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スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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19/30

趙雲の困惑

信長の熱い演説の余韻がまだ洞窟に残る中、趙雲は黙って携帯の画面に見入っていた。

羅夢が、前夜の曹操に続き、趙雲にも『三国志演義』を見せていた。特に、彼自身が活躍する「長坂坡の戦い」のシーンを。

しかし、趙雲の反応は曹操とは全く違った。

彼は一言も発せず、ただじっと画面を見つめている。時に眉をひそめ、時に微かに首を振る。

エピソードが終わると、彼は深く息を吐いた。

「……なるほど」

「どうでしたか?」羅夢が尋ねた。

趙雲はしばらく考え込み、そして静かに口を開いた。

「雲、七進七出など、していない」

「え?」

「実際には、三進三出であった」趙雲の声は、事実を述べるように淡々としていた。「最初の突入で幼主(劉禅)を発見。二度目に敵陣を突破し、三度目に自軍に戻った」

彼は指で数えながら説明する。

「七度も往来すれば、馬も疲れる。敵もそれだけの隙を与えぬ」

「でも、ドラマでは――」

「わかっている」趙雲はうなずいた。「物語として、面白くするためであろう。しかし……」

彼の目が、画面の中の、敵兵を数十人も薙ぎ倒している「自分」を見つめていた。

「此の槍さばき、実際にはここまで大げさではない。一撃一撃、無駄がないように戦った」

「確かに、ドラマは派手に作りますから……」

趙雲は突然、羅夢を見た。

「紙と筆はあるか?」

「え? 紙と筆?」

「此の匣に、記録する機能はないか?」

「メモ帳ならありますけど……」

「それで良い。借りよう」

羅夢はわけがわからないまま、メモ帳アプリを開き、趙雲に渡した。

趙雲は慎重に画面をタッチし、指で文字を書き始めた。慣れない操作だが、何とかこなしている。

【メモ帳:新規ファイル】

【タイトル:『三国志演義』史実相違点報告(趙雲)】

「えっと……趙雲さん、何をしてるんですか?」

「記録している」趙雲は真剣な表情のまま答えた。「物語と実際の違いを。後世の者が誤解せぬように」

彼は書き始めた。

一、長坂坡の戦いについて

・劇中:七進七出、敵兵数百を討つ

・実際:三進三出、敵兵数十を討つ(主に突破のため)

・備考:幼主(劉禅)を懐に抱え、無事を最優先とした。派手な戦い方はしていない。

二、槍の技について

・劇中:大回転、跳躍技が多い

・実際:直線的、効率的。馬を駆っての突撃が主

・備考:馬上での槍は、振り回すものではない。刺し、払うが基本

三、鎧の描写について

・劇中:銀色に輝く、装飾が多い

・実際:実戦用、地味で丈夫。輝きは手入れによる

・備考:夜戦では光る鎧は不利である

羅夢は呆然とそれを見ていた。

「趙雲さん……そんなこと、しなくてもいいですよ? みんな、ドラマはフィクションってわかってますから」

「わかっている者もあろう」趙雲はメモを書き続けながら言った。「が、わからぬ者もいる。ならば、事実を記しておくべきだ」

曹操が興味深そうに近づいてきた。

「何をしている、趙雲」

「曹公」趙雲は礼儀正しく一礼し、メモを見せた。「物語と実際の記録を、整理している」

曹操はそれを読み、深くうなずいた。

「……確かに、あの劇は誇張が多かったな。我が軍勢も、実際にはもっと整然としていた」

「曹公も、ご自分の記録を?」趙雲が真剣に提案した。

「いや、構わぬ」曹操は手を振った。「物語は、誇張されてこそ面白い。史実は、学者に任せておけ」

「しかし――」

「趙雲よ」諸葛亮が声をかけた。「貴方の真面目さは理解する。然れど、人々が求めるのは、時に史実ではなく、英雄の『物語』なのだ」

「丞相、それでは――」

「物語の力は、時に実際の戦い以上に大きい」諸葛亮は扇をあおぎながら説いた。「兵士たちは、『七進七出の趙雲』の話を聞いて勇気を得る。其れが、戦場で実際に七度往復することより、重要かもしれぬ」

