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『アイ・ウィル・ビー・ウィズ・ユー』 ②

 第三階層、オフィス街。

 そのうち一つのビルを軍警察とAMCが取り囲んでいた。

 ビルに立てこもっているテロリストの排除。今回動員された強化人間はラビットとリンクスの二人。そして、たまたま休暇であった通常部隊「グループK」が急遽動員されていた。ラビット達はグループKの指揮下に入っている。

「リンクスとラビットか。グレスカ以来だな」

 グループK隊長の赤毛の男が気さくに声をかけてくる。「赤毛のカニンガム」ことクレイグ・カニンガム。普通の人間でありながら、並の強化人間以上の戦闘力を持つ凄腕の男だ。その戦闘力に加え、均整の取れた顔立ち。早くに妻を亡くし、男手一つで息子を育てている。男やもめということもあってか、女性社員の間で高い人気を持つ。

「クレイグさん。お久しぶりです」

「家族サービスしてたのに駆り出されたんだ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」

「家族サービスねぇ」

「おう。息子に釣りを教えてたってのによ」

 地下都市での釣りといえば、河川敷での釣りか釣り堀である。

「釣りですか。どうでした?」

「おっと、そのことは聞かないでくれ」

 クレイグが苦笑した。どうやらボウズらしい。

「AMCの人ね? わざわざご苦労様」

 軍警察の制服を着た女が近付いてくる。黒いショートヘアに、泣き黒子。制服越しでもわかるほど手足がすらりとした、なかなかの美人だ。

「軍警察のミリエラよ。今回の指揮を執ってるわ」

「AMCの指揮を執っているクレイグだ。よろしく」

 クレイグとミリエラが握手した。

「そして、マリア。久しぶりね」

「ああ。何年ぶりだ?」

「噂には聞いてたけど、まさか生きてたなんて。それもAMCに出向してるとか。一言教えてくれてもよかったじゃない」

「人を勝手に殺さないで欲しいな」

 どうやらリンクスとミリエラは知り合いらしい。二人は軽くハグをすると、思い出話に花を咲かせている。リンクスは軍警察出身なので、面識があるのだろう。

「で、あの子は?」

「弟子みたいなものだよ」

「貴女が弟子を取るとかねぇ。裏口に立ってた頃からじゃ予想できなかったわ」

「昔からお前より射撃は上手かっただろう?」

 リンクスの表情は心なしか緩い。やはりかつての友人に出会えたのは嬉しいことなのだろう。

「……しかし、報告が遅いな」

 テロリストの排除が目的であるはずの彼らがのんびりしているのには理由がある。軍警察の動きが鈍いのもあるが、正面玄関にはバリケードが築かれており、非常階段のほうにも火力がある。地上からの突入は面倒になりそうなので、地下からの進入ができないか、偵察に向かわせていたのだった。事前に入手した見取り図によれば、下水から進入できるらしい。

『クレイグさん、どうぞ』

 無線機のイヤホンにくもぐった声が入ってきた。クレイグが胸元のマイクに声をかける。

「バリオスか。首尾はどうだ?」

 下水に潜入しているグループだ。

『ダメっすね。入り口、やっぱり爆破されてます。瓦礫をどけようと思ったらコトですよ』

「了解した。軍警察さんと対応を協議するから、もうちょいそこに居てくれ」

『早くしてくださいよ! マスク息苦しいんですよ!』

「硫化水素あるかもしれねぇんだから、死にたくなけりゃマスク外すなよ」

 クレイグが会話を切り、頭を掻いた。

「ったく、めんどくさいことになったなぁ」

「でも、臭いとこ潜らなくてよかったじゃないですか」

「まーな。防毒マスクもそうたくさん用意してねぇし、やっぱり正攻法だな。ミリエラさんよ、ちょっといいか」

「どうかした? 地下の進捗あったの?」

「その通り。案の定、入り口は爆破されていた。正攻法で行くしかねぇな」

「面倒なことになったわねぇ」

「要求飲んで帰ろうか」

「バカ言わないでよ。テロリスト風情の要求なんか聞けるわけないじゃない」

 今回のテロリストは地上解放戦線の系列を名乗っており、要求は三つ。投獄されている同志の解放、逃亡用の資金、そしてこのビルの所有者であるラキシス商事の地上からの撤退。当然、要求が飲まれるはずもない。

