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スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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26/30

人々の選択

72時間。

この数字が、異世界にも現実世界にも、重くのしかかっていた。

接合点の中心、壊れた「目」の前で、羅夢は皆の顔を見渡した。曹操、信長、趙雲、諸葛亮、毛利——傷だらけで疲弊しているが、まだ確かにここにいる彼ら。

「……みなさん」

彼女の声は、静かだが確かだった。

「現実世界で、私の身体に、二つの決定が下されました」

全員の視線が彼女に集まる。

「病院は、72時間後に、私の生命維持装置を止めることを決めました。医療費が、もう払えないからです」

信長が眉をひそめた。「医療費? 何だ、それは?」

「治療を受けるためのお金です」羅夢は説明した。「現実の世界では、病気や怪我を治すのに、膨大なお金がかかります」

「金で命の価値を量るのか?」曹操の声には、冷たい怒りが込められていた。

「……はい。それが現実です」

趙雲の表情が曇る。「なんと……非情な」

「それだけではありません」羅夢は続けた。「VRの実験をしていた研究所も、72時間後に強制的に接続を切断すると決めました。それによって、私は脳に損傷を受けるかもしれないと、わかっていて」

諸葛亮が扇をあおぐ手を止めた。「……つまり、どちらの道も、貴女の死につながると」

「そうです」

沈黙が流れる。

風が、データの塵を舞い上げる。

羅夢は、深く息を吸い込んだ。

「だから、お伝えします」

彼女の目に、涙が光っている。が、流れない。

「私は……もしかしたら、永遠に消えてしまうかもしれません」

その言葉に、誰もすぐには反応しなかった。

曹操は、じっと地面を見つめていた。信長は、奇妙な笑みを浮かべている。趙雲は、拳を握りしめている。諸葛亮と毛利は、互いに顔を見合わせている。

そして、曹操が顔を上げた。

「……ふむ」

彼は、ゆっくりと羅夢の方に向き直り、目をまっすぐに見つめた。

「お前が消えることを、誰が許した?」

「え?」

「孤が、お前の消滅を、許可した覚えはない」

曹操の声は、低く、しかし確かに響く。

「此の世界でも、現実世界でも、お前の運命を決めるのは、天でも、医者でも、学者でもない。孤だ」

羅夢は、言葉を失った。

信長が、突然大笑いを始めた。

「ははは! そうだ! 曹公の言う通りだ!」

彼は立ち上がり、方天画戟の残骸を蹴り飛ばした。

「天がお前を消せと言おうが、医者が止めろと言おうが、面白いことではないか! 天と戦い、運命と戦う! これこそ、真の楽しみだ!」

「でも、現実は——」

「現実? 何が現実だ!」信長の目が輝く。「今、此処にある我らは、現実ではないのか? お前の涙は、嘘なのか? わしらの傷は、幻なのか?」

趙雲が一歩前に出た。

「羅夢さん」

彼の声は、静かだが力強い。

「雲、長坂坡にて、幼主を守り切りました。其れは、主君からの命令があったからではありません。己が信じる道を選んだからです」

彼は槍をしっかりと握りしめる。

「今、雲が信じる道は、貴女を守り、現実に戻すことです。たとえ、此の身がデータの残滓であろうと」

諸葛亮もうなずいた。

「我々は、確かにデータのコピーかもしれません。然れど、此処で感じ、考え、戦っている我々の意思は、本物です」

毛利も続けた。

「ならば、最後まで、我らの意思を通そうではないか。観測者にも、現実の医者にも、負けずに」

羅夢は、涙をこらえきれなかった。

「みんな……バカです……」

「そうだ、馬鹿だ」曹操が言った。「天下を取ろうとする者、革命を起こそうとする者、忠義に生きようとする者、皆、馬鹿でなければできぬ」

彼は剣の柄に手をかけ、ゆっくりと立ち上がった。

「お前も、馬鹿になれ。消えると決めつけるな。生きると決めろ」

「……はい!」

羅夢は、涙を拭い、顔を上げた。

信長が彼女の肩をドンと叩いた。

「では、計画だ! わしには一計ある!」

