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スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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現実世界、そして次のステージへ

とある研究機関(非公開)からの内部メモ


案件:変数個体「羅夢」周辺の共鳴現象


概要:対象個体の退院後、過去の「実験場」接続時に使用された近隣の複数のデータソース(一般人) に、軽度の歴史的既視感デジャヴ 及び夢内容の異常が報告されている。因果関係は不明。対象個体自身にも接触の事実を確認。


懸念:観測者プロトコルによる検知を誘発する可能性。あるいは、プロトコルの想定しない新たな変数連鎖の始まりか。


提案:対象個体への監視(保護)を継続すると共に、共鳴現象を示すデータソースの経過を静かに観察する。記録せよ。だが、干渉するな。


我々の関心は、彼らが「何を思い、何を選択するか」にある。

病院の混乱は、やがて収束へと向かった。


壊れたドアと窓は応急処置され、歴史修正者兵士たちの痕跡は、公式には「突発的な集団妄想事件」と片付けられた。もちろん、堀内教授をはじめとする関係者の記憶には、鮮烈な違和感が残った。だが、人間の心は、理解できない現実を無理やり整理し、折り畳むようにできている。やがて、あの光景は、まるで悪夢のように、意識の隅に追いやられていく。


羅夢の回復は、医学的に説明のつかない速さで進んだ。一週間後には歩行が可能になり、二週間後には退院の許可が下りた。両親は、娘の命が戻ったことにただただ感謝し、細かな疑問は胸の奥にしまい込んだ。


静かな自宅の部屋。羅夢は、ベッドの上で、あの携帯——今は普通のスマートフォン——を眺めている。ホーム画面には、友人たちからの心配のメッセージが並ぶ。学校の課題の連絡。そして、ひっそりと、「観測者コンソール(限定版)」の青い目のアイコン。


彼女は、そっとアイコンをタップする。


Lin からのメッセージは、まだあの一言だけだ。


『無事?』


彼女の『はい。ありがとう』に対して、既読はついているが、返信はない。


(…観測者プロトコル内部の、反体制派…)


彼女、リンという存在は、本当に味方なのか。それとも、より入念な「観測」の始まりに過ぎないのか。わからない。信用するしかない、という状況も、同じだ。


彼女は、ブラウザを開く。無意識に、三国志や戦国時代の資料を検索する。曹操、劉備、信長、毛利… 彼らの名前を打ち込み、歴史的な事績を読みあさる。どこかに、あの「実験場」での彼らとの共通点、痕跡はないかと。


もちろん、ない。歴史書に記されたのは、冷徹な事実と後世の解釈だけだ。彼女が知る、あの悩み、あの笑い、あの絆は、どこにも書かれていない。


(…データの残滓…)


彼女は、目を閉じる。記憶を呼び起こそうとする。曹操の、重々しいがどこか寂しげな背中。信長の、破天荒な笑い声。趙雲の、確かな守りの姿勢。諸葛亮と毛利の、知略が光る眼差し。


鮮明だ。あまりに鮮明で、胸が締め付けられる。あれが、すべて「データ」や「プログラム」の産物だったとしても、彼女にとっての思い出は、紛れもなく本物だ。


携帯が、かすかに振動する。


新着メールだ。差出人は… 聖恵医科大学付属病院・精神神経科?


件名:【ご協力のお願い】特例臨床研究への参加について


本文には、こう書かれていた。


〈羅夢 様


この度、当科で進行しております、特定の重度昏睡状態からの覚醒事例に関する長期追跡研究に、ご協力いただけないでしょうか。ご自身の体験が、今後の医学に大いに役立つ可能性がございます。


研究代表:堀内 一郎〉


羅夢の目が細くなる。


(…偶然?)


それとも、これも、何者かの… 例えば、Linの手配か?


