表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/30

歴史人物の現代ライフ

宅ダンスレッスンは、結局3分で頓挫した。

曹操が「此れは兵士の練兵にすらならぬ」と断じ、信長が「動きに斬り合いへの応用が利かぬ」と同意したためだ。システムは「文化交流失敗!」と悲しげな通知を出したが、幸い『極楽浄土』の強制再生は、二人が「戦術的価値なし」と判断したことで回避された。

羅夢は心底ほっとした。曹操にハートの形を作らせようとした瞬間、あの氷のような視線を浴びた時の恐怖は、もう二度と味わいたくない。

代わりに、システムは別の提案をしてきた。

【宅ダンスミッションは失敗しましたが、文化交流の精神は評価します!】

【代替報酬として、バッテリー節約モードを一時解除し、『電卓』『コンパス』などの基本アプリを利用可能にします!】

【ただし、バッテリー消費は加速します!現在残量71%!】

「電卓とコンパス……」羅夢は唸った。確かに、地図として使えるアプリはまだオフラインだが、基本機能なら役立つかもしれない。

彼女は携帯の画面をスワイプし、アプリ一覧を開いた。

曹操の目が、その動きに釘付けになった。「……其の動きは?画面を撫でるように……」

「スワイプです」羅夢は説明した。「次の画面に移る時に……」

「ふむ」曹操は真剣な顔で頷いた。「即ち、巻物を開くようなものか」

「まあ……そんな感じです」

羅夢が電卓アプリをタップした。シンプルな計算機の画面が現れる。

「此れは『電卓』です。数字を計算する道具で……」

彼女の説明が終わらないうちに、曹操が手を差し伸べ、携帯を取った。

「……数字を計算する」

彼は画面を凝視し、指で「1」「0」「0」「0」とタップした。画面に「1000」と表示される。

「千」曹操は呟いた。「それに……五割増しは」

彼は「×」「1」「.」「5」「=」とタップした。

「千五百」

彼の目が、微かに光った。

「速い」

「ええ、速いですよね」羅夢は頷いた。「掛け算も割り算も、複雑な計算も……」

曹操はもう聞いていなかった。彼は夢中で数字を入力し始めた。

「仮に、兵士一万に、日々糧秣三升ずつ与えるとせよ」彼は独り言のように呟きながら入力する。「三十日では……九千石」

「さらに、馬三千頭に、飼料五升ずつ……三十日では……四千五百石」

「合わせて、一万三千五百石」

信長が興味深そうに覗き込んだ。「おお、即座に計算できるのか」

「然り」曹操は目を離さずに答えた。「しかも、間違えぬ」

彼はさらに計算を続けた。

「一日の行軍速度を……五パーセント向上させるとせよ」

「×」「1」「.」「0」「5」「=」

「遼東平定まで、あと千里。通常の速度では二十日……」

彼は計算を続けた。目は画面に釘付けで、指の動きは次第に速くなっていく。

信長はあっけにとられてそれを見ていたが、すぐに自分の興味を向けるものを見つけた。羅夢が次に開いたアプリ——コンパスだ。

「此れは?」信長が指さした。

「コンパスです。常に北を指します」

「北を……」信長の目が見開かれた。「常に?」

「はい。磁力を利用して……」

説明する間もなく、信長は携帯を取り上げた。コンパスの針が、揺れながらも確かに北を指している。

彼は体の向きを変えてみた。針はそれに合わせて動き、常に北を指し示す。

「……凄い」信長の声には、驚き以上に熱がこもっていた。「此れほど正確に、常に北を指す道具が……」

彼は顔を上げ、遠くの山並みを見た。

「水軍に此れがあれば……霧の日でも、夜でも、方向を見失わぬ」

「海を渡るにも……陸を進むにも……」

彼の目が輝いた。「天下布武……此れがあれば、さらに速く、さらに確実に……」

羅夢は二人の反応を見て、少し驚いた。電卓とコンパス——現代人にとっては当たり前の機能が、彼らにはこれほどの衝撃を与えるのか。

