三方会談はコンセント争い
一行は森を抜け、比較的平坦な草原地帯に出た。日はすでに傾きかけ、長い影が地面に伸びている。
「此処で一夜を明かすのが良かろう」趙雲が提案した。「夜の森は危険すぎる」
諸葛亮もうなずいた。「然り。此の開けた地ならば、敵の襲来も早期に察知できる」
毛利元就は家臣たちに陣営の設営を命じた。手慣れたもので、あっという間に簡素な野営地ができあがる。
問題は、照明だった。
「夜になれば、真っ暗だ」信長が言った。「狼の目ならまだしも、人間の目では何も見えぬ」
「我が軍の松明は、数に限りがある」毛利の家臣が報告した。
全ての視線が、羅夢と彼女の携帯に集まった。
エネルギーノードは展開されたままだったが、その効果は「金属を微かに光らせる」程度。暗闇を照らすには不十分だ。
「ならば、もっと強くできぬのか?」曹操が尋ねた。
「バッテリーを多く使えば、強くできますが……」羅夢はためらった。「でも、無駄遣いはしたくないし」
「無駄遣いではない」信長は即座に言った。「夜の警戒は、生死に関わる」
「織田殿の言う通りだ」毛利も同意した。「では、如何すればより強く光らせられる?」
その質問が、混乱の始まりだった。
第一ラウンド:学術討論
諸葛亮が先に口を開いた。「雷の力は、陰陽の調和によって制御される。強く光らせようとすれば、陰陽のバランスを――」
「陰陽など、どうでも良い」毛利が遮った。「重要なのは、実際に光るかどうかだ。雷をより多く集め、効率よく変換すれば良いだけのこと」
「無闇に雷を集めれば、制御不能になる」諸葛亮は扇をあおぎながら反論した。「先程の龍の例を見よ。過剰な力は、破滅を招く」
「ならば、過剰にならぬ程度に集めれば良い」
「其れが難しい。雷の力は測り知れぬ――」
「ならば、測れば良い」
「どうやって?」
二人の視線が、鋭くぶつかった。
「孔明殿は風水や易学に詳しいと聞く」毛利が言った。「雷の気配を読むことはできぬか?」
「読める。しかし、読むことと制御することは別だ」
「我は、雷の起こりやすい地形を知っている。山の頂、高い木、金属の多い場所――」
「其れは雷を『呼び寄せる』方法であって、『制御する』方法ではない」
二人の議論は、次第に専門的で難解になっていく。陰陽五行、地形、気象、電気の性質(毛利は経験則から知っている)……時代も分野も超えた、異次元の学術討論が始まっていた。
曹操と信長は、最初は興味深そうに聞いていたが、すぐにうんざりした表情になった。
「……ちっとも結論が出ん」信長が舌打ちした。
「そうか」曹操は溜息をついた。「ならば、我々は我々で考えよう」
第二ラウンド:覇権争い
曹操が羅夢に近づいた。「其の匣、一時的に力を強くすることはできぬか? 例えば、戦場での狼煙のように、強く光らせ、その後、弱める」
「多分……できると思います」羅夢は頷いた。「でも、一度にたくさん使うと――」
「ならば、試させよ」
「待て!」信長が割り込んだ。「曹公、先を越されるわけにはいかん。我が軍こそ、夜戦の経験が豊富だ。此の力の使い道は、わしが一番よく分かっている」
「経験が豊富だからこそ、慎重に使うべきだ」曹操は冷静に反論した。「無闇に力を振りかざせば、敵に位置を知らせるだけだ」
「敵が来れば、返り討ちにすれば良い!」
「無駄な戦いは避けるべきだ」
「は! 曹公はいつも慎重すぎる!」
二人の間に、火花が散る。
趙雲は困ったように二人を見つめ、そして羅夢を見た。「羅夢さん、どちらが先にお使いになるか、お決めください」
「え!? 私が決めるんですか!?」
第三ラウンド:全面混乱
「我の短刀にも、光を宿せ!」毛利の家臣の一人が叫んだ。
「我の槍もだ!」別の家臣。
「待て、我の鎧の飾りにも――」
「皆、黙れ!」毛利が一喝した。しかし、その目は確かに興奮していた。「孔明殿、結論は出たか?」
「未だだ」諸葛亮は眉をひそめていた。「雷の力を安全に増幅するには、地脈の流れを考慮せねば――」
