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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第81話 ダーズ


 王城内には難なく潜入できたものの、そこから月栄宮へどう進むかで頭を悩ませていた。


 城内では警備の兵士たちが忙しく動き回り、庭園には煌々と松明が灯されている。

 

 特に月栄宮の警戒は厳重で、兵士たちが建物を取り囲むように配置され、潜り込む隙はない。

 仕方なくダーズさんの執務室に避難したものの、そこから先に進むことができなくなってしまった。


 今、僕はオフィーと並んでソファに座り、ダーズさんの前で出されたお茶をすすっている。


「まだ、力ずくで突っ込むおつもりですか」


 ダーズさんが冷たい視線を向けてくる。

 対して、オフィーは乱暴に頭を掻きながら答えた。


「まあな。今出て行っても、森川なら捕まって死ぬだけだろうしな」


 ——オフィーも共犯でしょ!



「カルビアンの動きは掴めているのか?」


 オフィーが訊ねると、ダーズさんは淡々と答えた。


「はい。昨晩遅く、他の魔術師たちと共に月栄宮に入ったことが確認されています。その際、ツバサ様が拘束され、地下の管理室に閉じ込められていることも把握しています」


「……奴ら、ツバサをどうするつもりなんだ?」


「おそらく、今回のスタンピードを引き起こした首謀者として幽閉しているのでしょう」


「は? スタンピードの原因は、そのカルビアンとかいう奴のせいじゃ……」

 僕が口を挟むと、ダーズさんがチラリと視線を向けてきた。


「存じ上げております。今回の件は、大樹連の強硬派とカルビアン王子が結託して引き起こしたものであることは、すでに確認されています」


 ——大樹連……“のじゃロリ”さんのとこか。


「極大転移の触媒として、一号大樹の『悠枝の冠』——つまり、その枝のかけらが使われたことが確認されています」


「ハァ!? 『悠枝の冠』は、王家に伝わる至宝だろうが!」

 オフィーが身を乗り出し、声を荒げた。


 その迫力に圧倒されながらも、僕は知らない言葉ばかりで話についていけず、思わず聞き返した。

 

「ちょっと待って。知らない事ばっかりで、話がよくわかんないんだけど。一号大樹って何? それに、『悠枝の冠』って?」


 オフィーは肩を落とし、カップを乱暴に手に取ると、面倒くさそうに説明を始めた。


「一号大樹ってのは、この世界にある“大樹様”のことだ。それで、『悠枝の冠』は、その大樹の枝から作られた王冠で、国王の継承式に使うロイマール王国の至宝だ。それを勝手に持ち出すなんて、本来なら絶対に許されることじゃない」


「カルビアン殿下も焦っておられるのでしょう。今のままだと、第一継承権を持つガゼット殿下が王位を継ぐことになりますから」

 ダーズさんが淡々と補足する。


 その言葉に、オフィーはジロリとダーズを睨み、低い声で問いかけた。


「ダーズ、お前はそれでいいのか? 主であるドンを、このまま放っておいて」


 しかし、ダーズさんは表情を一切変えずに答えた。

「ドングラン殿下は、最初から王位を継ぐことに執着しておられませんので」


 その声には、まったく感情がこもっていなかった。


「それであれば、オフィーリア様こそ、どうされるおつもりですか? このまま、元婚約者であるカルビアン王子と敵対することになっても良いのですか?」


 ——え!? 元婚約者!?


「おや、森川様はご存じなかったのですね。オフィーリア様は、かつてカルビアン王子の婚約者でした。しかし、それを忌避し、冒険者になられたのです」


「余計なことは話さなくていい!」


 オフィーがテーブルを叩き、声を荒らげる。


「婚約は親が決めたことだ。あんな愚か者を生涯の伴侶にする気はない!」


 その剣幕に、思わずたじろぐ。

 なんだか、いつものオフィーらしくない。


 まあ、でもよく考えれば、オフィーは公爵家のお姫様だ。

 年齢的にも立場的にも、婚約者の一人や二人いてもおかしくない。


 ——いや、待て! もしかして流行りの婚約破棄か!?


 そう思ってオフィーを見ると、なんとなく悪役令嬢キャラに見えてきた。


 じっと見つめていると、オフィーがジロリと睨み返してくる。


「森川。お前、またくだらん妄想をしてるな。単にカルビアンが最低なクズ野郎だったから逃げただけだ。……おかげで、貴族の身分も何もかも捨てる羽目になったがな」


 ——カルビアン! めちゃくちゃ嫌われてる……。


「奴はな、ガキの頃からクズ野郎で、自分の頭が悪いのも講師のせい、自分に力がないのも教える者たちのせい、何でもかんでも人のせいにして従者たちをいびり倒すような歪んだ性格のクズだ。まぁその度に私が、ボコボコにしてやったがな」


 そう言って、ニソリと怖い笑みを浮かべるオフィー。


 ——あーこれ、歪んだ原因の一つがオフィーだな!


 一方、オフィーの激怒にもダーズさんは一切動じず、ただ静かにカップを持ち上げ、お茶を口に運んでいた。


 

 その時——扉をノックする音が響く。


 ダーズさんは手に持ったカップをそっとテーブルに戻し、「どうぞ」と落ち着いた声で応じた。


 すると——、


 勢いよく扉が開かれ、剣を携えた兵士たちがなだれ込んできた。

 

 咄嗟にオフィーが背中に手を回すが、変装時に大剣を置いてきたことを思い出し、「チッ」と舌打ちする。


 兵士たちは僕とオフィーに剣を向け、じりじりと取り囲んでいく。


「キサマが異世界より来た者であろう? それに、オフィーリア殿。貴女はトーマの街を破壊し、謀反を企てたとして、勅命により拘束されることとなっている。素直に従っていただこう」


 男はそう言うなり、僕の首元を乱暴に掴み、そのまま引き倒した。

 床にぶつかる衝撃とともに、腕をねじ上げられ、素早く縄で縛られる。


「ダーズ殿、通報いただき感謝申し上げる」


「いえいえ。王都の治安を乱す者を放置するわけには参りませんから」


「うむ。カルビアン殿下も、これまでの貴殿の協力に対して深く感謝しておられる。さらに、弟君の件に関しても、十分にご配慮いただけるようだ。」


「ありがたいお言葉、痛み入ります。私はただ、ドングラン殿下のご意向に従ったまでです。どうか今後とも、カルビアン殿下には弟君であるドングラン殿下にも、ご高配賜りますよう、何卒お伝えいただければと存じます」


 ダーズは一切表情を変えず、淡々とそう述べた。


 オフィーが後ろ手に縛られながら、憤りを露わに、ダーズを睨む。

 

「ダーズ、貴様……裏切ったのか!」


 彼女の怒りに、ダーズは微動だにせず、冷静に答える。


「何をおっしゃいますか。私は、もとよりドングラン殿下の忠実なる従者でございます。王都の治安を乱す輩を許すわけには参りません」


 そう言い放ち、冷たい視線を向け、ニッと笑った。


 僕は地面に叩きつけられ、クラクラする頭で思う。


 ——この人が笑うとこんな顔するんだ……と。



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