曹操はまだ計算に夢中だった。

「……もし、兵站の効率を十パーセント向上させれば、必要な糧秣は……一万二千百五十石に減る」

「その分を、武器の調達に回せば……」

「戦力を、さらに三パーセント向上させられる……」

彼は完全に没頭していた。もはや羅夢や信長の存在さえ忘れているようだ。

【警告:バッテリー消費が加速しています!】

【電卓アプリ使用中:現在残量70%】

【コンパスアプリ使用中:現在残量69%】

「あ、ちょっと!二人とも!バッテリーが減ってます!」羅夢は慌てて声を上げた。

曹操はやっと顔を上げた。目には、何か閃いたような光が宿っていた。

「此の『電卓』……常に持ち歩けるのか」

「はい、ですが……」

「ならば」曹操は携帯をしっかりと握りしめた。「此れは、我が軍に必須の道具だ」

「待って!それは私の……」

信長もコンパスを離さない。「此の『コンパス』も、わしが預かる。水軍の訓練に必須だ」

「ダメです!二人とも!それは私の携帯です!」

羅夢は必死に手を伸ばしたが、曹操は巧みにかわし、信長は背を向けた。

「我々が此の異世界を生き延びるためには、優れた道具が必要だ」曹操は冷静に言った。「此れは、戦略的必要である」

「同意だ!」信長は笑った。「娘よ、此れらは一時的に我々が預かる。その代わり、わしらが汝を護ってやろう」

「護ってくれるのはありがたいですが、それは別問題で……」

その時、突然——

道端の茂みから、何かが飛び出してきた。

いや、正確には——転がり出てきた。

銀色の鎧に身を包んだ若き武将が、地面を一度転がり、すぐに飛び起き上がった。その手には、長い槍が握られている。

「趙雲、ここにあり!」

彼は叫びながら、周囲を見回した。そして、曹操と信長、羅夢の三人を見て、一瞬、目を見開いた。

「……曹公?」趙雲の声には驚きが滲んでいた。「何故ここに……そして、此の方は?」

彼の視線は信長に向けられた。信長の南蛮胴具足と陣羽織は、明らかに趙雲の知るいかなる服装とも異なる。

曹操は冷静に趙雲を見た。「趙雲か。何故ここに?」

「雲は……」趙雲は混乱したように首を振った。「長坂坂にて、幼主を護りつつ戦っていた。然るに、突然、周囲の光景が変わり……気が付けば、此の地に」

「長坂坂?」羅夢の声が思わず出た。

それは——まさに、彼女が携帯に保存している『三国志演義』の中で、趙雲が最も有名な活躍をした場面ではないか。

信長が興味深そうに趙雲を観察した。「槍の遣い手か。なかなかの風貌だ」

趙雲は警戒して槍を構え直した。「此の方々は?」

「共に此の異世界に迷いし者だ」曹操は簡潔に説明した。「今は、協力して生き延びる道を探している」

趙雲は少し戸惑いながらも、槍を下ろした。「……そうであらんか」

そして彼の目が、曹操の手に握られている携帯に留まった。

「曹公、其の……光る板は?」

曹操はちらりと携帯を見て、そして羅夢を見た。「此の娘の所有物だ。『天機匣』と称する」

「天機……匣?」趙雲はますます困惑した。

羅夢は頭を抱えた。また説明するのか……

だが、システムが彼女を助けた。

【新たな歴史的人物を検知:趙雲(子龍)】

【状態:混乱、警戒、しかし敵意なし】

【提案:友好関係を構築しましょう!】

【方法:例えば、彼の有名な場面を見せてあげるのはいかがですか?】

【オススメ動画:『三国志演義』第30話『長坂坡の戦い』】

「ダメです!」羅夢は心の中で叫んだ。「バッテリーが!」

【バッテリー残量:68%】

【動画再生可能です!5分間の抜粋再生なら、消費は1%未満!】

【友好度アップのチャンスです!】

趙雲が近づいてきた。「其の『天機匣』……何か、雲に関係あるものか?」

彼の目は真っ直ぐで、疑念よりも好奇心に満ちていた。

