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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第80話 ご近所迷惑


 王都の街を駆ける。

 暗闇に浮かび上がる王城を目指して。

 当然、一本道では辿り着けない。


「王都は、一直線では王城に行けない構造になっているんだ」

 後ろからオフィーの声が飛ぶ。

「次の角を右だ」


 何度目だろう。迷路のような街を縫うように走る。


 時刻は深夜——いや、朝日まであと数時間か。王都といえど、こんな時間に歩く人影はない。


 とはいえ、爆音を響かせながら疾走する僕らの存在は、静寂を乱すには十分だった。


 そして、いくつかの道を曲がったところで、道の真ん中に両手を広げて立ちふさがる男がいた。


 月明かりに照らされ、紺碧の礼服が浮かび上がる。

 胸元には家紋の刻まれたブローチ。

 流れるような白銀の髪を後ろで束ね、端正な顔には冷静な眼差し。


 敵か?


 そう思った瞬間——


「ダーズだ」


 後ろでオフィーが呟いた。


 僕は即座に急ブレーキをかけ、車体を倒し、後輪を滑らせながら減速。

 男の目前で、ギリギリの位置に停止する。


「よう! ダーズ。久しいな」

 親しげに声をかけるオフィー。


「ご無沙汰しております、オフィーリア様」

 腕を胸に当て、首を垂れる男——いや、ダーズさんか。彼はちらりと俺を見て、


「こちらの御仁が……」


「あー、セーシアんとこの社員、森川だ」


 オフィーが言うと、ダーズさんは「あなたが、トーマの英雄……?」。と不穏なことを呟いた。


——ん? なんて!?


 オフィーの笑い声が夜の街に響く。


「そうそう! トーマの英雄とはこいつのことだよ!」

 そう言うと、バシバシ背中を叩かれた。


「私はドングラン殿下の従者をしております、ダーズ・シルファーと申します。どうぞお見知りおきを」


 僕にまでお辞儀をしてくれたので、僕も「森川裕一と言います。梢ラボラトリーの営業管理をしています」と名刺を差し出そうとしたが——


「いえ、結構です」


 あ、断られた。

 なんだか久しぶりで、ちょっと嬉しい。


「早速ですが、そのバイク? ちょっとここで降りてください。さすがにうるさいです。ご近所迷惑になりますので」


 あ、ハイ。スイマセン。


「先ほど、王都軍に『謀反を企てる賊が王都に侵入したため、直ちに排除せよ』との勅命が下りました」

 物騒なことを言っているのに、彼は顔色一つ変えずに告げた。


「すぐに兵士たちが音を聞きつけてやってくるでしょう」

 淡々とした口調だが、その言葉には揺るぎがない。


「さあ、こちらへ。少々距離がありますので、お急ぎください」

 そう言うなり、彼は迷うことなく踵を返し、足音を立てずに歩き出した。


 僕はバイクを押しながら、オフィーとともにその背中を追う。



 王都の細かい路地を抜け、家々が密集するエリアの奥へ。

 たどり着いたのは、観音扉のついた平屋建ての倉庫だった。


 粗雑なつくりに、くすんだ壁。ある意味、ダーズさんには最も似つかわしくない場所と言っていい。


 彼は扉にはめられた木製のかんぬきを引き抜き、扉を開けた。


「さ、ここにバイクを入れてください」


 中には乱雑に積まれた木箱と、工具類が並んでいた。

 ちょうどバイクが収まるだけのスペースが空いている。


「ここは?」


「ご安心ください。王家とはまったく関係のない建物です」


 ——でしょーねー。


「それに、カラスの目も届いていません」


「隠蔽魔法か?」


 オフィーが尋ねると、ダーズさんはゆっくりと首を振った。


「いえ。さっき、と言ってももう昨晩ですが、ご連絡をいただいてから、隣に住む老夫婦から即金で買い上げました」


「それって‥‥‥大丈夫なのか?」


「馬鹿みたいに音を立て、正門をぶち壊して突入してきたお二人が、何の策もなくこんなところに潜んでいるなど、誰も思いませんよ」


 ——いやー、思いっきりディスられてますね。


「さあ、こちらにお着替えください」


「これは……王都軍警備隊の制服?」


「はい。ツバサさんはおそらく王城東の月栄宮の地下に隔離されているとの情報が入っています。そこに潜入するため、念のために着替えていただきます」


「殴り込みじゃダメなのか?」


「オフィーリア様なら可能でしょうが、殿下からは『なるべく穏便に』と承っておりますので」


「穏便ねぇ……それで通じる相手じゃないだろうに」


「できるだけ……です」


「分かったよ。できるだけ、な」

 オフィーが悪い顔で微笑む。


「で、穏便に行くとして、どうやって王城に入る?」


「逆にお伺いしたいのですが……お二方はどのように王城へ入るおつもりだったのですか?」

 ダーズさんが、オフィーと僕を交互に見やる。


 オフィーが渋々口を開く。

「そりゃまあ、あれだ。なあ森川?」


 唐突に振られ、動揺する。が、まあ一応答える。

「正面からバイクで突っ込む気でいましたが? なにか?」


 ダーズさんが、とんでもなく深い溜息をついた。


「森川、それは駄目だぞ! 穏便にバイクで突っ込むだ!」

 オフィーが付け足す。


 ダーズさんが、まるで憐れな虫けらを見るような目で僕らを見つめる。


「……何かほかに計画がありますか?」

 僕が聞き返すと、彼は目頭を押さえるように手を当て、しばし沈黙した。


「正直、準備もない今は、完璧な策はございません。ですが、お二方の『計画』とは呼べない代物よりは、多少マシな案はございます」


 ——いやー、ダーズさん、慇懃無礼極まるお人だ!

 とはいえ、彼にそう言わせてるのは僕らだけど。


「取り敢えず、私の護衛として入っていただきます。森川様は顔が割れてないので良いのですが、オフィーリア様はコチラをお使いください」と、ペンダントを差し出してきた。


「幻影変化の魔方式か?」


「はい。短時間でしたら変転の状態を保つことができます」


 では、ご準備の方をお願いいたします。と、ダーズさんは倉庫を出て行った。


 その後、変装を終えた僕らは、ダーズさんい付き従い王城へと向かった。



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