表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/199

第95話 英雄たちの帰還


「トーマの英雄にカンパーイ!」


「「「「カンパーイ!!!」」」」


 ルオさんの音頭に合わせ、みんなが杯を掲げる。

 美人魔法使いのソラさんまで、美味しそうに酒を煽っているし、

 ギーブさんに至っては、すでに上半身裸だ。


 ——って、乾杯じゃねぇ!!!


「……あのー、この状況、本当に大丈夫なんですかね?」

 僕は杯を胸元に抱え、梢社長に尋ねる。


「え、何か問題ある?」


 その呑気な顔に、僕は思わず頭を抱えた。

 半日前まで、あの王城で死ぬか生きるかの大騒動だったのに……


「城から勝手に抜け出したんですよ!? もう完全にヤバい奴らじゃないですか!!」


「いいのいいの! 勝負事は、勝ち逃げが鉄則だよ〜!」

 梢社長はふらふらしながら、上機嫌に杯をあおる。


 ——そんなわけあるか!!


……しかし、そんな僕の心配をよそに、周りの空気はすっかり社長の言う通り『勝利の宴』だった。

 

▽▽▽

 

 今、僕らはトーマの宿屋『ウメ』の一階にある酒場で、まさかの大宴会中。


 酒と笑い声が飛び交い、あちこちで勝利を祝う乾杯が響いている。

 ——まるで何事もなかったかのように。


 けれど、ほんの半日前まで、僕らは死線をくぐり抜けていた。


 王都での悪夢のような事件——。


 カルビアンによる王城での極大魔法の暴走。

 その結果、城内は魔獣の巣と化し、さらに……

 奴自身が大樹の化け物へと変貌。


 王城はメチャクチャに崩壊し、

 カルビアンはそのまま化け物と共に消えた。


 ——いや、消えたというか、僕らが消した。

 

 まぁ、後悔はない。むしろ、やってやった感すらある。


 問題は、その後だ!!

 

 僕たち——つまり、僕、ツバサさん、梢社長、ウメさん、そしてサブリナは、

 混乱する王城を、とっとと抜け出し、ここトーマまで逃げてきた。


 しかも、そのバックレ方がヤバい。


 もはや逃走中の指名手配犯レベル。

 コソコソ顔を隠し、人目を避け、建物の影を選びながら、必死の逃走劇だった。


 ちなみに、アリーシアとドン殿下は、それぞれの兄貴たちと一緒にいたので——

 置き去りにした。


 そんな僕らがトーマに到着した瞬間——。


「うおおおおおお!! 英雄様のお帰りだぁあああ!!」


 街の人たちが歓喜の大歓迎!!

 しかも、前回(って実は昨晩)の宴を軽く超える勢いの大騒ぎ。


 広場には大鍋が並び、肉が焼かれ、酒樽が次々と空けられていく。

 人々は笑い、歌い、踊り、祝杯を交わしていた。

 

 ——この街、飲んだくれしかいないのか!?

 


「なんだよー! モリッチ、ノリ悪いよなー!」


 隣で酒をあおるサブリナが、虚ろな目をしながら絡んでくる。

 肩を寄せてきたせいで、ふわっと甘い酒の匂いが漂った。


 サブリナ! お前、見た目は完全に未成年だろ!? ちょっとは遠慮しろ!!


「わー、このお酒美味しいです!」

 ツバサさんが、ほわっと頬を赤らめて微笑んでいる。

 その姿があまりに可愛すぎて、僕は危うく理性を手放しそうになった。


「ウィ〜〜〜ヒック」


 って、グリー!! 守護精霊が酒飲んでちゃダメだろ!!


「ほら! うだうだ考えずに飲めや! 店主命令だ!」


 ウメさんの強烈な蹴りが、僕の背中に炸裂した。

 ビシィッと音が鳴るほどの衝撃。こ、この人、絶対手加減してない……!!


「わーったよ! もうヤケだ!!」


 勢いでコップを呷った、その瞬間——。


 バンッ!!!


 突然、店の扉が勢いよく開いた。

 一瞬、酒場の喧騒がピタリと止まる。


 そこに立っていたのは——。


「イヤー! みんな盛り上がってるね〜!」


 軽快な声とともに現れたのは、まさかのドン殿下。

 そして、その隣には……。


「ふん、これが庶民の飲み屋というやつか?」


 ガ、ガ、ガゼット王子ーーー!?!?


 僕は心臓が飛び出しそうになった。

 やばい、王都から勝手にバックレた件、完全にバレてる……!!