「地脈など、後回しだ! 今、光が必要なのだ!」
「急いては事を仕損じる!」
「のんびりしては、夜が明ける!」
曹操と信長の争い。諸葛亮と毛利の議論。家臣たちの要望。
羅夢の頭が痛くなってきた。
【ユーザー羅夢のストレス値、上昇中!】
小弥の通知が表示される。
【現在のストレス:85/100】
【限界突破で、仮想体に頭痛などの症状が現れる可能性があります!】
【提案:早く決めてください! どんな方法でも!】
「わかってるよ!」羅夢は心の中で叫んだ。「でも、どう決めればいいの!?」
【提案:公平な方法で決めましょう!】
【例えば:じゃんけん!】
「またじゃんけん!?」
【じゃんけんは、古今東西を問わず、公平な勝負です!】
【あるいは、くじ引き、賽振り、腕相撲……】
その時、羅夢は我慢の限界に達した。
「ちょっと―――っ!!」
彼女の叫び声が、草原に響き渡った。
すべての議論、すべての争いが、パッと止んだ。
曹操、信長、諸葛亮、毛利、趙雲、家臣たち……全員の視線が、彼女に集まる。
羅夢は息を整え、顔を上げた。目には、本物の怒りの涙が光っていた。
「みんな……自分たちのことで、勝手に決めようとしてるでしょう!?」
「此の力は、私の携帯の、私のバッテリーなんだよ!?」
「みんなで使いたいなら、みんなで協力して、どうやったらうまくいくか考えればいいじゃない!」
「『俺が先』『いや私が』って……子供じゃないんだから!」
一瞬、静寂が流れた。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
そして――
信長が、まず笑い出した。
「ははは! その通りだ! わしら、確かに子供じみていたな!」
曹操も、微かに笑みを浮かべた。「……確かに、見苦しかった」
諸葛亮は深くうなずいた。「羅夢殿、おっしゃる通りです。我々は、力を合わせるべきでした」
毛利も、少し恥ずかしそうに頷いた。「……我も、興奮しすぎていた」
趙雲はほっとした表情を浮かべた。
家臣たちも、どよめきながらうなずいている。
羅夢は、怒りがすっと引いていくのを感じた。代わりに、少し恥ずかしくなってきた。
「……ごめんなさい。怒鳴っちゃって」
「いや、謝る必要はない」曹操が言った。「お前の言う通りだ。我々は、協力すべきだった」
「では」信長が提案した。「どう協力する?」
全員が考え込んだ。
その時、小弥の声が響いた。
【皆様、まとまられたようで良かったです!】
【では、改めて提案します!】
画面に、図解が表示された。
【『協力発電システム』計画!】
【手順1:皆様の金属製装備を、一箇所に集めます】
【手順2:羅夢さんの携帯を中心に、エネルギーノードを最大出力に設定】
【手順3:集めた金属が『アンテナ』となり、周囲の自然エネルギー(地熱、微弱な大気電気など)を集めます】
【手順4:集めたエネルギーで、携帯のバッテリーを補給しながら、照明などに使います!】
【要するに:充電しながら使える、持続可能なシステムです!】
図解には、携帯を中心に、剣や槍や鎧が放射状に並べられ、そこからエネルギーが流れる様子が描かれている。
「……成る程」諸葛亮が感心したように呟いた。「力を分け合うのではなく、力を生み出す場を共に作る、と」
「持続可能……か」毛利も深く頷いた。「我が三本の矢の教えにも通じる。力を合わせ、永続的な基盤を作る」
曹操と信長は顔を見合わせ、うなずいた。
「では、早速試そう」曹操が指示した。「趙雲、金属を集めろ」
「はっ!」
趙雲を中心に、家臣たちが動き出す。
曹操の剣、信長の太刀、趙雲の槍、毛利の家臣たちの武具……金属製の装備が、草原の中心に集められていく。
羅夢は携帯をその中心に置き、小弥の指示通りに設定を変更した。
【エネルギーノード、最大出力モードに設定!】
【消費:バッテリー3% / 時間】
【自然エネルギー収集率:推定0.5% / 時間】
【差し引き:2.5% / 時間 の消費になります!】
