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スマホを充電するために、曹操と織田信長が異世界で奮闘します  作者: 「大和 尚羅夢」小花羅夢一生推し


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17/30

曹操の深夜ドラマ鑑賞

時空の接合点へ向かう道程、一行は洞窟の中で一夜を明かすことになった。外は異様な雷雨で、歴史修正者の気配も濃厚だったからだ。

「此の雨、尋常ではないな」毛利が洞窟の入り口から外を眺めながら言った。「雷に混じって、何か別のエネルギーが感じられる」

諸葛亮は地面に石を並べ、占いのようなことをしていた。「天象、乱れに乱れている。明日までには、何か大きな変化が起きるだろう」

趙雲と信長は交代で警戒にあたっている。洞窟の奥では、羅夢が携帯の画面をいじっていた。バッテリーは240%。時空干渉の大量消費の後、少し回復させたいところだ。

「オフラインで使える機能、他にないかな……」彼女はアプリ一覧をスクロールしていた。ゲーム、電卓、コンパス、カメラ、メモ帳……

そして、あるフォルダに気づいた。

『オフライン動画』

「え?」彼女はタップした。

中には、二つのファイルがあった。

『三国志演義(1994)全84話. cache』

『戦国BASARA シーズン1. cache』

「……完全にキャッシュされてる」

彼女は記憶を辿った。確か、テスト前にWi-Fi環境で、長時間のコンテンツをダウンロードするように指示された。テスト中の「文化的体験」の一環として、歴史コンテンツを視聴するためだった。

