〈あやね〉
〈あやね〉
くまみたいに大きい知らないおじちゃんは、私たちに近づいてきて、
本物の熊みたいに大きな手で私たちの頭をなでながら、
「一緒においで」
と言った。
私とことねちゃんは、いつものように手をつないで、
くまのおじちゃんにくっついてトントンと階段を下りた。
くまのおじちゃんは、最後の階段で急に止まったから、
私とことねちゃんは、くまのおじちゃんの背中に頭をぶつけた。
くまのおじちゃんは、熊みたいにおっきいから、
前は何にも見えなかった。
わたしはくまのおじちゃんの左後ろから前を一生懸命のぞいて、
信ちゃんを探した。
信ちゃんは真っ赤なバラの花束を右手にもったまま、
朝ごはんを食べていたときよりも、
もっとボケーッとした顔で玄関に突っ立っていた。
プレゼントだ!
おんなじようにくまのおじちゃんの右後ろから覗き込んでいたことねちゃんと、
くまのおじちゃんに隠れて、信ちゃんに見えないように握手をした。
信ちゃんはちゃんとママにプレゼントを買ってきたんだね。
よかったね。
わたしたちは握手をしたまま、
くまのおじちゃんに聞こえないようにお話した。
わたしたちはくまのおじちゃんを後ろから突っついた。
信ちゃんのそばに行きたかった。
くまのおじちゃんは、
「ごめん、ごめん」と言ってどいてくれた。
ひらけた視界の下の方には、
マネキンのようにぐちゃぐちゃになったママが倒れていた。