彼女は、メールを読み返す。そして、ゆっくりと返信の下書きを始めた。


〈研究の目的と、私の協力内容について、より詳細を伺ってもよろしいでしょうか。〉


送信ボタンを押す。


彼女は、窓の外を見る。そこには、平凡な住宅街の夕景が広がっている。子どもが自転車で走り過ぎる。主婦が買い物袋を提げて歩く。ごく普通の現実。


だが、彼女は知ってしまった。


この現実のすぐ下に、別の層があることを。「観測者」がいて、「実験場」があり、歴史そのものを弄ぶプロトコルが存在することを。


そして、彼女自身が、そのプロトコルから見て「異常変数」であり、消去対象であることを。


恐怖はある。だが、それ以上に、ある確かな感情が胸を満たしている。


怒り、ではない。もっと強い、確固たるもの。


(…絶対に、また会う。)


(曹操さんにも、信長さんにも、みんなにも。そして、観測者プロトコルに、ちゃんとケリをつける。)


彼女は、スマホのメモ帳を開く。そして、タイトルを打ち込んだ。


『観測記録:変数ローム』


そして、一行目に、こう記す。


〈覚醒日。観測者は、まだ私を見ている。だが、今度は、私も彼らを“観測”する。〉


彼女は、ほんの少し、口元を緩めた。


まるで、どこかにいる、あの軍師たちのような、計算高い微笑みを浮かべて。


退院して三日後。学校へ向かう通学路で、彼女はある人物に声をかけられる。


「君、確か… 聖恵医科大学付属病院にいた…」


振り返ると、そこには、あの日、病院の廊下で偶然出会った、歴史オタク風の青年(彼こそが、現実世界で「劉備」のデータソースとなった青年、伊達智也)が立っていた。彼は、顔色が悪く、どこかおびえたような目をしている。


「俺… 最近、変な夢ばかり見るんだ。三国志の、すごくリアルな夢。君も、何か…」


智也の言葉に、羅夢の心臓が高鳴る。


(繋がっている…?)


(あの“実験場”のデータが、現実の人物にも、何か影響を…?)


彼女は、深く息を吸い、青年を見つめた。


「…ゆっくり、話を聞かせてもらえますか?」


物語は、確かに終わっていない。


むしろ、新たな章が、静かに、しかし確実に、ページをめくられようとしている。

この物語は、一つの区切りを迎えました。


これは、現実世界の少女・羅夢ローム が、突如として「歴史修正実験場」に引き込まれ、曹操、織田信長、趙雲、諸葛亮、毛利元就といった歴史の英雄たちのデータ体と出会い、絆を結び、そして「観測者」という超越的な存在に立ち向かう、現実とデータの狭間の冒険譚でした。


もし、ロームと英雄たちの駆け抜けるような日々、そして彼女が現実に帰還した後の静かなる決意に、胸を打たれたなら。もし、この現実世界のすぐ下に潜む、もう一つの「層」の存在に、好奇心を掻き立てられたなら――。


この物語を紡いだのは、私です。現実の片隅にひそむ「非日常」の扉をこじ開け、その向こうの光と影を言葉に写し取りたいと思う者です。


私の物語は、いつも、どこかで現実と非現実の境界がゆらぐ瞬間を描きます。歴史のif、記憶の交錯、日常に紛れ込む不可思議――そんな「あり得たかもしれない物語」や「気づかれないうちに始まっている物語」に、私は心惹かれます。


この先、ロームの現実世界での戦いはどうなるのか。


観測者プロトコル、そして反体制派の「Lin」の正体は何か。


伊達智也をはじめ、他の「データソース」となった人々には、何が起きているのか。


そして何より、ロームは、データの中に残された英雄たちの「残滓」と、再び出会うことはできるのか――。


物語の幕は下りても、彼女の戦いは、同じ世界の、違うステージで、静かに続いています。


もしかしたら、次に私が紡ぐのは、そんな彼女の「現実世界での探求」の物語かもしれません。


あるいは、全く別の時代、別の場所で、別の「観測対象」となってしまった少年少女の物語かもしれません。


例えば、幕末の京都で、新選組隊士のデータ体と出会う現代の剣道少女の話や、ルネサンス期のフィレンツェに飛ばされ、レオナルド・ダ・ヴィンチのアシスタントをすることになる美術部員の話など…。


もし、そんな 「歴史の影」 や 「現実の裂け目」 を舞台にした物語に、またご一緒できるようでしたら――。


私の名前と、私が探求する 「境界線の物語」 というテーマを、心の片隅に留めていただければ幸いです。


次の物語の始まりは、いつも、あなたのすぐ隣の、少しだけ見慣れない景色の中にあるかもしれません。


それでは最後に、この物語の、あるいは次の物語の、ささやかな予告編を。


羅夢の現実は、今日も続く。


どうか、あなたの日常にも、思わぬ発見と、優しい驚きがありますように。


また、いつか、別の物語、あるいはこの続きで、お会いしましょう。


(了)

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