【現在のバッテリー:280%】
「まだ消費の方が多いけど……」羅夢が呟いた。
「ならば、もっと金属を集めれば良い」信長が言った。「わしの鎧も外そう」
「待って!」羅夢は慌てて止めた。「そんなことしたら、信長さんが無防備になっちゃいます!」
「はは! 心配するな! 此の程度の暗闇、わしには関係ない!」
そう言いながらも、信長は鎧を脱がなかった。さすがに、武将としての本能があるらしい。
代わりに、彼は地面を掘り始めた。
「何をしている?」曹操が聞いた。
「金属が足りぬなら、土の中の鉱石を探せば良い」
「……馬鹿な真似はよせ。夜の草原を掘り返すなど――」
その時、諸葛亮が叫んだ。
「皆、伏せよ!」
本能的に、全員が地面に伏せた。
次の瞬間――
空中に、無数の光の粒が現れた。
歴史修正者のデータ兵たちだった。しかし、今回は少し違う。それぞれの兵が、剣や槍の代わりに、奇妙な器具を持っている。それは――
「……我々の金属を、狙っている?」毛利が鋭く指摘した。
確かに、データ兵たちの視線は、地面に集められた金属の山に集中している。
「我らの会話を、聞かれていたか」曹操が歯ぎしりした。
「エネルギーノードの活性化を、感知したのだろう」諸葛亮が分析した。
信長は大笑いした。「はは! 良い! 我らが金属を奪おうというなら、戦って奪ってみよ!」
趙雲が槍を構えた。「守りましょう」
羅夢は携帯をしっかりと握りしめた。バッテリーは279%。
戦闘になれば、消費は加速する。
しかし――
【新提案:『協力発電システム』、戦闘モードへ移行!】
小弥の声が、興奮気味に響く。
【金属の山を『エネルギー増幅器』として使用!】
【羅夢さん、携帯でデータ兵をロックオン!】
【金属がアンテナとなり、ロックオンした敵にエネルギー波を集中照射します!】
【効果:敵のデータ構造を一時的に不安定にします!】
【チームのみなさん、その隙をついてください!】
「それだ!」羅夢は叫んだ。「みなさん、私が敵を狙うから、その隙に!」
「了解した!」曹操が即座に答えた。
羅夢は携帯を掲げ、カメラをデータ兵たちに向けた。自動追尾機能が起動し、敵をロックオンしていく。
【ロックオン完了!】
【エネルギー照射、開始!】
携帯から、目には見えないが確かに存在するエネルギーの波が放たれる。
地面の金属の山が、共鳴するように微かに震え、青白く光る。
ロックオンされたデータ兵たちの動きが、一瞬、鈍る。
「今だ!」信長が叫び、太刀を振るった。
鈍った敵は、回避できない。一刀で、数体が消滅する。
曹操の剣、趙雲の槍、毛利家臣たちの攻撃が続く。
戦闘は、驚くほどうまくいった。
敵は金属を奪おうと接近してくるが、ロックオンされると動きが止まり、簡単に倒される。
【バッテリー消費:戦闘中 5% / 分】
【現在:275%】
「少し、消費が速いけど……」羅夢は計算した。「でも、これなら……」
「効いている!」信長が笑った。「面白い! 此の戦法、なかなか良い!」
しかし、その時――
データ兵たちの後方から、より大きな影が現れた。
歴史修正者・分析型「記録官」の強化版らしい。体は大きく、手には複雑な計器のようなものを持っている。
【警告:強力な敵性データ生命体を検知!】
【名称:歴史修正者・収奪型『資源回収官』】
【特徴:高価値データ(金属装備など)を強制収奪します!】
【戦闘力:高い! 特に、金属装備に対する攻撃が脅威です!】
「我らの武具を、狙っているな」曹操が冷たい目をした。
「ならば、渡さぬまでだ」信長は相変わらず楽観的だ。
資源回収官が腕を上げた。その手にある計器が光る。
次の瞬間――地面の金属の山が、ゆらりと浮き上がり始めた。
「我の剣が!」曹操の目が見開かれた。
「わしの刀も!」信長も驚いた。
金属たちが、ゆっくりと資源回収官の方へ引き寄せられていく。
「だめ!」羅夢が叫んだ。「あれが奪われたら、エネルギーノードも、みんなの武器も!」
趙雲が飛び出そうとしたが、データ兵たちに阻まれる。
