!」

「「「エイ!エイ!オー!!」」」


兵士とハンターの声がそろう。

突然のかけ声にジルバーは戸惑うが、周りは特に気にしていないようだった。


◇◇


「キミたちが、我々の案内役だね?」

「はい、お、オレはディールといいます。よろしくお願いします」

「俺は、ジルバーだ。よろしく」

「ワタシはアルノーだ。こちらこそよろしく」


2人に挨拶をしたのは、15人の部隊を率いる小隊長の一人だった。

髭を生やしているが若々しく、彼の部隊員もまた若い者たちがそろっていた。

全員ディールよりも少し年上といった程度だろう。身長は差がない者もいるが、体格は鎧の分を差し引いても一回りほど違う。

そして隊長に至っては、はち切れそうな筋肉が鎧の下からその存在を主張していた。


「アルノー、さん。俺たちの移動する場所は分かっている、だろうか」

「ああ、森の奥へ行くんだろ?そのために極力荷物を減らし、体力のある者を集めた。我々のことを心配する必要はない。キミたちのペースで進んでくれたまえ」


アルノーは自信に満ちた表情をしている。

ジルバーはディールに視線を送ると、軽くうなずかれたので特に言わないことにした。


「わかった。なら早速移動を始めよう。いいかな?」

「ああ、もちろんだ」


ジルバーたちが協会から支給された荷物を背負っている間に、兵士たちはアルノーの号令の下、2列になって後に続いた。

ジルバーと話し合っていた通り、森に入る前に必ず先輩ハンターから言われていた注意を、ディールが告げる。


「じゃあ、これから森に入ります。注意点は3つ。ひとつ、道から勝手に外れないでください。ひとつ、疲れたら早めに報告してください。ひとつ、獲物を見つけても指示があるまで動かないでください。……。えっと……」

「お前ら、わかったな!」

「「「サー!イエッサー!」」」


遅れてきた返事に驚きながらも、なんとか笑顔を取り繕った。


「は、はは。それじゃあ行きましょう」


まずはディールが先頭に立って兵士たちを導く。

ジルバーは列の後ろについて、遅れる者がいないか注意することになっていた。


ディールは湧き上がってくる緊張感から逃げたくて、つい助けを求めるように周囲を見る。他のハンターたちはそんな内心を知ってか知らずか、全員が笑顔で手を振っていた。


「頑張れよ」

「ハンターの優秀さを見せてやれ」

「気楽にな」

「気合を入れていけ!」


そういう励ましの声も、緊張が強いとうるさく聞こえてしまう。


「他人ごとだと思って無茶言うなよ。やっぱり最初の先頭はヤツにゆずってやるべきだったかなあ、ううう」


そんな情けない言葉をつぶやきながら、ディールは小隊16名とジルバーを率いて森へと入っていった。


◇◇


森の中は太陽が木々に遮られるため気温が低い。それでいて湿気はそれなりにあり、長時間歩き続けているとじっとりと汗ばんでくる。

かといって皮膚を多くさらしていると、草木や石で傷ついてしまう。

道は当然舗装などされていないので、木の根や岩でデコボコしており、ぬかるみに足を取られもする。


ハンターであるディールは軽装であり、かつ森のこともよく知っている。だが兵士たちはというと、金属でできた装備を身につけ、しかも森に慣れているわけでもない。

ディールは時々立ち止まって、自然と開いてしまう差が埋まるのを待たなければならなかった。


「隊長さん、ちょっと遅れてますけど、大丈夫ですか?」

「ああ、我々は領都でも厳しい訓練を積んできている。それにほとんどの者が一度は大狩猟祭に参加したことがある。気遣う必要はないぞ」

「はあ、そうですか」


そう言われても、頻繁に立ち止まっていては予定に関わってくるだろう。相談しようにも、ジルバーは最後尾だし他のハンターは誰もいない。

先のルートを見て少し悩んだ末に、ディールはひとつの結論を出した。


「隊長さん、ちょっとショートカットをしようと思います。藪の中を進みますが、予定よりも早く休憩所にたどり着けるはずです」

「ふむ、それは通ってもいい道なのかな?」

「はい、指示されたルートからは外れてません。村の人たちもたまに使うので、十分に安全かと」

「わかった、キミの考えに従おう。何か注意すべき点はあるか?」

「そうですね。上がり下がりが大きいので、足元に十分に気をつけてください」


ディールの言ったことを、隊長が隊員たちへと連絡する。

そこは臆病なディールが選ぶだけあって、かなり安全なルートではあった。ただし、特に何も起こらなければの話だったが。

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