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どうして?

〈あやね〉


 朝早くチャイムが鳴った。

信ちゃんは毎朝目覚まし時計にも気づかないくらいだから、

玄関に行かなくちゃと思った。

 小さな声で「今行きます」と言いながらお部屋のドアを開けると、

ことねちゃんのお部屋のドアも開いた。

いつものように手をつないで階段を下りようとしたら、

驚いたことに信ちゃんが玄関に立っていた。

そしてお客さんは、くまのおじちゃんだった。

 私たちは急いで信ちゃんのところへ行き、いつものように腕を組んだ。

私たちを交互に見た信ちゃんは、階段の下で倒れていたママと同じような目をしていた。



〈信二〉

 朝早くやってきた刑事は、

加代は何者かによって殺されたのかもしれないと言い出した。

加代は階段から落ちて頭を打って死んだのだ。

加代は事故死でいい。大きな声でそう言いたかった。

これ以上悲しい思いはしたくない。このまま放っておいてほしい。

怒りにも似た悲しみが込み上げてきて、刑事につかみかかろうとした時、

両側から小さな手が絡みついてきた。

 両側から僕を覗き込む2人の目がキラキラと輝いていた。

加代が一度だけ、

「夫を亡くした私に元気をくれたのは、あの子達の笑顔だ」

と話したことがあった。たしかにそのとおりかもしれない。

二人の顔をみたとたん、ふっと力が抜けた。

 僕は落ち着いて「帰ってください」と刑事に言い、

双子を強く抱きしめた。



〈ことね〉

 くまのおじちゃんと話し終わると信ちゃんは、

何も言わずにお部屋に行ってしまった。

信ちゃんは昨日から全然遊んでくれないし、お話もしてくれない。

ママがいなくなったら、私たちとだけ遊んでくれると思っていたのに。



〈あやね〉

 信ちゃんもママとおんなじだった。

パパがいなくなったら、ママは私たちともっとたくさん遊んでくれると思っていた。

でもママは、しょんぼりとして私たちとは遊んでなんかくれなかった。



〈ことね〉

 私たちはママが大好きだったから、

ママを横取りするパパが嫌いだった。

だから私たちは、パパとママが寝る前に飲むお薬を、

パパが飲んでいたお酒に混ぜた。

 ママもすっかり眠ってしまったころ、

パパは酔っ払ってタコみたいにふにゃふにゃしながら階段を上ってきた。

それぞれのお部屋からパパが階段をあがってくるのを見ていた私たちは、

階段の上でパパを待って、

「おやすみ」

と言ってわたしたちの頭をなでたパパを突き落とした。

 パパはびっくりした顔のまま、声も出さずに階段を転げ落ちていった。

私たちはパパの顔がおもしろくて、

クスリと笑ってそれぞれのお部屋に帰っていった。



〈あやね〉

 パパがいなくなってしばらくして、

悲しい顔をして全然遊んでくれなかったママが、

信ちゃんを連れてきた。

 信ちゃんは、パパやママとちがってたくさん遊んでくれたし、

楽しいお話もたくさん聞かせてくれた。


 わたしたちは信ちゃんが大好きになった。

 わたしたちは、信ちゃんを横取りするママが嫌いになった。

ママがいなければ、信ちゃんはわたしたちとだけ遊んでくれるだろうと思った。

結婚記念日の日、ママは眠れなかったらしく、

信ちゃんが会社に行った後、少し眠そうな顔でテレビを見ていた。

私たちは、眠れない時にママが飲むお薬をジュースに溶かして飲ませてあげた。

そして、お部屋に戻って寝ようと階段を上がってきたママを突き落とした。

 ママは、パパとおんなじようおな顔をして、

パパみたいにくちゃくちゃになりながら落ちていった。

わたしたちはクスリと笑って学校へ行った。



〈ことね〉

 信ちゃんは会社から帰ってきても遊んでくれなかった。


〈あやね〉

 今日だってまだぜんぜん遊んでくれない。


〈ことね〉

 わたしたちは信ちゃんのお部屋に行った。


〈あやね〉

 どうして遊んでくれないの?


〈ことね〉

 せっかくママがいなくなったのに。


〈あやね〉

 パパがいなくなった時のママとおんなじ。

 

〈ことね・あやね〉

 どうして遊んでくれないの?



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