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スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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ネタバレは歴史を変える?

暗くなった携帯の画面が、三人の沈黙を映し出していた。

曹操の指が、テーブルを再び規則的に叩き始める。トン、トン、トン。それぞれの音が、羅夢の心臓の鼓動と重なるようだった。

「……外界と通じている、か」

彼は低く呟いた。目は暗い液晶画面に釘付けだ。

「であれば、此の『天機匣』には、外界の『情報』も蔵されているはずだ」

織田信長が片眉を上げた。「情報?」

「然り」曹操はゆっくりと顔を上げ、羅夢を見た。「汝、先程『三国志演義』とやらが此の中にあると言っていたな」

羅夢の背筋が凍った。まずい。超まずい。

「其れは——ただの——物語です!作り話!本当の歴史じゃありません!」彼女は必死に否定した。

「作り話?」曹操の目が細くなった。「ならば、何を基にして作られた?」

「それは……歴史書を……ちょっと脚色して……」

「ふむ」曹操は深く頷いた。「ならば尚更だ。『脚色』されたものであればこそ、其れを作りし者の『見方』が窺える。見せよ」

「えっ?」

「此の『三国志演義』とやらを」曹操の声に、抗いようのない威圧感があった。「我等に見せよ」

信長が笑った。「面白い!では、わしには『戦国BASARA』を見せてくれ!」

「待ってください!」羅夢は慌てて手を振った。「バッテリーが!今75%しかないんです!動画再生したら、もっと減っちゃいます!」

【ピピッ!ユーザーの懸念を検知!】

【システム分析:動画ファイル『三国志演義(1994年版)』全84話、及び『戦国BASARA シーズン1』全13話は、端末内にオフラインキャッシュされています!】

【再生可能です!】

【ただし、高画質再生時のバッテリー消費率は1時間あたり約15%と推定されます!】

【現在の残量75%では、最大5時間の再生が可能ですが、その後は充電手段がなければ永久停止します!】

【提案:重要なシーンのみ抜粋再生するのはいかがですか?】

【おすすめシーン:『煮酒論英雄』『赤壁の戦い』『本能寺の変』など、歴史の転換点が盛りだくさんです!(๑•̀ω•́๑)】

「『煮酒論英雄』……?」曹操がその言葉を繰り返した。彼の目に、微かな動揺——というより、強い興味が走った。「其れは……」

「あ、それは……」羅夢は記憶を必死に辿った。確か、曹操が劉備と一緒に酒を飲みながら「天下の英雄は君と俺だけだ」って言うシーンだったはず。

信長は相変わらず楽しそうだ。「では、わしには『本能寺の変』だな!どうせなら、わし自身の最期を見てみたい!」

「いやいやいや!自分の死ぬシーンを見たいってどういうことですか!?」羅夢は心底混乱した。

曹操は静かに手を伸ばし、テーブル上の携帯を指さした。「見せよ。此の『煮酒論英雄』とやらを」

その口調は、もはや議論の余地がなかった。

