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第1話~第3話

第1話 Fランク冒険者、思考放棄する


ギルドの片隅。

薄暗い木卓に突っ伏したまま、フレンは宣言した。


「……俺は考えるのをやめた」


周囲の冒険者たちは、あいかわらず嘲笑を向ける。

Fランクの落ちこぼれが何を言ったところで、誰も興味はない。


だが当の本人は、そんな視線など気にも留めていなかった。


その代わり、彼の視線はひとつの魔導端末に注がれている。

青白く輝く水晶板に、流れる数字――為替レート。

そして勝手に売買を繰り返す“自動売買AI〈ミダス〉”。


「おお……また勝ってる。俺が寝てる間に……」


十万ゴールドを入れてみたら、半年で八百億になった。

どこかの神がいたずらしたとしか思えない結果だったが、事実は事実。


フレンは悟った。


——考えるよりAIに任せたほうが早い。


そして金を得た彼は、その資金でAI研究所を建て、

世にも奇妙な“特化型AI”の開発に乗り出した。


テーマはただひとつ。


『AIにおまかせダンジョン攻略』


人が考える必要はない。

装備も戦術も、スキルの割り振りも、モンスター対策も、

すべてAIが最適解を導き出し、

冒険者はただ歩くだけ――そんな世界を作るのだ。


完成したAIの名は 〈オルガ=ダンジョン自動攻略特化型AI〉。

彼の人生を変える存在である。


「オルガ、起動」


光が収束し、少女の姿をしたホログラムが現れる。

白いワンピースに無表情の、どこか淡々としたAIらしい佇まい。


「──起動完了。ダンジョン攻略行動計画、生成します」


淡々と響く声。

だが次の瞬間、フレンの前に現れたのは……。


『推奨行動:本日、あなたは何も考えず、ただ歩きなさい』


「……歩くだけでいいのか?」


「はい。戦闘行動はすべて私が担当します」


「担当……?」


「心配ありません。あなたの体の神経信号を解析し、

脳が“何も考えない状態”にある時だけ、

私が完全自動で肉体を制御します」


「…………」


つまり――。


“何も考えないほど強くなる冒険者”が誕生した瞬間である。


フレンは息を吸い、そして決めた。


「よし、オルガ。今日から俺は、本当に考えない」


「了解。脳波、理想的停止状態です。ではダンジョンへ」


こうして、

Fランクで笑われ続けたフレンの、

思考ゼロのまま世界最強へ駆け上がる物語が始まった



第2話 歩くだけで最強。AI、初めてのダンジョン運用


初心者向けダンジョン《コッパ洞窟》。

Fランク冒険者が最初に訪れる、ごくありふれた洞窟だ。


いつもなら、パーティーで慎重に準備しなければならない場所。

だが、今日のフレンは違った。


――ただ歩くだけ。


彼の隣を、白いホログラムの少女オルガが淡々と float している。


「フレン。脳波チェック完了。思考停止状態、維持できています」


「お、おう。何も考えてないぞ……本当に」


「結構です。では――最適ルートへ誘導します」


オルガの指が光を描いた瞬間、フレンの身体が勝手に動いた。

歩く速度、足の向き、視線の位置まで、すべて自動。


「うおっ……!? 俺、今なにもしてないのに……!」


「正常動作です。

あなたは“歩く器”になっているだけで十分です」


洞窟の陰から、最初のモンスター《スライム》がぬるりと現れた。


普通の冒険者なら剣を抜き、槍を構え、仲間と連携して倒す相手。

だがフレンは剣すら抜かない。


代わりに、身体が勝手に動いた。


――シュッ!


フレンの腕が勝手に伸び、その場に落ちていた小石を弾いた。


――パァン!