 しかし、未確認ながら人質が取られているという情報がある。それゆえに事を荒立てないよう、地下からの進入を試んでいたのだが、それは画餅と帰した。

「じゃあ、突入するしかねぇな」

「仕方ないわね」

「正面からAMCが攻撃をかける。陽動の間に少数で非常階段から進入、速やかに首領を無力化する。異存は?」

「ないわ。それで、非常階段はどう黙らせる気?」

 非常階段の頂上には一人か二人の反応がある。近付けば撃たれる。

「任せろ。この距離なら余裕だ」

 リンクスが眼帯を解きながら手を挙げた。彼女の腕前ならば問題ないだろう。

「そうね。マリアなら大丈夫か」

「よし。じゃあリンクスに任せる。俺とラビットはリンクスの射撃後に突入する。リンクスは後から援護を頼む」

 クレイグが相方なら安心だ。彼の腕前を活かすためにも、精一杯援護しなくては。

「は、はい。了解です」

「狙撃だけじゃ帰れないか。しょうがないな」

「私もマリアとご一緒していい? 軍警察が何もしない訳にもいかないでしょう」

「そいつはいい心がけで。じゃあ、この四人で突入する。……バリオス、地下はもういい。上がって来い」

『了解! 待ちわびましたよ!』

「上がったら着替えとけよ。十分後に作戦開始だ」

「了解!」

 包囲部隊は慌ただしく動き始めた。テロリストもその動きを見逃さず、バリケードの後ろと屋上から射撃が始まる。

「ナイト、ラヘア! やられっぱなしじゃグループKの名が廃る! 派手にやり返してやれ!」

「了解ッ!!」

 クレイグが部下に指示を出し、バリケードとパトカーを盾に撃ち合いが始まる。派手にやり返してやれ、との言葉に違わず、かなり派手にやり合っているようだ。

「リンクス、準備できたか?」

「ああ。任せておけ」

 リンクスが狙撃銃を構える。今回は彼女愛用のボルトアクション式のライフルだ。少しの間の後、銃撃。コッキングして次弾を装填、再度射撃。そして、ラビットのレーダーから反応が消えた。実に無駄のない動きだ。リンクスの射撃技術はさすがである。

