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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第三章

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第98話 日常


 会社の始業時間は9時。でも最近は、なるべく早く出社するようにしている。


 いや、勤勉なわけじゃない。

 単に、他に社員もいないし、早めに仕事を片付けておけば後が楽だからだ。

 

 今日もいつものように、大樹の部屋へ向かい、薬草の採取をしていた。  

 この部屋は社内にある温室のような空間で、中心には巨大な樹がそびえ立っている。


 一通り採り終えたあと、部屋の中央で立ち止まり、大樹の幹にそっと手を当てる。

 すると、スッと清らかな水が体に染み込んでくるような感覚がした。


「おはよう」


 意識せずに零れる言葉。もちろん、大樹が返事をするわけじゃない。

 でも、なんとなく言いたくなるのだ。


 採取した薬草を入れた籠を手に部屋を出ようとすると——

 ちょうど入れ違いに、オフィーが大剣を肩に担ぎながら入ってきた。


 彼女は今日も相変わらずスウェット姿だ。


 「おはよう」と声を掛けると、大きなあくびをしながら「おはよう。早いな」と気怠げに返してくる。

 

 彼女は毎朝ここで素振りをするのが日課だ。

 これも、俺にとっては「いつもの風景」。

 

 俺は、あの悪夢のような異世界の旅から帰ってきて、ごく普通の日常を大事にしようと心掛けている。


 というのも——。

 入社してたった一ヶ月で、手首を切られ、世界的傭兵組織に狙われ、さらには異世界で王城をぶっ壊した。


 ……いや、どう考えてもおかしいだろ。


 だからこそ、俺は今、全力で「普通の生活」を満喫している。

 

 そんなことを考えながら、車に荷物を積み込んでいた。その時——


「アレー、森川くん、納品?」


 梢社長がのんびりと声を掛けてきた。


「はい。何かありますか?」


「ううん、別にないよ。気をつけてね」


「ついでに、昼食取ってきても良いですか?」


「了解でーす♪ いってらっしゃーい」


 ゆるい社長の見送りを背に、車に乗り込もうとした、そのとき——


 ガシッ!!


 肩をガッチリと掴まれた。


「森川~、お前ひとりで昼食とろうとしたな?」


 振り向けば、ニヤリと笑うオフィー。


「納品ですが何か?」


「約束、忘れてないよな?」


 ——何のことでしょうか? オフィーさん……。


「お前、言ったよな? 王都に乗り込む前に、あの丘で——『そっか、そん時は昼飯代ぐらいは奢るよ』って!」

 

「ごめん、よく覚えてないんだけど……そんなこと言った?」


「言った! 『そっか、そん時は昼飯代ぐらいは奢るよ』って!」


 ……おい、その絶妙な声真似やめろ。

 しかも微妙に眉を下げて情けない顔で演出するのやめてくれます?


「あー、あの時は、そんな感じのシチュエーションだったし……雰囲気で言ったかもな」


「いーや、確かに貴様は言った!」


「いや、だから、あの時はノリで……」


 僕が抵抗しようとすると、オフィーは食い気味に連呼しだす。

 

「『そっか、そん時は昼飯代ぐらいは奢るよ』」

「『そっか、そん時は昼飯代ぐらいは奢るよ』」


 ——狂ったオウムか!


 こういう時のオフィーは、妙に記憶力がいい。

 普段は「細かいことは気にするな!」とか言うくせに、こういう約束だけは絶対に忘れないんだからタチが悪い。


「……わかりました! わかったから、ピンク亭でいい?」


 諦めて言うと、オフィーは満足そうに頷き、「よろしい!」とドヤ顔で腕を組む。


 ……これでも彼女、公爵令嬢なんだが。


 結局、オフィーを連れて納品することになった。


 

 僕は車で一通り納品ルートを回り、その足でピンク亭へ直行。

 カウンターに並んで席に着いた。


「ニンニクマシマシ、スタミナラーメン二つ!」


 オフィーが店主に大声で注文する。


「おい、僕の分まで勝手に決めるな」


「細かいことは気にするな。戦士たるもの、精をつけるのは義務だろうが!」


「……戦士じゃないんだけど」


 そんなやり取りをしつつ、出てきたラーメンをズルズルとすする。


 ふと視線を上げると、カウンターの向こうでタイショーが眉をひそめていた。


 相変わらず、ロンパンにTシャツの上からエプロンを着た姿は、筋肉が主張しすぎて裸に見える。

 見た目はゴリゴリのマッチョなのに、口調は妙に柔らかい。

 

「まあまあ、そんなにイライラしちゃだめ! ほら、これあげる」


 ポイッと投げられたのは、広原商店街の福引券。


「……福引券って、年末にはまだ早くないですか?」


「この商店街は秋の行楽シーズンを活かして、『冬の準備セール』的なキャンペーンをやってんのよー」


 地元密着型とはいえ、ここの商店街は意外と規模が大きい。定期的に派手なイベントをぶちかましてくる。


 ——ほんと、何気にここの商店街ってド派手だよな。


「ちなみに、一等賞は?」


「世界を股にかける豪華クルーズの旅!」

 タイショーが自慢げに胸を張る。


「それ……嫌な予感しかしない」


 間違いなく、何かのフラグになる。

 例えば、船に乗ったら傭兵部隊に占拠されるとか、海に出たら異世界のバミューダトライアングルに迷い込むとか……。


 ——どうせロクなことにならないに決まってる!


 なにしろ、つい先日まで異世界を股にかけて旅してたんだからな。


「ちなみに、二等賞は?」


「大型テレビ! か、ダイ〇〇の空気清浄機付きヒーター!」


「あ、それいい」


 一等賞のクルーズとかいう地雷に比べれば、こっちは圧倒的に安全だ。

 

「貰っときましょう。ありがとうございます」


「今日までだからね、早く行ってねー」

 タイショーがバチコン!とウインクを飛ばす。


「急だな!」




お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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