趙雲は考え込んだ。

信長が大笑いしながら割り込んできた。

「はは! 趙雲、其れはわしも同意だ! わしの『戦国BASARA』も、実際のわしよりずっと派手だ! だが、面白いではないか!」

「面白ければ、良いと?」趙雲は真剣に聞き返した。

「そうだ! 歴史とは、勝者が作るもの! ならば、面白くしてやろうではないか!」

趙雲は再びメモ帳を見つめた。

彼の書いた「史実相違点報告」が、そこにある。

そして、画面の中の、派手に槍を振るう自分。

「……雲は、あのような華美な槍は振れぬ」

「構わぬ」曹操が言った。「其れで良い。趙雲は趙雲のままあれば良い」

趙雲は深く息を吐き、メモ帳を閉じようとした。

その時、アプリが反応した。

【保存しますか?】

【はい / いいえ】

彼は「はい」をタップした。

【保存完了】

【ファイル名:『史実報告_趙雲.txt』】

【バッテリー消費:0.1%】

【現在のバッテリー:228%】

「保存、した」趙雲は呟いた。「いつか、必要とする者がいるかもしれぬ」

羅夢はほっと胸を撫で下ろした。

「よかった……でも、趙雲さん、そんなに真剣に考えなくても」

「いや、考えるのは良いことだ」毛利が口を挟んだ。「事実と伝承の区別は、指導者として重要である」

「我も同意だ」諸葛亮もうなずいた。「ただ、時には、伝承の力も利用せねばならぬ」

趙雲は、皆の言葉を聞き、ゆっくりとうなずいた。

「……おっしゃる通りかもしれません。しかし、雲自身としては、あくまで事実を……」

彼の言葉が終わらないうちに、洞窟の外から物音がした。

全員が即座に警戒態勢に入る。

趙雲はメモ帳を閉じ、槍を手に取った。

「敵か?」

曹操が洞窟の入り口に近づき、外を覗いた。

「……いや、敵ではないようだ」

外には、奇妙な光景が広がっていた。

データ残留体の群れが、ゆっくりと通り過ぎている。前回見たものと同じ、顔の特徴が薄い、時代錯誤の服装をした人々だ。

が、今回は少し様子が違う。

彼らの何人かが、何かを囁き合っている。

『……趙雲……七進七出……』

『英雄……伝説……』

『あの槍……眩しい……』

囁き声が、風に乗って聞こえてくる。

趙雲の目が見開かれた。

「あの者たち……私のことを……」

「貴方の『物語』を、知っているようだな」諸葛亮が分析した。「データ残留体は、此の世界の記憶の断片かもしれぬ。ならば、有名な伝承も、断片的に記憶しているだろう」

信長が興味深そうに外を覗いた。

「おお! ならば、わしの『戦国BASARA』も、彼らは知っているかもしれんな!」

「多分、知っているでしょう」羅夢はうなずいた。「でも、彼らは記憶が曖昧ですから……」

データ残留体の群れが、洞窟の前で突然止まった。

そして、一斉に趙雲の方を見た。

その目には、はっきりとした「認識」の光があった。

『趙雲……だ……』

『長坂坡の……』

『七進七出の……』

彼らは、ゆっくりと手を伸ばし始めた。触れようとしている。

趙雲は一歩後退した。

「どうすれば……」

「動くな」曹操が命じた。「敵意は感じられぬ。ただ、貴方を『知っている』だけだ」

確かに、データ残留体たちの動きには敵意がない。好奇心と、ある種の憧れのようなものが混じっている。

一人の残留体が、趙雲の槍に手を伸ばした。

その手が、槍に触れる。

一瞬、青白い光が走る。

残留体の顔に、かすかに表情が浮かぶ。

『……ありがとう……』

囁くような声。

そして、残留体は手を引っ込め、群れに戻り、ゆっくりと去っていった。

残りの残留体たちも、彼にうなずき、去っていく。

静寂が戻る。

趙雲は、自分の槍を見つめていた。

「……あの者たちは、何だった?」

「此の世界の、記憶の亡霊だろう」毛利が呟いた。「貴方の伝承を、心の支えにしていたのかもしれぬ」

諸葛亮は深く考え込んでいた。

「もしや……此の世界の歪みは、人々の『記憶』や『伝承』そのものが、形を成したものではあるまいか」

「記憶が、現実に?」羅夢は驚いた。

「ありえないことではない」諸葛亮はうなずいた。「強力な思念は、時空さえ歪める。ましてや、幾つもの時代の記憶が、無理矢理一箇所に押し込められた此の世界では……」

趙雲は、去っていく残留体たちの背中を見つめていた。

そして、彼はふと、携帯のメモ帳を開き、先程の「史実相違点報告」を削除しようとした。

「趙雲さん?」羅夢が声をかけた。

「……いや、良い」趙雲は手を止めた。「此のままにしておこう」

「でも、さっきまで史実が大事って――」

「史実は大事だ」趙雲は静かに言った。「しかし、あの者たちが求めたのは、史実ではなく、『伝承』だった」

彼は槍をしっかりと握りしめた。

「ならば、雲は……両方あれば良い。史実としての趙雲と、伝承としての趙雲と」

曹操が微かに笑みを浮かべた。

「成長したな、趙雲」

「曹公、お褒めいただき、光栄です」

信長は趙雲の肩をドンと叩いた。

「そうだ! わしもだ! 史実の織田信長と、伝承の第六天魔王、両方あってこそだ!」

その時、小弥の声が響いた。

【ユーザー趙雲のデータ更新!】

【新ステータス追加:『伝承の受容』】

【効果:伝承に基づく能力が+10%上昇!】

【説明:歴史的人物が、自らの伝承を受け入れると、その力が現実のものになります!】

【面白い現象ですね!(ノ◕ヮ◕)ノ:・゜✧】*

趙雲の槍が、かすかに青白く光った。

「……何だ、此れは?」

「伝承の力が、現実化し始めたようです」羅夢は説明した。「趙雲さんが、自分の伝承を受け入れたから……」

趙雲は槍をじっと見つめ、そしてゆっくりとうなずいた。

「ならば、此の力で、此の世界を正す手助けをしよう」

彼の目には、新たな決意が宿っていた。

史実と伝承。

両方を受け入れ、前に進む決意。

夜明けが近づいていた。

一行は、再び旅の準備を始めた。

趙雲は、最後にもう一度メモ帳を開いた。

【ファイル名:『史実報告_趙雲.txt』】

【編集しますか?】

彼は「はい」をタップし、最後に一行、追加した。

・補足:伝承の力も、時に現実を動かす。故に、両方を大切にしたい。

保存。閉じる。

彼は顔を上げ、朝の光が差し込み始める洞窟の入り口を見た。

「行きましょう」

その声は、以前より少しだけ、確信に満ちていた。

現実世界では――

病院のモニターに、矛盾を調和させるような、安定した脳波パターンが記録されていた。

医師が記録を見つめ、呟いた。

「……相反する概念の統合? 此れは、高度な認知機能が働いている証拠だ」

彼らにはわからない。

その患者が、千年の時を隔てた武将の、史実と伝承の狭間で、自らの在り方を見出そうとする瞬間に立ち会っていることなど。

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