が、そのテストがこんなことに。

「全84話……」彼女はため息をついた。「どうしよう、これ……」

「何を見つけた?」傍らに座っていた曹操が声をかけた。

「あ、えっと……動画です。三国志演義の」

曹操の目が、微かに光った。「……其れを、また見せられるのか?」

「見せられますけど……でも、バッテリーを結構使うし、それに……」羅夢はためらった。「中身が、曹公には面白くないかもしれないです」

「何故だ?」

「だって、あなたが出てくるし、しかも……悪役っぽく描かれてるから」

曹操は一瞬沈黙し、そして静かに言った。「見せよ」

「でも――」

「構わん。我が事を、後世が如何描いているか、知りたい」

その声には、抗いがたい何かがあった。

羅夢は仕方なく、第一話を選び、再生ボタンを押した。

懐かしい中国のオープニング音楽が、洞窟に響く。

他の者たちも興味を持って集まってきた。信長、趙雲、諸葛亮、毛利、そして家臣たち。

「おお、又、あの動く絵か!」信長は楽しそうだった。

趙雲は真剣な表情で画面を見つめた。

諸葛亮と毛利は、学術的な興味で観察している。

物語は、黄巾の乱から始まる。劉備、関羽、張飛が出会う。

曹操が初めて登場するのは、数話後だ。役者の曹操が、官僚として、そして後に軍閥として登場する。

本物の曹操は、一言も発せず、じっと画面を見つめていた。

時に眉をひそめ、時に微かに笑みを浮かべる。

「……其の役者、我に似ておらぬな」

「役者ですから……」羅夢は言い訳のようにつぶやいた。

「然れど、動きや話し方は、少しは似せている」

曹操は冷静に批評していた。

夜が更ける。

外では雷雨が続いているが、洞窟の中では、小さな画面に三国の世界が広がっていた。

趙雲は、自分が登場する場面で、特に真剣に見入る。

「……雲、此の時は、まだ若かった」

「槍の動き、あそこまで大げさではなかったが……」

信長は、戦闘シーンに興奮していた。

「ほう! 此の戦い方、面白い! しかし、実際にはもっと汚い戦いだったろうに!」

諸葛亮と毛利は、戦術や会話の描写に、時にうなずき、時に首をかしげる。

「此の計略、実際にはもっと複雑だった」

「其の言い回し、現代風にアレンジされているな」

そして、話が進む——

「赤壁の戦い」へ。

曹操の表情が、次第に硬くなっていく。

画面では、役者の曹操が、大軍を率い、長江を渡ろうとする。諸葛亮(役)の計略。火攻め。

「……此れが、あの時か」曹操の声は低かった。

趙雲は複雑な表情で、曹操の横顔をちらりと見た。

諸葛亮本人は、平静を保っていたが、扇をあおぐ手が、ほんの少し速くなっている。

赤壁の大火災。敗走する曹操軍。

そして——

「華容道」へ。

関羽が、小道に立ちはだかる。

役者の曹操が、泣きながら嘆願する。

『雲長、昔の情けを思い出してくれ!』

関羽(役)が、苦渋の決断で道を譲る。

本物の曹操の手が、微かに震えた。

画面が暗転し、エピソードが終わる。

洞窟の中に、重い沈黙が流れた。

誰も言葉を発しない。

雷の音だけが、遠くで轟いている。

そして、曹操が、ゆっくりと立ち上がった。

「……ふむ」

その一声が、氷を割るようだった。

「面白い」

信長が笑い出した。「はは! 曹公、泣いて嘆願するとはな! 実際はどうだった?」

「実際は」曹操は淡々と言った。「泣きはせぬ。が、確かに関羽には、情けをかけて貰った」

彼は画面を見つめ、続けた。

「関羽は、義に厚い男だった。我が礼遇を、忘れてはおらぬ。故に、道を譲ってくれた」

その声には、意外にも怒りはなかった。あるのは、冷静な分析と、かすかな懐かしさ。

だが、次の瞬間——

彼の目が、画面に映る諸葛亮(役)に向けられた。

「然れど……孔明」

諸葛亮がゆっくりと顔を上げた。

「貴様は……よくも、あそこまでやったな」

その声には、初めて、かすかな怒りがにじんでいた。

「赤壁の戦い。貴様の計略で、我は大敗を喫した」

「……」諸葛亮は沈黄した。

「今、此処で見た。あの火攻め、あの東南の風……全て、貴様の仕業だ」

「あれは、役者が演じたものです」羅夢が慌てて割り込んだ。「実際の丞相は——」

「構わん」曹操は手を上げて彼女を制した。「孔明、我は尋ねている。あの時、貴様は、我を殺せる機会があっただろうに、なぜ殺さなかった?」

全員の視線が、諸葛亮に集まる。

彼は静かに扇をあおぎ、そして答えた。

「殺せなかったからです」

「……何?」

「当時、亮の力では、曹操公を完全に討つことはできませんでした。関羽に華容道で待ち伏せさせたのも、最後の賭けでした。しかし、関羽殿が情けをかけた」

曹操は目を細めた。「ならば、貴様の計算違いか」

「計算違いでした」諸葛亮は潔く認めた。「人というものは、時に計算を超える。関羽殿の義心は、亮の計算を上回りました」

長い沈黙。

そして、曹操が低く笑った。

「は……なるほど。では、我は関羽の情けで、生き延びたわけだ」

「その通りです」

「ふむ……面白い」

曹操は再び地面に座り、羅夢に言った。

「続けよ」

「え? まだ見るんですか?」

「ああ。全てを見てみたい。我の最期までを」

羅夢はためらった。「でも……曹公の最期、あんまり良いものじゃないんですよ?」

「構わん。死に様など、どうでも良い。我が人生の結末が、如何描かれているか、見てみたいだけだ」

その言葉に、趙雲が静かにうなずいた。

信長も大笑いした。「はは! 良い心意気だ! わしも、自分の最期を見てみたいものだな!」

「信長さんのは『戦国BASARA』ですから、もっと派手ですよ」羅夢は苦笑した。

「それはまた後で良い。まずは曹公の物語を見よう」

羅夢は仕方なく、再生を続けた。

夜は更けていく。

曹操は、一言も発せず、画面を見つめ続けた。

劉備の蜀建国。関羽の死。張飛の死。そして——

「五丈原」のエピソード。

諸葛亮が陣中で病に倒れ、星を落とす。

本物の諸葛亮は、その場面で、深く息を吐いた。

「……あの時は、無念だった」

「丞相……」趙雲の声には、痛みが込められていた。

曹操は、諸葛亮の最期を見て、ただ静かにうなずいた。

そして、最終話へ。

司馬炎が晋を建国し、天下を統一する。

曹操の墓の前で、司馬炎が拝むシーン。

『孟徳、我が天下は、貴様の礎の上に築かれた』

エンディング。

全てが終わった。

洞窟の中は、深い静寂に包まれた。

外の雨の音だけが、響いている。

曹操は、長い間、動かなかった。

そして、ゆっくりと顔を上げ、羅夢を見た。

「……有難う」

その一言に、羅夢は驚いた。「え?」

「我の人生を、教えてくれた」

「でも、あれはドラマです! 実際の歴史とは――」

「構わぬ」曹操は静かに言った。「ドラマであろうが、史実であろうが、人々が其の様に記憶しているなら、それもまた『真実』の一つだ」

彼は立ち上がり、洞窟の入り口に向かった。

朝の光が、ちょうど差し込み始めていた。雨は上がっている。

「我の人生は、既に終わっている。だが――」

振り返る曹操の目には、新たな光が宿っていた。

「此処にいる我は、まだ終わってはいない」

信長が立ち上がり、曹操の肩を叩いた。

「そうだ! 過去の話はどうでも良い! 今、此処にある我らが、新たな歴史を作るのだ!」

趙雲も深くうなずいた。

諸葛亮と毛利は、互いに顔を見合わせ、微笑んだ。

羅夢は、バッテリー235%の携帯を見つめた。

ドラマを見るのに、5%消費した。

でも、それ以上のものを得たかもしれない。

曹操が彼女の方に歩み寄ってきた。

「其の匣」彼は言った。「まだ、『戦国BASARA』とやらがあるな?」

「はい、ありますけど……」

「今夜は、信長殿の番だ」曹操は微かに笑った。「我も、彼の『歴史』を見てみたい」

信長が目を輝かせた。「おお! ついにわしの番か! 早く見せろ、娘!」

「ちょっと待ってください! 連続再生はバッテリーに悪いです!」

「構わん! 此の後、また雷か何かで充電すれば良い!」

「雷がそんなに都合よく落ちませんって!」

騒ぎの中、朝が訪れた。

一行は洞窟を出て、再び北西へ向かった。

曹操の足取りは、少し軽くなっているように見えた。

過去の亡霊から、少しだけ解放されたのかもしれない。

羅夢は、歩きながら思った。

あのドラマを見せたのは、正解だったのか?

曹操は、確かに何かを得た。しかし、同時に、何かを決意したのかもしれない。

その決意が、良い方向に向かうことを、ただ願うしかなかった。

そして、現実世界では――

病院のモニターに、複雑な感情の波形が記録されていた。

懐かしさ、怒り、諦念、そして、新たな決意。

医師たちは、また首をひねるしかなかった。

「また新しいパターンだ……今度は、何かの『物語』を体験しているような……」

彼らにはわからない。

患者が、千年の時を隔てた、自らの「物語」を見ていたことなど。

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