「やあ、先に逃げちゃうなんてひどくないかい?」


 ドン殿下は、にこやかに笑いながら近づいてくる。

 けれど、その背後で——。


 ガゼット王子の目が、静かに、しかし確実に僕を睨んでいた。


 まずい、これはまずい!!

 監禁!? 死刑!? それとも、公開処刑のコース!?


「ス、ス、スイマセンデシターーー!!!」


 僕はもう反射的に、王子の前で土下座した。

 全力の土下座。先制攻撃……いや、先制謝罪で気をそぐしかあるまい!!


——すると、頭に違和感。


「おぬし、何しとんじゃ?」


 恐る恐る顔を上げると——

 僕の額を、人差し指でツンツンと突いてくる人物がいた。


 “のじゃロリ大樹卿” である。


「のじゃロリ!」


 思わず叫んだ瞬間——。


 パコーン!!


「誰がのじゃロリじゃ!!」


 鋭い衝撃が頭に走った。痛ぇ!!


「なになにー、モリッチ死刑なのか?」


 サブリナ! お口チャック!!


「誰がそんなことゆーとるんじゃ?」


 大樹卿がサブリナをじろりと睨む。


「本人が言ってる」とサブリナ。


 ——お前、余計なことを!!


 それを聞いた大樹卿は、しばし沈黙し……そして、大笑いした。


「そんなわけあるかいな! お礼こそすれ、英雄殿をなじる者などおらんじゃろ」


 その言葉に、一同の空気が少し和らぐ。


「のー、ガゼットよ?」


 そう言いながら、大樹卿は隣の王子に視線を向け、ニヤリと笑った。


 その言葉を受け、ガゼット王子が静かに歩み寄る。

 

 僕の目の前で、膝をつき——。


「森川……だったな?」


 王子の低い声に、僕は無言で首をカクカクと振る。


「森川殿。この度は、我が愚弟が迷惑をかけた。申し訳なかった」


 そう言って、ガゼット王子は深々と頭を下げた。


 思わず僕は、首をフルフルと横に振る。


「そして、梢ラボの皆々には——

 この国を襲った《竜災》と《大樹の厄災》を退け、王都を守るという偉業を成し遂げていただいた。

 その献身と勇気に、王族の名において深く感謝を捧げる」


 王子の低く響く声が、酒場の喧騒を静める。

 そのまま、彼はゆっくりと頭を下げた。 


 ——すると、梢社長が静かに前へと歩み出る。


「殿下、どうか頭をお上げください。謝罪は受け取りました」


 柔らかな微笑みを浮かべながら、

 社長は王子に手を差し出す。


 王子は一瞬、彼女を見つめ——

 その手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


 ——その瞬間。


 スッ。


 煌めく銀光が、王子の喉元に突きつけられた。


 空気が、一瞬で凍りつく。


「っ……!」


 周囲の兵士たちが、驚愕しながら動こうとする——


「よせ」


 王子が片手を上げ、周囲の兵士たちを制する。


 だが、社長は剣を構えたまま、じっと王子を見据えた。


「ですが——」

 静かに、しかし確実に社長は剣を王子の首筋へと押し当てる。

「もし、今後また私たちの《大樹》に手を出すようなことがあれば……」


 微かに口の端を吊り上げ、社長は囁いた。


「——その時は、国ごと滅ぼします」


 一瞬、酒場の空気が張り詰める。

 

「……肝に銘じておくよ」


 王子は目を細め、微笑を浮かべながら指先で剣を軽く押し戻した。

 どこまでも冷静なその態度に、社長はふっと息を漏らし——


 次の瞬間、満面の笑みを浮かべた。


「ま、難しい話は置いといて、飲みましょー!」


 ——パァン!


 社長が手を叩くと、奥からウメさんが酒瓶を抱えて現れる。

 

「はいよ! 今日は王子の奢りだ! みんな、しっかり味わえよ!」


「えっ、俺が払うのか……?」


「当たり前です♪」


 パチンッ! 社長が指を鳴らし、ウインクする。


 「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」


 歓声が響いた瞬間、宴のボルテージが一気に爆発した。


 ウメさんが酒瓶を振り回しながら陽気な歌を歌い、

 サブリナは椅子の上で踊り出し——

 そのノリに釣られて、街の人たちまで乱入してくる。


 気づけば、酒場全体がまるでカーニバル会場と化していた。


 混沌と狂騒の第二ラウンド、開幕——!!



お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