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第2話 その活躍は留まるところを知らない

 その後の授業でも、エリー・アンの活躍は留まることを知らなかった。英語の授業では、すらすらと返答をぜんぶ、英会話にし始めるし。

 体育のバレーボールでは、まるで未来予測でもしているかのように相手のスパイクコースを読み切り、華麗なレシーブを連発。初めて触るボールとは思えない正確さで、味方にトスを上げていた。


「あら加減が難しい、ですのね……一応、映像サンプルを真似たのですが」


 スパン、と放たれたボールは目にも止まらず。誰があんなものを受け止めれるのかという強力な打球。オリンピック選手か、お前は。


「ねー? あの子、おかしくない?」


 昼休み、俺の隣で手作り弁当を口にしながら、イチカが真剣な顔で呟いた。

 購買の焼きそばパンを頬張る拓郎が、「ほうかぁ?」とふがふがする。


「なんだっけ、そうあれあれ。 『アメリカの至上主義』だから、すごいんだろ」

「『アメリカの帰国子女』な?」

 

 聞いてた言葉の音の雰囲気だけで、別の用語に変換させるな。

 でも、さすがのエリー・アンも、古文は全然ダメだったので安心した。終始、不思議そうに眺めていた。

 イチカは上手く言葉にしがたいものがあるようで、悩みながらも口にする。

 

「いや、そういうことじゃなくって。なんか、変、だよね? エリーちゃん。言動とかが全体的に」

「うーん、まあ世間知らずそうではあるな」

「カリフォルニア州パサデナって言ってたけど、そんな育ち方したのかしら」

「俺も行ったことはないが、あのマサチューセッツ工科大学に並ぶ、カリフォルニア工科大学という名門があったり。NASAのジェット推進研究所とかがあるから。……最先端の学術都市ってイメージがある、な」

「ああ、だから頭良くって育ち良さそうなんだ」


 もしかしたら、なにか特別なカリキュラムでも受けていたのかもしれない。

 そんな話題の中心人物であるエリー・アンは、教室にいなかった。


「あれ、いねえぞ」

「……ん、ああ、そうだな」

「なあ、まさかあの娘……馴染めてねえんじゃね?」


 ポロっと拓郎がこぼす。クラスメイトが騒ぎすぎて、居心地が悪くなっているのかも知れず、自然とやるせない気分になった。イチカも、心なしかシュンとしている。

 だが、俺こそが大騒ぎしていた張本人なわけで。


(アレだったら。明日は、一緒にお昼を食べようって誘ってもいいのかもしれないな。環境が変わって、いろいろ大変だろうし)


 この芽生えた対抗心が、相手を傷つける態度になっていなかったかと、心配になってしまった。

 放課後。俺は生徒会の仕事を終え、遅くに帰路についていた。

 考えるのは、あの転入生、天上院エリー・アンのこと。


(俺とは対極の華やかさだが、実は俺と同じかそれ以上に、日々努力を重ねていて、その結果があの高みなのかもしれないな)


 ひとり納得する。皆と違った努力を続けることを、寂しく思うこともある。でも、それはいわば孤高というものであって、道を貫こうとした結果。俺にとって誇りだった。

 かといって、価値観を共有できないながらも、寄り添ってくれる友達がいる自分はかなり恵まれているとも思う。


「天上院のやつには、今、全く友達がいないんだもんな。きっと、同じ価値観を共有することなんて、誰にも無理だろうし」

 

 なんだかアンニュイな気分になった。

 帰ったあとは、明日の予習を完璧にし、月の学習計画の見直しだ。一日たりとも、後れを取る気はない。

 そう決意を固めた時、何やら、妙な音が聞こえてきた。


「ガリッ、ガリリッ!」


 まるで、硬いものを何かが齧っているような、不気味な音。


「なんだ、野良犬か? それとも誰かのイタズラ?」


 好奇心という厄介な感情が、俺の足をそちらへと向かわせた。そっと陰から道を覗き込む。


「――は?」


 そこにいたのは、信じられない光景だった。

 今日転校してきたばかりの美少女、天上院エリー・アンが、なんと、その電柱に――かじりついていたのだ。

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