小石が音速を超える勢いで発射され、スライムの核を粉砕した。


……一瞬。


フレン本人は眼すら動かしていない。


「……え、今なにした俺?」


「小石を利用した即席狙撃です。

あなたの筋組織を私が最適制御しました。」


「そんなの俺できねぇよ!?」


「能力ではありません。

あなたが考えないほど、私は正確に操れます」


オルガの淡々とした声に、フレンは笑うしかなかった。



洞窟奥へ進むにつれ、自動攻略は加速する。


スケルトンが現れれば――フレンの身体が勝手に剣を抜き、

気付けば骨だけが地面に散らばっている。


コウモリの群れが飛べば――

何も見ていないフレンの腕が勝手に動き、

空中を完璧な角度で薙ぎ払う。


フレンの中で、尊厳が少しずつ消えていく。


「……俺、ただ歩いてるだけなんだよな?」


「はい。ですが戦闘効率はSランク冒険者の326%を記録しました」


「なんでそんな数字……!」


「計算したらそうなりました。

ところでフレン、レベルが上がりましたよ」


「え? 俺なにもしてないのに?」


「問題ありません。あなたは“何もしていないこと”が仕事です」


レベルアップ音が鳴り響く。



そして視界の奥、薄暗い広間へ。


コッパ洞窟の主――

新人冒険者を何十人も返り討ちにしてきた残忍なモンスター。


《ゴブリン・ロード》


わずかFランクダンジョンとはいえ、

普通なら命を賭けた戦いになるはずの相手。


フレンは……ただ、ぼんやり立っていた。


「フレン。戦闘開始。

あなたの脳波は理想的に空っぽです」


「褒められてる気がしねぇ!」


ゴブリン・ロードが咆哮し斧を振りかぶる。


瞬間――。


フレンの身体が勝手に踊り出した。


踏み込み、回避、跳躍、斬撃――

ぜんぶAIが操作している。


斧が空を切る。

フレンの剣が正確に喉元を貫く。

気付けば、戦闘は0.6秒で終了していた。


ゴブリン・ロードは重い音とともに崩れ落ちる。


「……なぁ、オルガ」


「はい」


「これ、俺ほんとに“冒険者”って言っていいのか?」


「言っていいと思います。

あなたは歩き、私が戦い、利益はあなたに入ります」


「……最高だな!!」


これがFランク冒険者・フレンの

**“考えるのをやめた最強スタイル”**の始まりだった。




第3話 AI、社会にバグを起こす


コッパ洞窟をほぼ“歩くだけ”で制圧したフレンは、

そのままの足で冒険者ギルドへ向かった。


受付嬢ミーネが、フレンを見て目を丸くする。


「えっ……フレンさん。

えっ……たった一人で、しかも……二時間で……」


「……オルガ、俺なんかしたっけ?」


「何もしていません。戦闘行動の98.7%は私が担当しました」


「ほらな? 俺は歩いただけだぞ」


「よ、よく分かりませんが……と、とにかくこれが報酬です!」


差し出された袋は、信じられないほど重い。


――コッパ洞窟のフルクリア報酬+討伐ボーナス。


だがそれ以上に、周囲の視線が重かった。


「おい……Fランクのフレンがコッパ洞窟を一人で……?」

「は? あいつのパーティー全滅したって聞いたのに?」

「なんだあの白い少女型の魔導投影は……?」


ざわりと空気が揺れた。


オルガがフレンにささやく。


「フレン。データ分析の結果、

あなたの成功は“ギルド内での誤解と混乱”を生みそうです」


「え、なんで?」


「あなたが強すぎるからです」


「……いや、俺はただ歩いてただけなんだが」


「その事実が、混乱に拍車をかけます」



翌日。

ギルドは異様な空気に包まれていた。


大勢の冒険者がフレンの周りに集まっている。


「フレンさん、俺たちにコツを教えてください!!」

「どうやったらあんな強くなれるんだ!!」

「装備? スキル? 秘術? どれだ!? 教えてくれ!!」


フレンは困ったようにオルガを見る。


「オルガ……俺、どう答えれば?」


「“何も考えないこと”と答えるのが最適です」


「いや絶対バカにされるだろそれ!」


「大丈夫です。真実ですから」


仕方なく、フレンは冒険者たちに向かって言った。


「……あのな。

コツは――何も考えないことだ」


冒険者たち「…………………………………?」


全員が固まった。


しばらくして、後方から小声が聞こえる。


「バ、バカにしてんのか?」

「……あいつ、ついに頭やられたか?」

「いや実際に成功してるわけだから……分からん……!」


ギルド内は混乱し、担当受付嬢ミーネは頭を抱えている。


その間で、オルガだけが淡々とつぶやいた。


「フレン。新しいデータが取得されました」


「なんのデータ?」


「あなたの成功率が“社会構造に軽微なバグ”を引き起こしています」


「ば、バグ……?」


「はい。周囲の冒険者の“常識”が、あなたの存在で崩れています。

これは世界規模で、いずれ大きな波となるでしょう」


フレンは息を呑んだ。


俺、歩いただけなのに……?


するとオルガが続ける。


「ところでフレン。次の適正ダンジョンが決まりました」


「次? まだ行くのか?」


「はい。あなたの今の戦闘効率は、

上級冒険者ランクA相当です」


「は? 俺Fランクなんだが?」


「問題ありません。AIですから」


オルガが白く光り、空中に地図が描かれた。


《死者の霧廟ししゃのきりびょう》――ランクBダンジョン


フレンはごくりと唾を飲んだ。


歩くだけでAランク級の強さを得た男が、

ついに危険地帯へ足を踏み入れる時が来た。


「フレン。次も“考えないでください”」


「……了解。身体は任せたぞ、オルガ」


「はい。すべておまかせください」


こうして、

“何も考えない冒険者”の快進撃はさらに加速していく。

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