「何です?」

「まず、此の壊れた『目』を、わしの新しい城の土台にしよう! そして、現実世界の医者どもに、わしの軍勢を見せつけてやる!」

「それは……多分無理です」

曹操がため息をついた。「……やはり、作戦は孔明と毛利に任せよう」

諸葛亮と毛利は、既に話し合いを始めていた。

「観測者の『目』は、データの流れを制御する中枢です」

「ならば、其れを逆利用し、羅夢殿の意識データを、現実世界に送り返すことが可能か」

「だが、精度が問題だ。正確に元の身体に戻せるか」

「リスクはあります。が、他の道はありません」

趙雲が提案した。

「もし、我々の力——データの力で、羅夢さんを護送できぬでしょうか? まるで、長坂坡で幼主を守ったように」

「面白い発想だ」諸葛亮が眉を上げた。「データとして、我々が彼女の意識を包み、護衛しながら現実世界に送る」

「可能か?」曹操が聞いた。

「計算が必要です」毛利は地面に図を描き始めた。「まず、我々のデータ構造を解析し、羅夢殿の意識と適合するか……」

彼らは、熱心に議論を始める。

信長は少し退屈そうにしていたが、突然閃いた。

「そうだ! わしの『天下布武2.0』の演説を、データの力で増幅し、現実世界に送り込もう! 医者どもを、演説で説き伏せるのだ!」

「それは多分、脳に悪いです」羅夢は苦笑した。

曹操は、壊れた「目」を見つめていた。

「72時間か……戦場の三日と、そう変わらぬな」

「曹公も、三日で決戦を挑んだことが?」羅夢が聞いた。

「ああ。赤壁では……いや、良い」

曹操は遠くを見つめた。あの戦い——赤壁での敗北。三日で、全てがひっくり返った。

「だが、今回は違う。守るものがある」

彼は羅夢を見た。

「お前を、現実に戻す。其れが、我らの最後の戦いだ」

趙雲が深く頷いた。

「最後の戦い、ですか。それも……良い終わり方かもしれません」

「終わりではない」信長が笑った。「新しい始まりだ! お前が現実に戻り、わしらの物語を語る! 其れが、我らの『天下布武2.0』だ!」

羅夢は、皆の顔を見渡した。

曹操の冷静な決意。信長の熱狂的な楽観。趙雲の揺るがない忠誠。諸葛亮と毛利の深い知略。

彼らは、確かにデータのコピーかもしれない。が、本物以上に「生きている」。

「……ありがとうございます」

彼女の声には、もう迷いはない。

「では、生きるために、戦いましょう」

「そうだ」曹操が剣を抜いた。折れているが、まだ使える。

「孔明、毛利。作戦をまとめよ。信長、趙雲、戦闘準備だ。我は、全軍を指揮する」

「「「はっ!」」」

皆が動き始める。

72時間。

観測者の「目」の再生まで、72時間。

現実世界での生命維持装置停止まで、72時間。

強制切断まで、72時間。

全てが、この72時間にかかっている。

諸葛亮と毛利は、複雑な計算を始めた。地面に描かれた図形は、陰陽五行と数学が融合した、奇妙なものになっている。

「まず、我々のデータを、羅夢殿の意識と同期させる」

「其の為には、互いの『信頼度』を数値化する必要がある」

「では、測ってみよう」

信長は、呂布の残した戟の破片を集めている。

「此れで、新たな武器を作るのだ! 現実世界の医者どもを見舞うためにな!」

「多分、武器は要らないです」羅夢が止める。

趙雲は、槍の手入れをしながら、警戒を続けている。

曹操は、高台に立ち、周囲を見渡していた。まるで、かつての戦場で、敵陣を見つめていたように。

現実世界では、時間は確実に過ぎている。

病院では、72時間のカウントダウンが始まっていた。

研究室では、強制切断の準備が進んでいた。

が、彼らにはわからない。

異世界で、千年の時を超えた英雄たちが、一人の少女を救うために、最後の戦いを始めようとしていることなど。

羅夢は、胸に抱えた壊れた携帯を見つめた。

画面は真っ暗。もう、小弥の声は聞こえない。

でも、彼女は思った。

『見てて、小弥。みんなが、私を救おうとしてくれてる』

風が、接合点を吹き抜ける。

データの塵が、きらめきながら舞う。

72時間の始まり。

最後の戦いの、始まり。

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