諸葛亮と毛利は、急いで作戦を考えているが、時間がない。
その時――
【緊急措置:『協力発電システム』、超臨界起動!】
小弥の声が、緊迫した響きに変わった。
【説明:全てのエネルギーを一時的に解放し、強力な電磁パルスを発生させます!】
【効果:周囲のデータ構造を一時的にリセット! 敵も味方の装備も、一時的に機能停止します!】
【持続時間:約10秒】
【副作用:エネルギーノードがオーバーヒートし、しばらく使用不能になります】
【実行しますか? Y/N】
羅夢は迷った。味方の装備も止まる? でも、今それしか……
彼女は顔を上げ、曹操たちを見た。
「みなさん、ごめんなさい! 今、強いパルスを出します! みんなの武器も、少しの間、動かなくなるかもしれません!」
曹操は一瞬考え、そしてうなずいた。「やれ!」
「面白い! やってみろ!」信長も同意した。
趙雲、諸葛亮、毛利も、それぞれにうなずく。
「……行きます!」
羅夢は、画面のYを押した。
【超臨界起動、実行!】
一瞬、時間が止まったように感じた。
そして――
白い光が、すべてを包み込んだ。
音もなく、衝撃もなく。
ただ、光だけが、草原全体を覆う。
光の中、資源回収官の動きが止まり、データ兵たちが凍りつく。
地面の金属の山も、光に包まれ、動かない。
十秒。
光が消える。
静寂が戻る。
資源回収官もデータ兵たちも、その場に立ち尽くしたまま、動かない。いや、動けない。
金属の山は、ばらばらに地面に落ちている。
曹操の剣、信長の太刀、趙雲の槍……どれも、光沢を失い、鈍く輝いている。
「……効いたな」信長がまず動いた。太刀を振ろうとするが、重い。「うっ……動きが鈍い」
「我の剣もだ」曹操も眉をひそめた。「まるで、錆びついたようだ」
「データ的な『錆』ですね」羅夢は説明した。「すぐに元に戻るはずです」
その言葉通り、徐々に武器は元の輝きを取り戻し始める。
一方、敵はというと――
資源回収官が、ゆっくりと後退し始めた。データ兵たちも、それに続く。
「逃げる気か」毛利が呟いた。
「追うな」諸葛亮が止めた。「我らの装備も、完全には回復していない。無理な追撃は危険だ」
確かに、武器はまだ本来の軽さを取り戻していない。
敵は霧の中に消えていった。
静寂が戻る。
そして――
【エネルギーノード、オーバーヒートのため一時停止】
【回復まで:約1時間】
【バッテリー残量:270% (パルス発動で5%消費)】
「一時間か……」羅夢はため息をついた。「それまで、真っ暗ですね」
「ならば、松明を使うしかあるまい」毛利が家臣に合図した。
かがり火がつけられる。だが、その明かりは、エネルギーノードのものに比べれば、はるかに暗く、揺らめく。
「……暗いな」信長がぼやいた。
「我慢せよ」曹操は淡々と言っていた。「一時間なら、すぐだ」
趙雲は周囲の警戒を続けている。
諸葛亮と毛利は、再び何か議論を始めていたが、今度は穏やかな口調だ。
羅夢は、かがり火の明かりに照らされた皆の顔を見回した。
曹操は相変わらず冷静だが、剣の調子を確かめている。信長は少し不満そうだが、笑みを浮かべている。趙雲は真面目に警戒している。諸葛亮と毛利は、知恵を絞っている。
そして、彼女は気づいた。
さっきまで「俺が先」「いや私が」と争っていた彼らが、今は自然に役割を分担し、協力している。
「……ほらね」羅夢は小声で呟いた。「協力すれば、うまくいくんだ」
曹操が彼女の方を見て、微かにうなずいた。
まるで、彼女のつぶやきを聞き逃さなかったかのように。
夜は更けていく。
星が、歪んだ時空の空に、不自然に明るく輝いていた。
一時間後、エネルギーノードが再起動する時、彼らは新たな計画を立て終えていた。
次に向かう先は――
時空の歪みの源へ。
そして現実世界では、病院のモニターに、また新たな脳波パターンが記録されていた。
複雑に絡み合い、同期する、複数の「意識」のリズム。
医師たちは、首をひねるばかりだった。