羅夢は絶望的に、携帯に手を伸ばした。指紋認証でロックが解除される。ホーム画面に、『三国志演義』と『戦国BASARA』のアイコンが並んでいる。

彼女は『三国志演義』のアイコンをタップした。ファイル一覧が表示される。確かに全84話がダウンロード済みだ。

「……第21話ですよね、多分」彼女は小声で呟きながら、該当するエピソードを探した。

信長は身を乗り出して画面を覗き込んだ。「おお、文字が動く!縮図が並んでいる!」

「サムネイルです」羅夢はぐったりしながら説明した。「各話の代表的な画像が……」

彼女の指が、第21話「煮酒論英雄」のサムネイルの上で止まった。

画面には、若き曹操と劉備が、庭園で向き合っている絵が使われている。二人の顔は、どちらも演者のものだ——もちろん、本物の曹操から見れば、全くの他人の顔である。

曹操の目が、そのサムネイルに釘付けになった。

「……此れが、予か」彼は低く呟いた。声には、複雑な響きが混じっていた。

「えっと……役者さんです」羅夢は申し訳なさそうに言った。「本当のあなたじゃなくて……」

「構わぬ」曹操は淡々と言った。「再生せよ」

羅夢は覚悟を決めて、再生ボタンをタップした。

画面が暗転し、中国の古風なオープニング音楽が流れ始めた。歌詞は現代中国語だが、メロディは重厚だ。

曹操は微かに眉をひそめた。「此の音楽……奇妙なり」

信長は「ふむ」と唸った。「調子は良いが、楽器の音色が聞き慣れぬ」

オープニングが終わり、本編が始まった。

画面には、青空の下、庭園の亭が映る。そして、二人の男が登場する——一人は赤い袍をまとった、精悍な面持ちの曹操(役)。もう一人は、穏やかな顔をした、少し気弱そうな劉備(役)。

羅夢はこっそりと曹操の表情を窺った。

曹操の顔には、一切の表情がなかった。ただ、目だけが鋭く画面に釘付けになり、微かに光っている。

亭の中で、役者の曹操が酒を酌み、劉備に語りかける。

『天下の英雄は、実は君と操だけなのだ』

本物の曹操の、指を叩く動作が止まった。

画面の中の曹操が、悠然と笑いながら論じる。

『夫れ英雄とは、胸に大志を抱き、腹に良謀を蔵し、天地の時勢に乗じ、宇宙の志を包み込む者のことをいう』

『今日の天下の英雄と言えば、使君(劉備)と操だけだ!袁紹の如きは、値するものではない!』

会議室は、映像の音声だけが流れる、重い静寂に包まれた。

信長が、面白そうに脇から見ている。時折「ほう」と感心したような声を漏らす。

一方、本物の曹操は、一言も発しない。

ただ、見つめている。

画面では、劉備が雷の音に驚き、箸を落とす仕草をする。曹操が笑う。

そして、劉備が無事に逃れていく……

エピソードが終わり、エンドロールが流れ始めた。

曹操は、まだしばらく画面を見つめていた。そして、ゆっくりと顔を上げた。

彼の表情は、相変わらず読み取りづらい。しかし、目の奥に、何かが渦巻いているのが感じられた。

「……劉備」彼は、ゆっくりと、一語一語を選ぶように言った。「後に……果たして、其の様になるのか」

それは、疑問というより、独り言に近かった。

羅夢は息を殺した。どう答えればいい?「はい、蜀漢の皇帝になります」?「あなたと戦い続けます」?

