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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第84話 魔獣


「グリー来たか! こっちも頼む!」

 

 オフィーの声に応じ、グリーは軽く手を振りながら「はいはい、ほれ」と呟き、手かせをひねって断ち切った。

 

 自由になったオフィーは素早く近くの兵士から剣を奪い、勢いよく振り回して円を描いた。


 一瞬、時間が止まったように静まり——次の瞬間、オフィーを囲んでいた兵士たちが一斉に吹き飛んだ。


 ——こんな光景、映画やアニメでしか見たことないって。


 よく見ると、機体に白いインカムが引っかかっている。


 インカムを掴んで頭に掛けた瞬間、懐かしい声が飛び込んでくる。

『ウェ~イ! ツバサは無事?』

 

「サブリナ!」

 別れてから半日も経っていないのに、彼女の声が妙に懐かしく感じる。

「助かった。ツバサは……とりあえず無事だ!」


『オフィーにもインカム渡せよー!』とサブリナ。


 僕はオフィーにインカムを投げる。

 彼女は、剣を振りながら器用にキャッチし、そのまま装着する。


『ねーねー、いきなりなんだけど、足元の変な模様、めっちゃ光ってるけど大丈夫?』


 サブリナの指摘に、足元を見下ろすと、確かに魔法陣の模様が不気味に赤く輝いている。


「オフィー! これ、どうなってるんだ?」


「とにかく、逃げろ!」


 オフィーの声に反応し、僕はツバサさんを胸に抱えたまま、魔法陣から飛び出した。


 その瞬間——

 

 魔法陣の赤い輝きが歪み、中央から黒い渦が広がっていく。


 ——あの渦……やな予感しかしない。


「カルビアン! 今すぐ術を止めろ!」


 オフィーの叫び声に振り向くと、そこには『悠枝の冠』をしっかりと胸に抱え、震えているカルビアンの姿があった。

 

 彼の目はあらぬ方向を見つめ、何かをブツブツ呟いている。

「ふざけるな……! いつもいつも、俺の邪魔をしやがって……!」


 そして突然、頭を抱えながら叫ぶ。

「ゴードン! 貴様もそうだ! この役立たずが!」

 

 カルビアンは、隣に膝をついて呆然とするゴードンの体をそのまま魔法陣の中心——黒い渦の中へと蹴り飛ばした。

 

 ゴードンは叫びをあげながら体が地面を転がり、渦に飲み込まれていく。


 一方、黒い渦は、魔法陣いっぱいにその大きさを広げていった。


 ——これ、絶対ヤバい!


 そう思った瞬間、渦の奥からグギャァアと咆哮が響き、周囲が揺れた。


「まずいな……術が発動したまま、止まらない」

 オフィーが呟く。


 その直後——


 渦の中から禍々しい爪が突き出し、渦の縁を掴んで、何かがゆっくりと這い出してくる。


 ——まさか!?


 次の瞬間、その存在が黒い渦から完全に姿を現した。

 

 その巨大な口には、先ほど放り込まれたゴードンが咥えられている。

 そして、その黒い鱗、鋭い牙、翼——


「ドラゴン……!」


 渦から出てきたのは、紛れもなく ドラゴン だった。


 ドラゴンは咥えていたゴードンをひと飲みにすると、ゆっくりと首をもたげ、周囲を見渡した。


「ヤバいな……完全に、あのダンジョンと繋がったらしい」


「……あのダンジョンって、会社にあるやつか?」


「そうだ。あのダンジョンのラスボスは、ドラゴンだからな」


 ——新情報にびっくりだ、オフィー!


 オフィーは『悠枝の冠』を抱えたまま震えているカルビアンの胸ぐらをつかんだ。


「今すぐ発動を止めろ! 魔獣があふれてくるぞ!」


 激しく揺さぶるが、カルビアンの目はすでに焦点を失い、宙を彷徨っている。


「チッ……使えねえ!」


 オフィーはカルビアンから『悠枝の冠』を無理やり引きはがそうとするが、カルビアンはしっかりと抱え込み、放そうとしない。


 冠は今も淡い怪しい光を放ちながら、なおも不気味に輝いている。


「こいつを壊せば、もしかしたら……」


「待て待て! それ、国の至宝 だろ!?」


「うるさい! 穴を塞がんと、とんでもないことになるぞ!」


 そう言っている間にも、穴からゴブリンや狼のような魔獣が続々と這い出してくる。

 その中には、見たこともない巨大なトカゲのような魔獣も混じっている。


 そして——ドラゴンが、ゆっくりと翼を広げ、浮かび上がる。


 あふれ出る魔獣たちは周囲の術師たちに襲いかかり、次々と牙で襲い掛かっている。


「ひっ……!」

 カリビアンは後ずさりしながら、「これは……これは、俺のものだぁぁぁ!!!」と叫ぶと、冠を強く抱えたまま、走り出した。



「おい、待て!」


 オフィーが手を伸ばすが、間に合わない。

 カリビアンは冠を抱えたまま、中庭の外へと逃げ去った。


「クソッ、触媒を潰さないと転移門を閉じれない!」


 オフィーの視線が僕に向く。

 その視線は——全身から怪しく光を放つツバサさんに注がれていた。


「ふざけんな!ツバサさんを殺す気か!」

 僕はツバサさんを庇うように抱え直し、オフィーの視線から隠す。


「どちらか一方だけでもなんとかしないと、転移門が発動しっぱなしだ! ツバサを何とかしろ!」


「何とかしろって言われても、どうすりゃいいんだよ!」


「ツバサを起こせ! 何でもいい、すぐにだ!」

 オフィーは迫りくる魔獣を切り伏せながら、焦燥の色をにじませて叫ぶ。

 

「起こせって言っても……どうすれば!?」


 僕は名前を呼びながら彼女の体を揺さぶるが、反応は一切ない。


「なーなー、お姫様を目覚めさせるのって、王子様の口づけだろ? チューしてみなよ!」

 隣でツバサさんを覗き込んでいたグリーが、ニヤニヤしながら言った。


 ——な、なにー! チューって……接吻のことか!?


「森川! いつまでも持たん! 何でもいいから早くしろ!」

 魔獣を斬りながらオフィーが叫ぶ。

 

「なんだよ、照れてんのかよ? もしかして、チューするの初めてか? その年で?キモー笑うー!」

 

「な、な訳あるかー!!」

 見栄を張った僕に、グリーはさらに煽る。


「だったら早くしろよー! チュー!チュー!チュー!」


 手をバタバタ振りながら騒ぐグリー。


「早くしろ、森川!」

 オフィーの怒声が飛ぶ。


 ……僕は、覚悟を決めた。


 ——そう、これは仕方なくやるんだ!

 決して、決して、欲望に負けてやるんじゃなくて!!


 僕はツバサさんの顔を見つめる。

 ぐったりと目を閉じ、静かに眠る彼女。


 その唇をじっと見つめる。


 ピンク色の、柔らかそうな唇。


 僕は、顔を近づけ——

 目を閉じ、そっと唇を尖らせ——



 ——ぱちり。


「……森川さん?」


 突然、ツバサさんが目を開けた。


「……なにしてるんです?」


 そして彼女は、無様な僕の顔をじっと見つめている。

 

 はい。チュー、失敗!



 

 不吉な気配を感じ、ハッと横を振り向くと、ドローンがすぐ横に浮かんでいた。


『ウェ~イ! 証拠映像、しっかり確保しました~♪』


 サブリナの叫ぶ声がインカムを通し聞こえた。


 ——僕はこの時、ある意味死んだ。


 

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