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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第82話 連行


 手首を縛られた僕とオフィーは、月栄宮へと連行された。


 歩くたび、さっき打ち付けた頭に鈍い痛みが響く。

 縛られた手首はジンジンと痺れ、指先の感覚も薄れていく。


 隣では、オフィーが「触るな!」と怒鳴りながら何度も抵抗していた。

 だが、そのたびに腰紐を無理やり引かれ、あの屈強なお姫様がよろめく。

 普段なら堂々とした彼女が、今は操り人形のように引きずられているのが、見ていて悔しかった。


 ——ダーズ! 嵌めやがって。


 ドン殿下が「信頼できる従者」だと言っていたから、油断してしまった。

 結局、この世界では誰も信用できないってことか。


 ちなみに、僕らの手首に嵌められた縄には魔封じの術がかかっているらしい。

 オフィーの魔法はまったく使えず、彼女自身もそれを理解しているのか、忌々しげに奥歯を噛み締めている。


 この封印が、僕のグリーやグリーンフラッシュにも効くのかは分からない。

 けれど、今は無闇に試すわけにもいかない。


 ——まあ、いざとなったらグリーを叩き起こすけど。


 月栄宮は王城の脇にあり、長い回廊でつながっていた。


 僕らは兵士たちに腕を引かれ、罪人のように引き立てられながら進む。


 警備に立つ兵士たちの前を通るたび、値踏みするような視線を浴びた。

 ニヤリと嘲笑う者、わざとらしく咳払いする者、あからさまに唾を吐く者までいる。


 相当、嫌われているらしい。気のせいじゃない。

 なにしろ、小声で「蛮族め」「異世界野郎が」と吐き捨てる声がはっきりと聞こえてくるからね。


 回廊を抜け、しばらく歩くと、大きな扉の前で足を止めた。

 扉が開くと、窓を背に、キンキラした趣味の悪い服をまとった男が悠然と立っていた。


 ——こいつが……カルビアン?


 僕とオフィーは無理やり床に膝をつかされ、抵抗する間もなく身体を押さえつけられた。

 さらに、僕に至っては意味もなく腰を蹴り飛ばされる。


 品のない笑顔。

 品のない青い目。

 品のない金髪に、品のないスッとした鼻筋。


 間違いなく、品のない色男だ。くそったれが!


 男は余裕たっぷりに顎を上げ、口の端を歪める。


「やあ、オフィーリア。久しぶりだな」


 嫌味な笑みを浮かべ、わざとらしくゆったりとした口調で続ける。


「相変わらず――見目だけは美しいな」


 その瞬間、オフィーの体がピクリとこわばり、小さく震え始めた。

 まるで毒虫でも見るような、露骨な嫌悪感。


 ——あちゃー、オフィーが本気でキモがってるわ。


 「貴様は、相変わらず無駄に光ってて不気味だな。お前、鏡を見たことあるか?」


 オフィーはフッと唇を吊り上げ、挑発的に言い放つ。


 「それと、化物に追われて逃げ惑う姿は、実に滑稽だったぞ。カルビアン」


 おおっと、煽っていくスタイルか。いいね、いいね!

 ……と思ったのも束の間——


 バチン!


 鋭い音が部屋に響いた。オフィーの頬が、勢いよく弾かれる。


 「……ッ」


 オフィーは顔を上げないまま、ゆっくりと口元を歪めると、高そうな絨毯の上に唾を吐き捨てた。

 滲む赤。血が混じってる。


 ——あー、これ、マジでブチギレてるやつだ。


 オフィーがゆっくりと顔を上げる。

 その瞳には怒りでも悲しみでもない——ただ、氷のように冷たい敵意が宿っていた。


 カルビアンは、それを見てニヤリと笑う。

 ……なんか、めっちゃ嬉しそうなんだけど?


「じゃじゃ馬っぷりは変わらずか」

 カルビアンは口元を歪め、楽しそうにオフィーを見下ろした。


 叩かれた衝撃で切れたのか、オフィーの唇からじわりと血が滲む。

 だが、彼女は気にする様子もなく、舌でペロリとそれを舐め取ると、ニッと口の端を吊り上げた。


 ——うわ、この表情はヤバいやつだ。


「なあ、カルビアン。貴様、ツバサをどこにやった?」


 オフィーはゆっくりと、一言一言かみしめるように言う。

 その声音には、鋭い刃のような怒気が滲んでいた。


「今すぐツバサを解放すれば、お前の愚行も‥‥‥全部とは言えんが、ほんの少しなら許してやるぞ」


 ……おお、強気。いや、許す気ゼロの声音してるけど!?


 「ツバサ‥‥‥?」


 カルビアンはわざとらしく首を傾げ、それからニヤリと口元を歪める。

 その楽しげな口調が、ますます胸糞悪い。


 「あいつなら今は実験棟の檻の中に閉じ込めてあるぞ」


 ——実験棟!?