「あの……これは、後世の人が作った物語ですから」彼女はおずおずと言った。「実際の歴史とは、多少……違うかもしれません」

「多少、か」曹操は低く笑った。その笑みは、どこか自嘲的だった。「では、実際は如何であった?予は、劉備を如何評価していた?」

「それは……」羅夢は言葉に詰まった。正直に言うべき?「あなたは……彼を、危険な人物だと思っていた……そうです」

曹操は深く頷いた。「然り。今も、思っている」

彼は再び画面を見た。エンドロールが終わり、またサムネイル一覧に戻っている。

「此の『物語』の中では、予は如何なる者として描かれている?」

「えっと……」羅夢はまた困った。曹操は『三国志演義』では悪役扱いだ。でも、それは言えない。「……英雄です。でも、少し……ずる賢い英雄として」

曹操はそれに対し、何も答えなかった。

代わりに、信長が声を上げた。

「面白かった!では、次はわしの番だ!『戦国BASARA』、早く見せろ!」

羅夢はため息をつき、ホーム画面に戻り、『戦国BASARA』のアイコンをタップした。

信長は目を輝かせて画面を覗き込んだ。「何だ此れ!?絵が……動く!?しかも、色鮮やか!」

アニメのオープニングが始まった。激しいロック音楽が流れ、カラフルでデフォルメされたキャラクターたちが、超現実的なアクションを繰り広げる。

信長の目が、見開かれた。

「何……だと……!?」

画面では、アニメ版の織田信長が、巨大な黒い鎧をまとって登場し、周囲を破壊していく。

「第六天魔王!」キャラクターが叫ぶ。

信長本人は、完全に言葉を失っていた。

ロックミュージックに乗せて、アニメの信長が「人間よ、愚かであれ!」と宣言し、武器からエネルギー波を放つ。

「……っ!」本物の信長が、思わず身を引いた。

そして、彼の口元が、ゆっくりと引きつり始めた。

「ふ……ふふ……」

彼は笑い始めた。

小さく、震えるような笑いから、次第に大きくなり——ついには、腹を抱えて大笑いするほどに。

「ははははは!!此れは!此れは面白い!!」

彼は笑いながら、画面を指さした。

「わしが、魔王だと!?ははは!悪くない!悪くないぞ!」

羅夢は呆然とした。え?喜んでる?自分のことを魔王って呼ばれて?

画面では、真田幸村(アニメ版)が、超高速で突撃し、「天霸絶槍!」と叫びながら信長に挑んでいく。

「おお!此の若者!勇ましい!」信長は興奮して声を上げた。「槍の技、現実にはありえんが……カッコ良い!」

曹操は、信長の反応を冷静に、少し呆れたように眺めていた。

「織田殿、其れは明らかに誇張であろう」

「構わん!」信長は目を輝かせた。「誇張であろうと、現実であろうと、其れが『歴史』だ!人々が信じ、語り継ぐものこそが、歴史なのだ!」

彼は羅夢を見た。

「そうだろうな、娘?」

「え?あ、はい……」羅夢は曖昧に頷いた。

信長は満足そうにうなずき、再び画面に夢中になった。アニメでは、伊達政宗が「LET'S PARTY!!」と叫びながら六刀流で戦っている。

「おお!此の独眼も良い!『パーティー』とは?酒宴か?戦いながら酒宴とは、これまた粋な趣向だ!」

羅夢は心の中でつぶやいた:あれは英語です……まあ、いいか。

バッテリー表示が、着実に減っていく。

75% → 74% → 73%……

「おい、少し巻き戻せ!今の魔王の姿、もう一度見たい!」信長がせがむ。

「ダメです!バッテリーが!」羅夢は必死だった。

【警告:バッテリー消費が加速しています!現在72%!】

【提案:視聴を中断し、充電手段の検討を開始した方が良いかもしれません!】

【さもないと、『天機匣』が停止し、お二人の歴史研究もそこで終了です!(;゜Д゜)】

信長は残念そうな声を上げた。「何だ、もう終わりか?」

曹操は冷静に言った。「織田殿、我等には今、優先すべきことがある。此の『天機匣』のエネルギーが枯渇すれば、一切が終わる」

信長は大きくため息をついた。「わかっている。だが……此の『歴史』、あまりに楽しい」

彼は最後に画面をちらりと見て、そして羅夢に目を戻した。

「娘よ、一つ教えてくれ。此の『戦国BASARA』の中で、わしは最後、如何なる最期を迎える?」

羅夢の顔が強張った。え?本能寺の変、見せるの?

