第一卷結局
次巻予告:
現実世界での新生活と、観測者リンとの奇妙な関係
携帯に残された「英雄の記憶」データと、その秘密
歴史修正者の影は本当に去ったのか?
病院での事件の後始末と、世間の反応
そして、いつか訪れる再会の日——第二巻へ
最終章のポイント:
危機の完全解決ではなく、新たな均衡の形成(観測者内部の反体制派登場)
英雄たちの「記憶の残響」による最後の戦いと感動的な別れ
リンという新キャラクターの導入と、彼女の曖昧な立場(味方?敵?)
携帯の復活と、新機能「観測者コンソール」による続編への布石
羅夢の成長の完成:受け身の留学生から、自らの運命と向き合う戦士へ
オープンエンドだが希望のある終わり方(また会える可能性)
物語は、ここで一旦の区切りを迎えます。
羅夢と英雄たちの物語は、まだ終わっていません。
次の冒険を、どうぞお楽しみに。
ありがとう、曹操様、織田信長様、趙雲様、諸葛亮様、毛利元就様、小弥。
そして、ようこそ、リン。
現実世界での、新たな戦いが始まります——
現実世界・聖恵医科大学付属病院 集中治療室
午後2時17分。
羅夢の意識が、ゆっくりと現実に定着していく。
ベッドの上で、彼女の指が、微かに動いた。最初は、ほとんど気づかないほどのかすかな震え。次に、人差し指が、ほんの数ミリ、持ち上がる。
「……っ」
かすれた息が、乾いた唇から漏れる。
モニターの心拍数が、安定したリズムを刻み始める。脳波は、昏睡状態特有の緩やかな波から、覚醒に近い活発なパターンへと変化している。
「患者、意識回復の兆候があります!」
看護師の声に、医師たちが駆け寄る。
堀内教授はモニターを凝視し、信じられないという表情を浮かべる。「……ありえない。脳波が、完全に正常化している」
その時——
ベッドサイドの棚の上に、何かが置かれていた。
誰も気づいていない。そこには、本来何もないはずだ。
だが、確かにそこにある。
羅夢の携帯だ。
画面は砕け、本体はひどく焦げている。あの異世界で、最後のエネルギーを放出し、完全に壊れたはずのあの携帯が。
それが、微かに、ほのかな青白い光を放っている。
【……再起動……完了……】
画面に、かすかに文字が浮かぶ。
【接続成功:現実世界ネットワーク】
光が、少し強くなる。
【ユーザー認証……羅夢……】
【データ同期……完了……】
【ようこそ戻りました、変数ローム】
文字は、そこで一瞬止まる。
そして、画面の色が、ゆっくりと変わり始める。
青から、黄へ。
黄から、赤へ。
不気味な、警告色の赤。
【ただし……】
新しい文字が、一つずつ、ゆっくりと表示される。
【……観測者は……既に察知……】
病室の電気が、一瞬ちらつく。
モニターの警報が、突然、一斉に鳴り響く。
ビープッ! ビープッ! ビープッ!
「何だ!?」堀内教授が叫ぶ。
「すべてのモニターが異常値を示しています!」
「心拍数、急上昇!」
「脳波、乱れています!」
羅夢の身体が、ベッドの上で痙攣し始める。目は見開かれたまま、焦点が合わない。
「鎮静剤を!」森田医師が指示する。
だが、看護師が薬を準備しようとしたその瞬間——
携帯の画面が、最大輝度で赤く光る。
【第二ラウンド消去プログラム……起動】
文字が、画面いっぱいに表示される。
そして、その下に、新たな行が。
【歴史修正者・完全体軍団……降臨】
ドン!