「あら、腕は落ちてないようね」

「当然だ。これで飯を食ってるんだからな」

「クレイグさん、非常階段の反応、消えました」

「よし、行くぞォ!」

 クレイグが非常階段に向けて走り、ラビットも後に続く。今回は室内戦ということを考え、普段使っているライフルではなく、サブマシンガンを持って来ている。

 作戦通り、敵は正面玄関に集中しているようで、抵抗を受けることもなく非常階段へ到達。後ろから来ていたリンクスとミリエラと合流する。

「リンクス達は二階から上がってくれ。俺とラビットは最上階から突入してボスを無力化する。中の見取り図は覚えてるな?」

「ええ。でも、首領が最上階に居るって訳でもないでしょうに」

「ボスは一番上に居るって決まってる。もっと映画を観て勉強するんだな」

 リンクスは映画が好きなのだろう。確かに映画でも漫画でもゲームでも、ボスは一番上に居るものだが。

「映画観る暇もないって。……じゃあ、最上階で握手しましょう」

「おう。ラビット、行くぞ!」

「はいッ!」

 リンクスが二階の扉を蹴破って室内に突入する。その姿を見届け、クレイグとラビットは非常階段を駆け上がる。このビルは七階建て。そう辛い高さではない。

 四階の非常口に到達したところで、レーダーに反応があった。頭上。

「……クレイグさん、頭上に反応がありますよ!」

「何ィ? 敵さんものんきに構えてねぇか!」

 次の瞬間、階段から何かが落ちてくる。球体。

「「手榴弾グレネードッ!?」」

 クレイグはすぐに非常口のドアノブを撃ち抜き、室内に飛び込む。ラビットもそれに続いた後、爆風が二人を覆った。

「野郎、荒っぽい真似しやがる!」

「階段壊れたらどうするんですかね、もう!」

「非常階段から上がるのは中止だ! プラン変更、このまま階段上がるぞ!」

「了解です!」

 室内の階段を上がる。五階にさしかかったところで、レーダーに多数の反応があった。部屋の中だろうが、反応は密集している。

「……クレイグさん、五階に反応がたくさんあります。部屋の中に密集してます」

「密集? ……人質かもしれねぇな。敵さんがこの状況で部屋の中に戦力残してるとは思いにくい」

「どうします?」

「助けるに決まってるだろうが!」

「了解! クレイグさん、階段室の外、扉の右に反応が一つ!」

「待ち伏せか、せこい真似しやがる!」

 クレイグは階段室の扉を蹴破ると同時に、ショットガンを撃つ。反応は消えた。

「反応クリア、いけます!」

「ほんと便利だなお前!」

 クレイグが親指を立て、五階に突入。自分にできるのはこれぐらいなのだ。褒められるのはちょっと面映い。

『隊長、こちらナイト。正面玄関、沈黙しました』

「でかした! 突入して残党を片付けろ!」

『了解!』

 正面玄関はうまくいったようだ。彼らに遅れを取るわけにはいかない。曲がり角で足を止め、通路の様子を伺う。

「クレイグさん、反応はそこのC会議室です」

「だろうな。ご丁寧に門番が二人もいやがる。三、二、一で突っ込むぞ。俺は手前を狙う。お前は奥をやれ」

「……了解です」

「三、二、一ッ!」

 クレイグと同時に身を乗り出し、奥の門番を狙う。門番が構えるのは遅い。素人か。トリガーを引く。命中。クレイグもショットガンを命中させた。門番が倒れる。

「よし、部屋に入る。いいな?」

 頷きで返答。クレイグは油断なく扉を開ける。中には従業員とおぼしき男女が押し込められていた。全員が手足を縛られているようだが、流血沙汰には至っていないようだ。AMCの制服を見てか、安堵の声がそこかしこから漏れる。