羅夢はため息をついた。もう、どうにでもなれ。

「……ちょっとだけ、見せます」彼女は言った。「でも、5分だけですから」

曹操は眉をひそめた。「また、此れを使うのか。バッテリーが減ると言っていたではないか」

「1%だけです!それに……」羅夢は趙雲を見た。「彼が、自分がどんな風に描かれているか知る権利はあると思います」

信長が笑った。「ほう、わしの時と同じか!面白い!見せてやれ、娘よ!」

羅夢は携帯を取り戻し——曹操は少し渋ったが、結局手放した——『三国志演義』のファイルを開き、第30話を探した。

長坂坡の戦い。趙雲が劉禅を抱え、曹操軍の中を七進七出する——その伝説の場面だ。

「これです」彼女は動画を再生した。

趙雲は、真剣な表情で画面を見つめた。

最初は、役者が演じる自分自身の姿に、戸惑いを隠せなかった。

だが、戦いが始まり、彼が敵陣に単騎で突撃するシーンになると——彼の表情が変わった。

画面の中の趙雲が、敵兵を次々と倒し、劉禅を守りながら疾走する。

現実の趙雲は、一言も発さなかった。

ただ、じっと見つめていた。

動画は、趙雲が無事に劉備の下に戻り、劉禅を渡すシーンで終わった。

再生時間:4分37秒。

静寂が流れた。

趙雲は、まだ画面を見つめていた。動画は終わっているのに。

「……雲」彼は、ようやく口を開いた。「あの時……あのように、見えたのか」

その声には、驚きと、戸惑いと、そして何か——誇りのようなものが混ざっていた。

「槍の動きは……」彼は自分の手を見た。「あそこまで……華美ではなかったが」

「それは演出です」羅夢は急いで説明した。「実際の戦いとは、ちょっと違うかもしれません」

「演出……」趙雲はその言葉を繰り返した。「では、人々は……雲を、あのように記憶しているのか」

「記憶というより……」羅夢は言葉を選んだ。「物語として、楽しんでいるんです。あなたの勇敢さを、称えているんです」

趙雲は深く息を吸い込んだ。

そして、彼は曹操に向き直り、深く一礼した。

「曹公、あの時は、敵ながら、あえて深く追撃なさらず、雲を通してくださった。そのこと、今でも感謝しております」

曹操は微かに頷いた。「あれは……戦術的判断だ。深追いは無用だった」

だが、その目には、わずかながらの敬意が宿っていた。

信長が感心したようにうなずいた。「なるほど……此れが、後世に語り継がれる『英雄』というものか」

彼は趙雲を見た。「槍の遣い手よ、我が軍に加わらぬか?共に、此の異世界を切り拓こう」

趙雲は一瞬、目を見開いた。そして、ゆっくりと首を振った。

「雲は、劉備様に仕える身。たとえ此の異世界にいようと、その志は変わりません」

「ふむ」信長は残念そうだったが、笑みを浮かべた。「それも良かろう。忠義は、武士の基本だ」

【趙雲の友好度が大幅に上昇しました!】

【現在:中立 → 友好的】

【バッテリー消費:1% (67%に減少)】

【しかし、文化的交流の価値は計り知れません!】

羅夢はほっと胸を撫で下ろした。少なくとも、敵対されずに済んだ。

曹操が再び携帯を見た。「……では、計算を続けよう」

「待ってください!」羅夢は慌てて止めた。「バッテリーが67%です!もうすぐ危険水域です!」

「危険水域?」曹操は眉をひそめた。

「つまり、あと少しで動かなくなるんです!」羅夢は必死に説明した。「だから、もう使わないでください!雷雲まで行って充電するまで!」

信長も、ようやくコンパスを離した。「……仕方あるまい。ならば、早く此の『雷雲』に向かおう」

趙雲が首を傾げた。「雷雲……ですか?」

「ああ」羅夢は説明した。「此の携帯——『天機匣』を動かすための『エネルギー』を補充するために、雷が必要なんです」

趙雲は理解したように頷いた。「では、雲もお供しましょう。雷の地は、往々にして危険なものです」

「あ、ありがとうございます……」

