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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第87話 チートか?


「ツバサさん。魔法、すごいね……」


 僕がどこか冷めた口調でそう言うと、彼女は照れたように「へへっ」と笑った。


「なんか、できるかなって……思って」


 ——それでできちゃうんだ。やっぱエリート……。


「森川さんが一緒にいてくれると、できる気がするんです……なんでだろ?」


 ツバサさんは視線をそらし、もじもじと指先をいじる。


 ——なに、この可愛い生き物!


「それさー、お互いの大樹の加護が共鳴してるんだよ。それ以外、あんなに魔法が使えるわけないよ」


 ——グリー! いいムードの時にそんなこと言わない!


「それより、魔獣が階段を上がって、上の階に行ってるけどいいのか?」


 なに!?


「あ! あれですね」


 ツバサさんが指さす先を見ると、狼モドキやトカゲモドキが次々に階段を駆け上がっていく。


「なんで奴ら?」


「こっちはさっき隠蔽をかけたから、見えてないんだな! 獲物を求めて上に行ったんだろうよ」

 

 グリーが言っている間にも、二階の方から魔獣の唸り声と人の悲鳴が聞こえてくる。


 正直、この王城がどうなろうと僕らには関係ない。

 言ってしまえば、この異世界ごとどうなろうと気にならない。


 だけど……


「行きましょう! 森川さん」

 ツバサさんが拳を握りしめ、まっすぐ僕を見つめる。


「いやいや、ここに隠れてた方が安全だよ。それに、ツバサさんをさらった人たちの国だよ? 助ける意味ある?」


 彼女は一瞬、目を伏せてギュッと唇を噛んだ。

 それからもう一度、真っ直ぐ僕を見る。


「それでも、私たちに救える命があるなら……見てるだけなんてできません!」


 ——忘れてた! 彼女の夢はニチアサヒロインだった……!


「わかった。でも、命は大事に行こう。僕らにできることなんて、たかが知れてるんだから」


「大丈夫です。いまなら、いろんな魔法が使える気がするんです!」


 胸の前で両手をぎゅっと握るツバサさん。


「お前より、よっぽど強そーだな」


 ——黙れ! グリー!

 

「じゃあ、行こう!」


 声を掛け、二階へ続く大きな階段の下へ走る。


 階段の中段には、狼モドキが二匹。

 隠蔽魔法のせいか、こちらには気付いていないようだ。


 僕は剣を構え、背後から斬りかかろうと一歩踏み出す——


 と、その横で声が上がった。


「ウィンドスラッシュ!」


 振り返ると、ツバサさんが手を剣のように横に振っている。

 その手から飛んだ斬撃が、狼モドキの背中を切り裂いた。


 え?


 え?


 二人して見つめ合う。


「ツバサさん、そんな魔法も使えるの?」


「オフィーリアさんが使ってるの見てて、私もできるかなーと思って、やってみたらできました!」


 確かに、魔法はイメージが大事だってオフィーも言ってたけどさ……!


 ……この子、まさかのチートか?


「ますます、お前のグリーンなんちゃらの価値が危うくなってきたな!」

 グリーが僕の肩の上で、楽しそうにクスクス笑う。


 ——僕の存在証明が……。


 どんより落ち込む僕をよそに、「さっ、助けに行きましょう!」とツバサさんは勢いよく階段を駆け上がっていく。


 階段の踊り場にたまった魔獣たちに向けて、ウィンドスラッシュとファイヤーボールを乱発。

 魔獣たちはそれに押し流されるように、血を吹き出しながら吹き飛んでいく。


 僕は、彼女が駆逐した後をトボトボとついていく——。

 


 階上に上がると、赤い絨毯が敷かれた大きな廊下に出た。

 その脇には、血まみれで倒れる兵士と、魔獣の亡骸が散乱している。


 中にはまだ息のある者もいるのだろう。

 あちこちで呻き声が響く。


 そして、その最奥——


 えんじ色に金の装飾が施された大きな扉。


 その前に、魔獣たちが群がり、鋭い爪で扉を削っていた。


「数が多すぎる」


「全部はきついですね……不用意に魔法を放つと、扉ごと壊しかねません」



 その時——


 インカム越しにオフィーの声が飛び込んできた。

『また奴が飛ぶぞ! 距離を取れ!』


 ——飛ぶ、だと?


 嫌な予感がして、僕は近くの窓へ駆け寄る。


 前庭を見下ろすと——

 そこには、両翼を大きく広げたドラゴンの姿があった。


 まさに今、地を蹴り、空へ舞い上がろうとしていた。

 

 周囲では近衛兵たちが警戒しながら囲んでいるが、彼らの魔法も武器も、ドラゴンの鱗には傷一つつけられていない。


 庭のあちこちには、魔獣の亡骸、焼け焦げた地面、凍りついた瓦礫——戦いの爪痕が無残に広がっていた。


 アリキアさんとオフィーの姿も見えるが、二人とも明らかに苦戦している。


「空にあげるな!」

 オフィーの叫びが響く。


 しかし、ドラゴンの巨体はすでにゆっくりと浮かび上がりつつあった。

 

 ——まずい! 空からブレスを吐かれたら、王城なんて一瞬で焼け落ちる!


「ツバサさん! 一旦、下に避難しよう!」


 振り返った瞬間、視界の端で影が動いた。


 ——魔獣!?


 狼モドキとトカゲモドキが、こちらに気づき、猛然と突進してくる。


「ウィンドスラッシュ!」


 ツバサさんの放った斬撃が空を裂き、魔獣たちを切り裂いた。

 だが、それでも数が多すぎる。


 ——さばききれない。


 跳ね上がった狼モドキが、ツバサさんへと飛びかかる。


「グリー! 障壁を!」


 叫ぶと同時に、僕はツバサさんの前へ飛び出した。


 咄嗟に振るった剣が、狼モドキの腹を裂く。


 ガゥッ……!

 狼モドキは血を吹きながら吹き飛ぶ。


 だが——その瞬間。


 ズゥンッ!!


 大地が揺れた。


「……っ!」


 嫌な予感が背筋を駆け上がる。


 迷う暇はない。


「伏せろッ!」


 ドンッ!


 僕はツバサさんを抱え、床へ飛び込んだ。


 直後——轟音!


 周囲が激しく揺れる。

 

 目の前に展開されたグリーの障壁が、一瞬で砕け散る。

 灼熱の奔流が頬を焦がし、壁という壁が爆ぜ飛んだ。


 ——ドラゴンのブレス。


 空から降り注ぐ地獄の業火が、王城を焼き尽くそうとしていた——。




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