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魔女との昼食

ジルバーは森へ入ったが、太陽が頂点を過ぎる頃には家へと戻って来た。

ノインと魔女に昼御飯を作ると言う名目もあったが、本当は魔女の言う大事な話とやらが気になって仕方がなかったのだ。


パンケーキとスープという軽めのものを用意して客間まで来たが、入り口にはなぜか戸板が置かれていた。ジルバーは料理を両手に持っているから、それを開けられない。仕方がないので、外から声をかけた。


「まじょ、ノイン。昼飯をもってきた。はいっていいか?」


「今あたしが取りに行くから、そこで待ってな」


声の後、すぐに戸板が外れた。

ジルバーは中を見ようとするが、魔女が出てきてジルバーの胸板を押し返し、料理だけを受け取った。


「着替え中だよ。アンタは入室禁止」


「そうか、すまん」


「わかればよろしい。まだ時間かかるから、大人しく一人で過ごしてな」


「おれは、だいじなはなしが、とてもきにしてるのだが」


「それもまた後で、よ。それでも暇なら、アレ(・・)取って来てよ」


「アレって、アレか?まだちょっと、はやいぞ」


「ケチケチすんじゃないよ。あたしにツケがたんまりあるの憶えているわよね?」


「ぐっ、わかった。でもたくさんは、ないからな」


「あたしとアンタで一晩飲み切るくらいあれば十分よ」


「じゅうぶん、たくさんだ。だがもってこよう」


「じゃあ、それでよろしくね」


魔女はウィンクをして、部屋へと戻っていった。


ジルバーは1人で台所へ戻り、昼御飯を手早く食べた。

それから自作した背負子(しょいこ)を取り出して、つくりが緩んでないか確認する。


「とりあえず、ぜんぶまわってみるか」


家を出てから背負子を背負うと、森の中へ入っていった。



ジルバーが家から出て行く音が聞こえた。

私は最後のスープを飲み終わり、木の皿をテーブルに置いた。

魔女様は自分のスープの皿を持っておかわりを取りに行き、ジルバーを見送ってからこの部屋へ戻って来た。


「魔女様、さっきの話ですけど、ジルバーに確認しなくて本当にいいんですか?」


「いいのいいの。どうせいつか経験する事なんだから、遅いか早いかの違いだけよ」


「でもやっぱり、勝手に決めるのは悪いと思うんですけど」


私がそう言うと、魔女様はスプーンを持ち上げてこちらを示した


「あたしから言わせてもらえばね、ノインもジルバーも臆病すぎなのよ。変化を恐れちゃ、成長はできないの。成長しないと、死ぬことになるのよ」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟じゃないわよ。変化のない退屈な毎日なんて、生きたまま死んでるみたいなものよ。自分からどんどん変化を受け入れていかないと、すぐに錆びついちゃうわよ」


「私は、普通の毎日って好きですよ。無理して危険に飛び込む必要なんてないですよ」


「なに言ってるのよ。ハンターなんて、危険な仕事の毎日じゃない。普通の女の子は、ハンターになんてなろうとはしないものよ」


「そう、ですよね。私は普通じゃないですよね」


「あ、そういう意味じゃないのよ。ただノインは、十分刺激的な環境にいるってことが言いたかっただけだから」


魔女様がそう釘を差してきた。


「今してるのはジルバーの話でしょ、ノインは関係ないわ」


強引な方向転換だと思ったけれど、私はなにも言わずにうなずいた。


「ジルバーはさ、あたしがこの家をやってからほとんど変わってないのよ。森で食料を獲ってきて、ひとりで慎ましく生活してるの。で、寂しくなったらアタシの家に来たり、森の中でハンターの後ろを付けまわしたりしてるのよ。暗いったらないわ」


「へ、へえ。ジルバーってそんなことしてたんですね」


「そうよ。ノインもそんな男イヤでしょ?」


「あの、えーと……はい」


魔女様にじーっと目を見られて、迫力に負けてついうなずいてしまう。


「でしょ。だから、ジルバーも変わらなくちゃいけないのよ。そんな根暗なことしてないで、もっと堂々とすればいいのよ。そのためにも、今日この後が重要なの」


魔女様はそう言うと、イスごとにじり寄ってきて私の手をとった。


「今日のこの機会はアイツを変えるいいチャンスなのよ。だからノインも協力してくれるわよね」


「えっ!?私もですか」


「そうよ。あたしとノインで、この狭い穴倉からアイツを外に引っ張り出してやるのよ。面白くなると思わない?」


「うーん、面白半分でそんなことをするのは悪い気がするんですけど」


「いいのよ気にしなくて。むしろ変わるチャンスを持ってきてあげるんだから、あたしに感謝すべきだわ」


魔女様はとても悪い顔で笑った。


「ノインだって、ジルバーともっと仲良くしたいでしょ?ジルバーとこれからも会いたいでしょ?そのためには、これくらいしなくちゃダメなのよ。わかる?わかるわよね?」


「は、はい。わかります」


「いいこと?ジルバーに今日の計画がバレたら、多分アイツは逃げ出すわ。あたしは一度家に戻ってからまた来るけど、それまでに感づいて逃げようとしたら、絶対に阻止してね。あたしが着いちゃえばもういいけど、ここで逃げられたら次のチャンスはないわ。よろしくね」


「わ、わかりました」


強引に迫られる形で了解してしまった。

魔女様は私の答えに満足すると、イスを引いて元の位置にまで戻った。

そういえばと、気になっていたことを思い出したので、この機会に聞いてみることにする。


「ところで、魔女様はジルバーと最初に会った時、どうして助けようと思ったんですか?ジルバーの話だと、最初は他の魔獣と同じだったけど、魔女様に助けられたから今のジルバーがあるって言ってましたよ」


「あいつ、そんなこと言ってたのか」


魔女様は懐かしむような顔をして語り始めた。


「あの日は、月のキレイな夜だったよ。あたしは森の外れに出かけていたんだ。なぜかっていうと、そこに魔獣が出たって動物たちに言われたからさ」


「森の外れ?外縁部ですか?そんな浅い所にジルバーがいたんですか?」


「違うわよ。外れって言っても、別な森との境界線近くのことよ」


別な森?このペロウ大森林は1つだけではないのだろうか?


「あなた達は森と言ったら全部を指すみたいだけど、実際はいくつも区切りがあるのよ。あたしは【灰の魔女(ガル・ヘクセ)】。この【炭と灰の森】があたしの管轄なの。あたしがジルバーと会ったのは、【獣と闇の森】の近く、ここから南に行った所よ」


「【獣と闇の森】?森がいくつもあるなんて、全然知りませんでした」


「でしょうね。あなた達には関係ないことだしね。普通の人はそこまで行かないもの」


「それと今の話だと、魔女様以外にも魔女がいるってことですか?」


「そうよ。あたし一人だけで広い大森林の全てを見れるわけじゃないからね。あと、魔女と言ってもみんなが友好的とは限らないからね。他の魔女に会ったら気をつけなさい」


まあ、そんなことないだろうけど、と魔女様は微笑みながら付け足した。


「それで話しの続きだけど、森に住む獣たちがこっちに逃げてきたのよ。獣と闇の森には、こっちと違って魔獣の一歩手前みたいな凶暴な奴らもいるから、そんなのがこっちに来られると困るのよ」


「凶暴な獣が出たから狩ってほしいっていう依頼が、時々ハンター協会に来ますね」


「それがあるのよ。だから原因をなんとかしなくちゃいけないなって、あたしがわざわざ出向いたわけ。そこで、彼と会ったのよ」


魔女様の声が急に低くなったので、私は思わず身を乗り出した。

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