羅夢は心の中で思った。趙雲が味方についてくれたのはありがたいが、その分、食料とか、宿泊とか、いろいろ問題が増えそうだ……

彼女が考えていると、システムの通知が再び表示された。

【緊急通知:現実世界から、新たな連絡が入りました!】

【送信者:VRテスト管理部門】

【件名:被験者#998(羅夢)の異常脳波に関する緊急協議のご連絡】

【内容:本日午後3時より、関係者による緊急協議が行われます。プロジェクトの継続可否について審議されます。】

【付記:被験者の安全を最優先に検討いたします。】

羅夢の顔色が青ざめた。

協議?

プロジェクトの継続可否?

「最優先に」という言葉が、逆に不気味に響いた。

【現在の現実世界時刻:午後2時47分】

【協議開始まで:あと13分】

【提案:現実世界の身体が安全を確保されるよう、祈りましょう!】

【あるいは、此方でできることをしましょう!例えば——雷雲まで急ぎましょう!】

「急ごう……」羅夢は呟いた。「急がなきゃ……」

曹操が彼女の様子を見て、鋭い目を細めた。「……何かあったのか」

「現実世界で……私の身体が、危ないかもしれません」羅夢は正直に言った。「もうすぐ、テストを中止するかどうか、話し合いが行われるそうです」

「中止?」信長が聞き返した。「つまり、汝は此処から消えるのか?」

「……多分、そうなります」

趙雲が真剣な表情で言った。「ならば、尚更急がねばなりませんな。此の『天機匣』を動かし続けるために」

四人は顔を見合わせた。

曹操は電卓アプリの画面を一度見つめ、そして顔を上げた。

「行くぞ」

その一言に、全員が頷いた。

北西の空には、雷雲がますます濃く立ち込めている。

道のりはまだ遠い。

バッテリーは67%。

現実世界での協議開始まで、あと13分。

羅夢は携帯をしっかりと握りしめ、一歩を踏み出した。

背後では、曹操がまだ小声で計算を続けていた。

「もし兵站の効率を十五パーセント向上させれば……」

信長はコンパスを手に、方角を確認していた。

「北へ……であれば、あの山の麓を回るのが近道か」

趙雲は槍を構え、周囲を警戒していた。

そして羅夢は、ただ一つ願った。

どうか、時間が足りますように。

どうか、雷で充電なんて無茶なことが、うまくいきますように。

どうか——

彼女の願いが終わらないうちに、またもシステムの通知が表示された。

【新規ミッションを検知!】

【ミッション名:『雷神への挑戦』】

【内容:雷雲の中心部まで到達し、自然放電を利用して充電を試みましょう!】

【成功報酬:バッテリー残量+30%!新機能『天気予報(限定的)』アンロック!】

【失敗ペナルティ:感電死(高確率)】

【補足:雷雨の中では、金属製の物を身に着けないようにしましょう!特に長い槍とか!】

【幸運を祈ります!(๑•̀ᄇ•́)و ✧】

羅夢は、趙雲が握る銀色の長槍を見た。

そして、自分が持つ金属の塊——iPhoneを見た。

「……金属、ダメなんですよね」彼女は虚ろな声で呟いた。

趙雲が首を傾げた。「何か問題が?」

「いえ……」羅夢は深く息を吸い込んだ。「ただ、これからやることが、どんどん無茶になってるって思っただけです」

信長が高らかに笑った。

「無茶こそ、人生の醍醐味だ!」

曹操は冷静に付け加えた。「しかし、無茶は計画性を持って行うべきだ。まずは、雷を如何にして安全に利用するか、考えねばならぬ」

彼は再び電卓アプリを開こうとしたが、羅夢に止められた。

「考えは良いですが、電卓はダメです!バッテリーが!」

曹操は少し不満そうな顔をしたが、仕方なく携帯を手放した。

四人は、雷雲に向かって歩き始めた。

頭の上では、雷光がちらつき始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