「大丈夫です、僕らはAMCです!」

「よし、人質には手を出してねぇ。敵さんもいいところあるじゃねぇか」

 クレイグが一人の手足を解いてやる。そして、無線機に声をかけた。解放された一人が仲間の拘束を解きに向かう。

「リンクス、クレイグだ。どうぞ」

『どうした? 順調か?』

「ああ。ちょっと予定は狂ったが、今は五階にいる」

『遅いな。私達は四階だ』

「ちょうどいい、五階のC会議室に人質が押し込められてた。すまねぇが保護しといてくれ。じきにナイト達も来る」

『了解。もう五階に着く。先に進んでくれ』

 人質の解放も無事に進んでいるようだ。クレイグが年長者らしき者を捕まえる。

「人質はこれで全員か?」

「いえ、あと一人……」

「まだ居るのか」

「若いのがテロリストに捕まってるんです。きっと、七階の社長室です……」

「よし、やっぱり最上階だな。じきに仲間が来る。それまで部屋の中から出ないように。俺達はそいつを救出に向かうからな」

「は、はい!」

 人質が何度も頷く。あと一人。無事であるといいが。

「ナイト、何人か五階のC会議室に回せ。人質がいる。ラビット、行くぞ!」

『了解です』

「はいッ!」

 クレイグと一緒に会議室を出る。背後からは激励の言葉が投げかけられていた。彼らの期待に応えなければ。

 階段室に戻り、駆け上がる。レーダーには特に反応なし。七階に入り、社長室の前でいったん足を止める。

「……ラビット、反応は?」

「二つです。おそらく、テロリストと人質じゃないですかね」

「よし。行くぞ」

 クレイグがドアノブに手をかけ、開けると同時に踏み込む。ラビットもそれに続いた。

「動くんじゃねぇッ!」

 テロリストの首領と思われる、痩せた男。彼は若い女性の首を捕まえている。女性の腹部にはダイナマイト。そして、男の手にはライターがある。

「物騒なもの用意しやがって。それに火ィ点けたら、てめぇも吹っ飛ぶぞ」

「俺も吹っ飛ぶかもしれねぇが、てめぇらも吹っ飛ぶ。銃を下ろせ!」

 男がライターを導火線へと近づける。女は恐怖に顔を歪ませ、脚が震えている。テロリストがトチ狂わないとは限らない。早く男を倒して、女を無事に救出する方法は。

 部屋の中を見渡す。社長室らしい豪華な机に書類の詰まった棚。観葉植物。大きめの水槽。

 水槽。

「……クレイグさん。僕にいい考えがあります」

「ほほう。……自信はあるか?」

「……はい。合図したら、テロリストを撃つ準備、お願いします」

「わかった。俺にはいい考えがない。お前に従う」

 クレイグがショットガンを捨てた。ラビットも銃口を下ろし、じわじわと移動。

「銃を下ろしました。……その人を放してあげてください」

「まだだ、てめぇも銃を捨てろ」

 ラビットはじわじわと移動を続ける。男もそれに応じて、円を描くようにじわじわと移動。水槽の方へと。

「地上解放戦線ほどの組織が、無抵抗の女の人を人質に取って、恥ずかしくないんですか? どんな立派なことを言っても、そんなことしてたら、誰もついてきやしませんよ」

「うるせぇ、ガキに何がわかる! 金に目がくらんだ、政府の犬のガキが!」

 好きでやっている仕事ではない。だが、ここで激昂しては、作戦が水泡に帰す。

 テロリストと人質が水槽の前に着いた。今だ。

「クレイグさん!」

 合図と共に、クレイグが拳銃を抜く。ラビットも銃口を上げた。

「てめっ……!」

 テロリストが導火線に火を点け、反射的に飛び退く。クレイグがすかさずテロリストを射殺。残るは人質の女のみ。

「そこから動かないでくださいッ!!」

 ラビットが水槽を撃つ。水槽の水が漏れ、女にかかる。それは、導火線の火を消した。パニックになりかけていた女が膝をつく。

 作戦どおり。うまくいった。

「……ほっ」

 思わず胸を撫で下ろす。

「やるじゃねぇか、ラビット」

 クレイグがラビットの肩を力強く叩くと共に、人質の女がしがみついてきた。

「ありがとう……ありがとう!!」

「い、いえ、すみません、服濡らしちゃって!」

 泣きじゃくる女をどうしようか戸惑うラビットであった。だが、若い女性に密着されるのは悪い気分ではない。

「おうおう、色男め。さ、物騒なんで、早く出ましょうや」

 クレイグに促され、女が立ち上がる。そこに、リンクスとミリエラが到着した。

「リンクス、ミリエラさん、遅かったじゃねぇか。ラビットの大金星だ」

「い、いえ、たまたまです、たまたま」

「ミリエラ……?」

 人質が怪訝そうな表情を浮かべたとたん、彼女の胸元を銃弾が貫いた。

「なっ……!?」

「ミリエラ、気でも違えたか!!」

 銃弾の主はミリエラであった。

「……その人には生きていてもらうと困るのよ」

 ミリエラは銃口を下ろさない。リンクスが反射的に飛び退き、ライフルを構える。

「おーっと。撃たないでよ、マリア。貴女と私の仲じゃない」

 ミリエラはくすくすと笑ったまま、こちらに銃口を向けたままだ。

「私はこの襲撃を知っていた。おかげでずいぶんと儲けさせてもらったわ」

「……株でも売ったのか」

「そう。襲撃の直前にね。ラキシス商事は優良企業だもの。いい値段で売れたわ」

「……道理で軍警察の動きが鈍かった訳だ。このクソアマが」

「あらあら。汚い言葉は教育に悪いわよ、クレイグさん」

 ミリエラはトリガーに指をかけたまま。迂闊に動くと人質のようになることは目に見えている。

「目撃者は消さないとね。ただ、マリア。貴女は私の友達ですもの。貴女が黙っていてくれるのなら、今回の儲けを折半しても構わないわ。昔の貴女なら、頷いてくれるはずよ」

「……リンクスさん」

「おーっと。部外者は黙っておいたほうがいいわ」

 リンクスが銃を下ろした。その様子を横目で見ていたミリエラが高笑い。

 まさか、リンクスが。裏切るなんて。事件の黒幕に寝返るなんて。


 銃声。


 それは、ミリエラの肩を貫いていた。

 銃弾の主は、リンクス。

「なっ……」

 リンクスのほうへ向き直るミリエラに、リンクスがもう一発撃ち込む。

「……今まで寝た男の中で、最高の男を裏切るほど、私は女を止めちゃいない」

「このっ……股割れがッ!! 四つ足がァッ!!」

 銃声。銃声。銃声。

 三発の弾丸が、ミリエラに撃ち込まれた。

「あと……知らなかったか? 私はあぶく銭が嫌いなんだ」

 リンクスが拳銃をホルスターに入れると共に、ミリエラは崩れ落ちた。

「……長いこと会わないと忘れるものだな」

 リンクスはかつての友人に、哀れむような視線を送った。ミリエラが最後に口にした言葉の意味はよくわからないが、いい意味ではないのだろう。リンクスの冷めた表情がそれを表している。