「それは……ちょっと……」

「見せよ」信長の声は、突然、深く静かになった。笑みはまだ口元に残っているが、目は真剣だった。「自分の終わり方は、知っておきたいのだ」

曹操も、興味深そうに見ている。

羅夢は覚悟を決めた。まあ、彼なら、自分の死にざまに興味を持つだろう。

彼女はファイルを探し、本能寺の変が描かれたエピソードを開いた。

信長は、真剣な面持ちで見始めた。

画面では、アニメ版の信長が、炎に包まれた本能寺の中で、悠然と笑いながら立っている。光秀の裏切り。迫り来る敵。

そして——信長が、自ら炎に飛び込み、消えていく……

エピソードが終わった。

信長は、一言も発しなかった。

長い沈黙が流れた。

そして、彼が口を開いた。

「……ああ、なるほど」

彼の声は、驚くほど平静だった。

「炎の中に消える、か。悪くない終わり方だ」

曹操が微かに眉を上げた。「織田殿、己の死を、其様に淡々と受け入れられるか」

「当然だ」信長は笑った。「死は誰にでも訪れる。ならば、其れが如何なる形であろうと、己の生き様に相応しいものであれば良い」

彼は携帯の画面を見つめ、そして羅夢を見た。

「だがな、娘」

彼の目が、鋭く光った。

「此の『歴史』は、既に変わったかもしれん」

羅夢はぎょっとした。「え?」

「此処に、予と曹公がおる」信長は曹操をちらりと見た。「そして、汝と、此の『天機匣』がおる」

彼はゆっくりと立ち上がり、腰の太刀に手を当てた。

「本能寺の変が起こるべき時空に、わしはおらぬ。曹公も、其の『赤壁の戦い』が起こるべき時空に、おらぬ」

曹操の目が、微かに動いた。彼も、その意味を理解したようだ。

「……時空が融合した」曹操が低く言った。「我等の『歴史』は、既に本来の軌道を外れた」

信長が大笑いした。

「ならば、面白い!此れこそ、新たな歴史の始まりだ!」

彼は羅夢を見下ろし、楽しげに言った。

「娘よ、此の『天機匣』には、他にどんな『歴史』が入っている?」

羅夢は慌てて頭を振った。「もうありません!本当に!それに、バッテリーも残り少ないんです!」

【バッテリー残量:70%】

【連続再生による急速消耗を検知!】

【警告:此のペースでは、あと4時間程度で完全停止します!】

【緊急提案:現在位置から最も近い自然エネルギー源を探しに行きましょう!】

【スキャン中……】

【スキャン完了!北西方向、約三十里(約12km)に、『強い電磁気異常』を検知!】

【特性:雷雲の発生が頻繁な地域のようです!】

【行けば、雷で充電できるかもしれません!成功率は……計算不能!でもやるしかない!】

羅夢はシステムの提案を見て、絶望的に目を閉じた。

雷で充電……

そんなの、無理でしょ……

曹操が立ち上がった。「三十里か。歩けば半日ほどだ」

信長も太刀をしっかりと腰に差し直した。「行くか。此の『天機匣』が止まっては、話が続かぬ」

二人は、すでに次の行動を決めていた。

羅夢は、呆然と二人を見上げた。

「え?でも……その……雷で充電なんて、危険ですよ!落雷に打たれたら死んじゃいます!」

信長は笑った。「面白い!では、如何すれば雷を落とさずに、其の力を盗めるか?考える価値があるな!」

曹操はすでに会議室の出口に向かって歩き出していた。「行くぞ。此の建物から出ねば、方角も分からぬ」

羅夢は仕方なく、携帯をしっかりと握りしめ、二人の後を追った。

バッテリーは70%。

現実世界からのプレッシャーは、まだ続いている。

目の前には、雷でスマホを充電しようという、無謀な計画。

彼女は、ふと、携帯の画面を見た。

ロック画面の猫、まんじゅうが、相変わらず間抜けな顔でこっちを見ている。

配字の【今日も頑張ろう!】が、何だか皮肉に感じられた。

「……頑張るよ」彼女は小さく呟いた。「生き延びて、ちゃんとローン返すからさ」

会議室の扉が開き、外の光が差し込んだ。

そこには——三国と戦国が入り混じった、奇怪で広大な世界が広がっていた。

遠くには、漢式の楼閣と、日本の天守閣が並び立っている。

空には、どこか不自然な色の雲が渦巻いている。

そして、北西の空には、確かに——黒く淀んだ雨雲が、ゆっくりと湧き上がっているのが見えた。

信長が期待に胸を躍らせ、曹操が冷静に地形を観察する中、羅夢は一つ、確信した。

この世界は、絶対に、どこかおかしい。

そして、自分の人生も、完全に、どこかおかしくなった。

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