病室の窓ガラスが、一斉に割れる。
外から、光が差し込む——いや、違う。光が、侵入してくる。
幾筋もの光の柱が、空から降り注ぎ、病院の周囲に落下する。地面を揺るがす衝撃。
「何が起きている!?」堀内教授が窓に向かう。
外の光景に、彼の顔から血の気が引く。
病院の中庭に、幾つもの光の柱が立っている。その中から、人影が現れ始める。
鎧をまとった兵士たち。だが、その鎧は、どの時代のものとも断定できない。古代中国、戦国日本、中世ヨーロッパ——あらゆる時代の武装が、無理矢理に融合している。
そして、その顔は——無貌だ。滑らかな金属の面。
歴史修正者・完全体兵士たち。
その数、数十——いや、百を超える。
「あれは……何だ……」森田医師の声が震える。
兵士たちが、一斉に動き出す。病院の入口に向かって、整然と、しかし確実に。
ドン! ドン! ドン!
重い足音が、階下から響いてくる。上がってくる。
「警備員! 警備員を呼べ!」堀内教授が叫ぶ。
だが、階下から悲鳴と、何かが倒れる音が聞こえる。
すでに、遅い。
兵士たちは、階段を上がり、廊下を進み、この集中治療室の前まで来ている。
ドン。
ドアの前で、足音が止まる。
静寂。
そして——
バーン!!
鋼鉄のドアが、内側からへこみ、ちぎれ、吹き飛ぶ。
入り口に、三体の歴史修正者兵士が立っている。手には、時代錯誤の武器——槍、剣、そして、現代的な銃に似た武器。
兵士の一人が、機械的な声で告げる。
「異常変数『羅夢』……回収する」
「ここから離れよ……妨害は許さぬ」
堀内教授と森田医師は、体が凍りつく。看護師たちは悲鳴を上げ、縮こまる。
羅夢の父母が、娘のベッドの前で、必死に立ちはだかる。
「娘を……娘を離さない!」
兵士たちは、ゆっくりと近づく。
その時——
羅夢の目が、完全に見開かれた。
焦点が合う。
彼女は、兵士たちを見た。
そして、理解した。
終わっていない。
戦いは、終わっていない。
「……みんな」
彼女の声は、かすかだが、確かだ。
「私を……守ってくれて……ありがとう」
彼女は、ゆっくりと手を伸ばす。ベッドサイドの棚の上にある、光る携帯に向かって。
兵士の一人が、銃のような武器を構える。
「動くな」
だが、羅夢は止まらない。
彼女の指が、携帯に触れる。
その瞬間——
携帯の画面が、再び光る。今回は、白い光。
【ユーザー羅夢……認識】
【危機レベル……最大】
【緊急プロトコル……起動】
兵士が引き金を引く。
光の弾が、羅夢に向かって飛ぶ。
が、携帯の画面から、光の壁が現れ、弾を跳ね返す。
【歴史修正者……完全体軍団】
【戦闘力……極めて高い】
【生存確率……0.7%】
「0.7%か……」羅夢は、かすかに笑った。「前より、上がってる」
彼女は、携帯をしっかりと握りしめ、立ち上がる。足は震える。が、立つ。
「観測者……」
彼女の声には、怒りが込められている。
「あんたたち……私の大切な人たちを……消した」
兵士たちが、一斉に襲いかかる。
その瞬間、携帯の画面に、新たなメッセージが表示される。
【提案:データベース『英雄の記憶』を起動】
【説明:過去に接続した歴史的人物のデータパターンを一時的に再現】
【持続時間:3分】
【消費:残存エネルギーの全て】
【実行しますか?】
羅夢は、迷わなかった。
「はい」
【了解】
携帯が、熱くなる。光り輝く。
そして、その光の中から、影が現れる。
一人、また一人。
鎧をまとった男たち。
曹操。信長。趙雲。諸葛亮。毛利。
彼らではない。データのコピーでもない。彼らの戦いの記憶、絆の記憶、羅夢と過ごした時間の記憶——それらが形を成した、残響のようなもの。
「……曹公」羅夢の声が震える。
曹操の影が、微かにうなずく。声はない。が、確かに彼だ。