「でも……どうします、これ」

「心配すんな」

 クレイグが胸ポケットから棒状の器具を取り出す。

 ボイスレコーダー。

「やるな、クレイグ」

「なに、契約反故にされることも結構あるからな。その防止策だ。隊長やってりゃ色々と気苦労多いんだよ」

 クレイグがレコーダーをラビットに渡す。

「人質の姉ちゃんが撃たれてから録音してある。出すとこに出せば、悪いようにはならねぇよ」

「悪いな、クレイグ」

「何、軍警察がもっと動いてれば、俺達もヒヤヒヤしないで済んだんだ。意趣返しとしちゃ上出来だよ。……撤収するぞ」

 クレイグが部屋から出た。

「……あの、リンクスさん」

「ラビット、今日はよくやった」

 リンクスはラビットの頭を撫でると、部屋から出る。

「私が明るい部屋に帰れるように頑張るんだろう? お前がそうやって頑張ってくれるのなら、私はお前と一緒にいるさ。きっとな」

 そう言い残して。




 事件から一週間後。AMC本社近くの個室居酒屋。

「すまんな、遅くなった」

「おう、まぁ座れや」

 今日は反省会という形で、クレイグが食事を奢ってくれるそうだ。クレイグの隣には彼の息子がいる。父に似た赤毛の美少年だ。アーサー・カニンガム。七歳になる、クレイグの一人息子だ。

「あ、今日は息子さんももいるんですね」

「おう。ほら、アーサー、挨拶しろ」

「……はじめまして」

 アーサーが憮然とした表情のまま、頭を下げた。

「悪ぃな、ちょっと人見知りなところがあるんだ。グレイスが滅茶苦茶言うせいもあるかもしれねぇがな」

 確かにアーサーほどの美少年となれば、ヴィクセンも黙っていないだろう。挨拶も済ませたので、クレイグの向かいに座る。

「注文はタッチパネルだ。俺はもうビール頼んでるから、お前等も注文しといてくれ」

「ああ」

 リンクスはノンアルコールのカクテル、ラビットはジンジャーエールを注文する。

「何だ、飲まねぇのか」

「帰りも運転しないといけないからな」

「代行呼べばいいじゃねぇか」

「代行も高い。勿体無いだろう」

 まったく、こういうところでケチなんだから。

「でだ。飲み物来る前に仕事の話だ」

「こんな場所でか。手短に頼むぞ」

「諜報部の連中に聞いたんだが、ラキシス商事。ありゃ地下都市の独立運動の援助に熱心な企業でな」

「それがどうかしました?」

「地上解放戦線が襲う理由になるか? 地上の開発を進めてるんならまだしも、連中の地上事業はオマケみたいなもんだ」

 人類の地上からの退去を謳う地上解放戦線。地上に工場を構える企業ならまだしも、地下で商売している企業。それも、地上離れを加速させる地下都市独立運動の支援者。地上解放戦線が敵視する必要は無いように思える。

「……詳しいな」

「諜報部からの受け売りだ」

 飲み物が到着した。クレイグはビール、アーサーはオレンジジュースだ。

「……おっと。飲み物来たし、仕事の話はここまでだ」

「そうだな。メリハリは大事だ」

「じゃあ、お疲れさん」

 クレイグの音頭で乾杯する。そこからは仕事の話は無しだ。

 だが、気になる。地上解放戦線が何を考えているのか。そして、ミリエラも金儲け目的だけだったのか。

 アーサーがやっていた携帯ゲームにアドバイスをするも、その疑念は消えなかった。

ミリエラとかいう友人を蔑称で呼ぶ人間の屑

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