 瞬間、胸の奥がグッと締め付けられる。

 思わず拳に力が入り、縄がギリギリと手首に食い込んだ。


「実験棟だと?‥‥‥貴様、ツバサに何をした!」

 オフィーの怒声が響く。怒りと焦りが滲んだその一言に、室内の空気が張り詰める。


「ハッ!」

 カルビアンは肩をすくめ、鼻で笑った。


「あの女がそんなに大切か? 安心しろよ。ダンジョン暴走の責任は、きっちり取らせてやる。 まあ、催眠魔法で眠らせてあるから、今のところは穏やかに過ごしているさ」


 その軽薄な口調に、オフィーの拳がわずかに震える。


「貴様‥‥‥」

 ギリッと奥歯を噛み締め、低く静かに言葉を絞り出す。


「馬鹿だとは思っていたが‥‥‥ここまでとはな。貴様は、最悪に性根の腐った下種だ」


「フン! もともと責任を取らせた後は、実験材料として使い捨てる予定だった。 だが――」

 カルビアンは言葉を切り、薄く笑う。

「お前がそこまで大切にしているのなら‥‥‥考え直してやってもいいぞ?」


 オフィーの眉間に深い皺が寄る。


 カルビアンはその反応を楽しむように、ゆっくりと手を伸ばした。

 強引にオフィーの顎を掴み、ぐいっと顔を引き寄せる。


 オフィーの金色の瞳がカルビアンを睨みつけるが、奴は意に介さず、愉快そうに笑いながら囁いた。


「そうだな……お前が私の妾になれば、考えてやってもいい」

 カルビアンは、嫌らしく目を細めながら言葉を続ける。


「そうすれば、お前の親族たちも罰することなく——見逃してやるぞ?」


 ——クソッ! こいつ、ヤベーな!

 絵に描いたような下種野郎だ!!


「ふざけるな!」

 オフィーが鋭い声を上げ、顎を掴むカルビアンの手を振り払おうともがく。


「貴様の妾になるくらいなら……この、弱いくせに貴様を睨んでるコイツの方がマシだ!」

 彼女は怒気を帯びた金色の瞳でカルビアンを睨みつける。


 ——そうだ、言ったれ!って、さりげなくディスるなや!!


 しかし、カルビアンは余裕の笑みを崩さず、鼻を鳴らした。

「ハ! その強気がいつまで続くかな? 見ものだな」


 そして、ゆっくりとこちらに目を向ける。

「で、こっちが異界人か。相変わらず異世界人は下品な奴ばかりだ」


 ——相変わらず……?


 まるで以前も異世界人を見たことがあるような言いぶりだ。


「殿下、その男は実験に使わせていただきたいのですが」

 突然、横から白いローブを着た男が口を挟んできた。


 そのローブ、見覚えがある。


 トーリアさんと同じローブ!

 となると、この男が大樹連の強硬派か――。


 カルビアンは、まるで虫を見るかのような目で僕を見下ろし、冷ややかに言い放った。

「好きにしろ。ただし殺すなよ。暴走を起こした大罪人だからな」


 ——まったく、どの口が言ってやがるんだ。


「張本人は、あんただろうが!」

 僕は思わず叫んでいた。


 すると、オフィーがちらりと僕を見やり、「森川、そう怒るな」と目で制し、代わりに口を開く。


「カルビアン。お前、本当はわかってないんだろ? どうして影流の森で失敗したか」


 オフィーの言葉に、カルビアンの表情がわずかに揺れる。


「あれはな、お前たちが極大転移魔法を使った場所に、たまたまダンジョンコアがあってな。それが共鳴して暴走したせいだ。まあ、真っ先に逃げたお前は知らんだろうがな」


 まるで子供に言い聞かせるように、オフィーは淡々と言い放つ。


「な、なんだと!」


 カルビアンは本当に知らなかったのか、動揺した様子で視線を泳がせると、頼るように白いローブの男を見た。

 すると、その男は一歩前に出て、恭しく口を開く。


「殿下。そのような話は、すべて根拠のない妄想です。ダンジョンの暴走は、そいつともう一人の女が引き起こしたに決まっております」


「違うね」


 オフィーは鼻で笑い、軽蔑した目で男を見やる。


「私とツバサは、たまたまダンジョン内で魔法を使っていただけ。お前たちが実験でダンジョンの魔力を転移させたせいで、巻き込まれただけだよ」

 そう言って、オフィーはひとつ息をつく。


「お前、あそこにダンジョンコアがあることに気づいてなかっただろ?」

 低く鋭い声で問いかけ、じっと男を睨みつける。


「そんな場所に、よその魔力をゴッソリ転移させたせいで、ダンジョンコアがそれを吸収して暴走したんだ」


「馬鹿なことを! そんな戯言に騙されてはなりませんぞ! どうせこいつら、実験を妨害するためにコアを狂わせたのです!」


「お前たちがいつ実験をしているかなんて、私が知るわけないだろ」


 オフィーは呆れたように肩をすくめ、淡々と続ける。


「そもそも、お前たちがコアの場所すら調べずに極大魔法を使ったのが原因だ」


 白ローブの男は反論しようと口を開くが――何も言えずに押し黙る。


「もういい。そんなことはどうでもいい」


 カルビアンが冷たく言い放った。


「結果さえ出れば、誰も文句は言わん。場所を変えるぞ」


 そして、無機質な声で続ける。


「お前には、実験に付き合ってもらう。立て」


 次の瞬間、ローブの男が無情にも僕の背中を蹴りつけた。



お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いいたします

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