信長の影が大笑いしている。趙雲の影が槍を構える。諸葛亮と毛利の影が、術を準備する。
「時間は……3分だけです」羅夢が言う。「でも……ありがとう」
曹操の影が、剣を掲げる。
まるで、指示を出すように。
信長の影が、先陣を切る。
「はは! また戦えるではないか!」
趙雲の影が、羅夢の前に立つ。
「護ります」
歴史修正者兵士たちと、英雄たちの記憶の戦いが始まる。
病室は、光と影の戦場となる。
堀内教授たちは、ただ呆然と見守るしかない。此の現実離れした光景を。
3分。
激しい戦い。
英雄たちの影は、確かに強い。だが、数では圧倒的に不利だ。歴史修正者兵士たちは、次々と増援が現れる。
「時間……あと1分」羅夢が携帯を見る。
エネルギーの表示が、急速に減っていく。
10%。5%。1%。
曹操の影が、最後の一撃を放ち、三体の兵士を倒す。が、その影も、薄れ始める。
「曹公……」
曹操の影が、振り返る。最後に、微かに笑う。
そして、消える。
信長、趙雲、諸葛亮、毛利の影も、次々と消えていく。
最後に、趙雲の影が、羅夢を見つめ、深くうなずく。
「生きて……ください」
彼も消える。
静寂。
兵士たちは、まだ十体以上残っている。
携帯のエネルギーは、0%。
画面が暗くなる。
「……終わりか」羅夢は、涙をこらえる。
兵士たちが、ゆっくりと近づいてくる。
その時——
病室の天井が、突然、光り輝く。
新しい光の柱が、降り注ぐ。
兵士たちが、一斉にその光を見上げる。
光の中から、声が聞こえる。
『……観測者プロトコルに、異議を申し立てる』
機械的な、しかしどこか人間的な声。
『変数ロームは、我が管轄下にある』
光の中から、新たな影が現れる。
一人の女性だ。白衣をまとった、学者のような風貌。年齢はわからない。目は鋭い。
彼女の周りには、無数のデータの流れが渦巻いている。
「あなたは……?」羅夢が聞く。
『観測者プロトコル内部の、反体制派とでも呼んでくれ』女性は淡々と言う。『私は、貴女の実験データを観察していた者だ。貴女と、彼らの物語に……興味を持った』
彼女は手を上げる。
周りの歴史修正者兵士たちが、突然、動きを止める。
『此れらは、プロトコルが自動的に送り込んだものだ。我が制御下にはない』彼女は説明する。『が、一時的に停止させることはできる』
兵士たちは、その場に凍りついたまま、動かない。
『聞いてくれ、羅夢』女性は彼女を見つめる。『貴女は、異常変数だ。観測者プロトコルは、貴女を消去しようとするだろう。これからも』
「なぜ、私を?」
『貴女が、実験場のデータと融合し、予期せぬ進化を遂げたからだ』女性の目が輝く。『歴史的人物たちとの絆。データでありながら、本物の感情。其れは、プロトコルの予測を完全に超えていた』
彼女は一歩近づく。
『私は、貴女を研究したい。貴女の中に、新しい可能性を見た』
「研究……される?」
『心配するな。強制はしない』女性は微笑む。『代わりに、提案がある。貴女は、現実世界で生き続ける。だが、時折、我が研究に協力する。その見返りに、我は、観測者プロトコルから貴女を守る』
「どうやって?」
『私は、プロトコル内部にいる。情報を操作し、貴女の存在を隠すことができる』彼女は周りの兵士たちを見る。『此れらも、我が調整で、貴女を“回収失敗”と報告するだろう』
羅夢は、深く考え込む。
信用できるか? わからない。
だが、選択肢はない。
「……条件を聞かせてください」
『賢明だ』女性はうなずく。『では、第一の条件。貴女は、あの歴史的人物たちとの体験を、誰にも話してはならない。データの漏洩を防ぐためだ』
「でも、彼らのことを——」
『記録には残せる』女性は優しく言う。『が、公開はできない。理解してくれ』
羅夢は、唇を噛んだ。が、うなずく。
「……わかりました」
『第二。貴女の携帯——我が少し調整した。此れからは、普通のスマートフォンとして使える。が、特別な機能も残している。必要なら、我に連絡できる』
「あなたと?」
『そうだ』女性は微笑む。『我の名前は、リンのようなものだ。では、さようなら、羅夢。また会おう』
彼女の体が、光の中に溶けていく。
『ああ、そうだ。最後に一つ』
リンらしき女性が、振り返る。
『彼ら——曹操や信長たちは、完全には消えていない。データの残滓は、貴女の記憶の中に、しっかりと刻まれている。いつか、また会える日が来るかもしれない』
「本当ですか!?」
『可能性は、ゼロではない』彼女はウインクする。『では、本当にさようなら』
光が消える。
兵士たちも、光の粒子となり、消えていく。
病室には、静寂が戻る。
壊れたドア。割れた窓。呆然とする医師たち。震える両親。
そして、ベッドの上で、携帯を握りしめる羅夢。
モニターの警報は、すべて止まった。正常な数値に戻っている。
「……終わった……の?」母親が震える声で聞く。
羅夢は、ゆっくりとうなずく。
「多分……ひとまずは」
彼女は、携帯の画面を見る。
そこには、普通のホーム画面が表示されている。ウェイボ(微信)、メール、ブラウザ——普通のスマホだ。
だが、アプリの一つに、見慣れないアイコンがある。
小さな、青い目のマーク。
『観測者コンソール(限定版)』
彼女は、そっとそのアイコンをタッチした。
画面が変わる。シンプルなチャット画面だ。
送信者:Lin
『無事?』
羅夢は、ゆっくりと文字を打つ。
『はい。ありがとう』
既読。返信はない。
彼女は、画面を閉じ、窓の外を見た。
晴れ渡った青空。普通の、平和な空。
だが、彼女は知っている。
この普通の世界の向こうに、もう一つの世界があること。
観測者がいまだに彼女を見つめていること。
そして、いつかまた、あの英雄たちに会えるかもしれないことを。
「夢夢、大丈夫?」父親が心配そうに声をかける。
彼女は、ゆっくりと顔を向け、微笑んだ。
「うん。大丈夫」
彼女は携帯を胸に押し当て、そっと目を閉じた。
心の中で、誓う。
絶対に忘れない。
絶対に、また会う。
その日まで、生きる。
現実世界で、強く生きる。
——第一卷・完——
題: えっと、また休載しちゃいました…!そして重大発表?
正文:
あのー、皆様…
誠に勝手ながら、今回もまた、恐ろしくも恥ずかしい“休載”をしてしまいました…(土下座)
実を言うと、このストーリー、ネタが壮大すぎて、私の小さな脳みそが完全にパンクしそうなんですよ! 曹操様、信長様、趙雲様、孔明様、毛利様…こんな豪華メンバーをまとめあげて、さらに「観測者」とか「時空融合」とか、どうやってうまく着地させればいいのか、もう手が震えます! 笑
でも、「続きが気になる!」「面白い!」 って言ってくれる優しい読者の方が、本当に、本当にいらっしゃって…! 夜も眠れず、布団の中でごろごろしながら、ああでもないこうでもないと考えております。誓います、考えてます! マジで!
ふと気づいたんですよね。
主人公の羅夢が、異世界で「生き延びなきゃ」って必死なように、この物語を書いている私自身も、なんとしてでも“生き延びて”、完結させなきゃいけないんだ、って。
私と羅夢、同じ釜の飯を食う仲間かもしれません(違う)
というわけで、もう少しだけお時間をください…!
この壮大でふざけた物語の、ふさわしい“次の一歩”を、一緒に考えさせてください。
いつになるか分かりませんが、必ず戻ってきます。
だって、私も羅夢も、まだ“生きて”いますから。
それまで、応援してくださっている方は、ぜひぜひ感想とかいただけたら、それが一番の栄養になります…!(充電的な意味で)
またいつか、あの混沌融合世界でお会いしましょう。




