第74話 のじゃロリ
皆でタブレットのモニターに映る、ドローンからの映像を見つめている。
日は沈み、辺りは既に暗闇に包まれている。
その闇の中、蠢く魔獣たち。
地面を覆い尽くすほどの数だ。
「正直、この中を突っ切るのは無理だろうな」
ルオが呟く。
「まあ、避けられるなら避けたいよね」
ドン殿下がモニターを見つめながら応じる。
ドローンは魔獣たちの頭上を飛び越え、オフィーが見た奥の渦へと進む。
「一応、カメラの感度を最大まで上げてるけど、実際は真っ暗だと思うぞ」
サブリナが補足する。
「見えた! これだ! ここから奴らが溢れてきたんだ」
オフィーがモニターに映る黒い靄を指さす。
それは直径3メートルほどの渦で、そこから魔獣が這い出してくるのが確認できた。
「これがダンジョンコア……か」
誰にともなく呟くと、ドン殿下が答える。
「正確には、この渦の奥にコアがあるんだろうね」
「中まで行ってみるか」
サブリナがドローンを進めた途端、画面にノイズが走り、映像が乱れる。
「ダメだな。何かの干渉で映像が見えなくなる。まるで妨害電波が出てるみたいだ」
ため息を漏らすサブリナに、殿下が答える。
「おそらく魔素の濃度が高すぎるんでしょう」
殿下が考え込み、再び口を開く。
「この状態だと、中に入ってコアを直接壊すのは無理そうですね。入った途端、魔素にやられて動けなくなるかもしれません」
「だとしたら、外から攻撃するしかないな」
オフィーがモニターを見つめる。
「そうなると、私の攻撃魔法だと『トルネードスピア』を撃ち込むしかないな」
「何回撃てる?」
殿下が尋ねるとオフィーは拳をギュッと握りしめ答える。
「何回でも撃つ。コアを潰すまで、魔力が尽きようが撃ち続ける」
「ドンなら、『ファイアーアロー』か『エアカッター』だな」
オフィーが言うと、殿下は「ちょっと心もとないけどね」と苦笑する。
その時——
ブイーン! ブイーン!
聞き慣れない電子音が響く。
「あれ?」と、サブリナが周りを見渡す。
音の出所はサブリナのノートPCとタブレットだった。
サブリナがPCを操作すると、モニターいっぱいに梢社長が映し出される。
「サブちゃん! 無事なの!?」
開口一番、ものすごい声でがなり立ててくる。
「なんでさっき勝手に切ったの! 人が話してる最中だったのに! それに全然連絡してこないし!」
——ていうか、今これが繋がってることに違和感あるわ!
「あー、ごめんごめん。今ちょっと取り込んでてさ。さっきはモリッチが死にそうになったし」
——余計なこと言わないで!!
「死にそう……? ちょっと待って、死にそうって何よ! ギャー! もしかして森川くん死んだの!?」
——死んでません。
「社長、すみません。ご心配をおかけしました」
「ギャー! 森川くん生きてたー!」
「セーシア、心配かけたな」
オフィーがモニターに顔を出す。
「ギャー! オフィー! オフィーが生きてる!」
「いい加減にしなさい」
突然、梢社長がはたかれ、画面に新たな人物が映る。
「ルリアーナさん?」
「みんな無事? ウメさんとは会えましたか?」
社長を押しのけ現れたのは、梢社長のお姉さんで大樹管理連盟・僻遠統制局の局長のルリアーナさん。
「ルリアーナ、あたしはここだよ」
ウメばあさんがモニターの前に顔を出す。
「よかった、会えたんですね」
ルリアーナの顔がほころぶ。
「ルリアーナ、悪いけど状況は最悪だよ」
ウメさんの言葉に、ルリアーナの表情が険しくなる。
「どういうこと?」
「スタンピードだ」
「……なんですって?」
▽▽▽
ウメさんが、今の状況をかいつまんで説明する。
モニター越しでも、ルリアーナさんの顔が、徐々に、こわばっていくのがわかる。
そして、その最中も、誰かに抑え込まれているのか、ギャーギャー騒ぐ梢社長の声が漏れ聞こえてくる……のは、幻聴ではないだろう。
「そんなことに……」
ルリアーナさんが口に手を当て、目を見開く。
動揺する彼女にドン殿下が声を掛ける
「ルリアーナさん、どうしてそちらに?」
「殿下! ご無事でしたか?」
「大丈夫です。それより、そちらにいる理由は?」
「大樹卿をお連れしたのです。こちらの世界の大樹の状況を知っていただきたくて」
「大樹卿を……?」
そのとき、モニターに幼女が映し出された。
「よう、ドングランの坊主! 久しぶりじゃのう」
ふわふわの長い髪、ぱっちりと大きな瞳の美少女。
可愛らしい笑みを浮かべながら、殿下に向かって手を振っている。
ツンと尖がった耳が髪からのぞいているから、エルフなのかな?
「話は聞いたぞ。ずいぶん厄介なことになっとるようじゃな」
「なあ、ドンチー。この子、誰?」
「この方は……」
殿下が説明しようとするが、それを遮るように幼女が口を開いた。
「おぬしがサブリナじゃな? ほう、なかなか愉快な娘らしいのう。それと、そっちの小僧が森川とかいうやつじゃな?」
——幼女に小僧呼ばわりされた……!?
『おい、あの少女からビンビン感じるが……あいつは……』
「……あいつは?」
『のじゃロリ属性だぞ。きっとババアに違いない』
——それグリー、単なる感想! いま要らない情報!
「ほう、守護精霊まで引き連れておるのか。感心じゃのう」
幼女は感心したように何度も頷く。
「サブリナよ、コアの映像をもう一度見せてくれんか?」
「今送ったよー!」
モニターを見つめる幼女。しばらくして、フムフムと頷く声が聞こえた。
そして、大きな溜息。
「これはちと厄介じゃのう」
「何かわかりましたか?」
「フム……」 一つ頷き、説明を始める。
「こやつはな、コアの外郭じゃ。つまりは、殻みたいなものじゃの」
「ということは……?」
「中のコアを潰さん限り、暴走は止まらん」
「そんなことだろうと思ってましたよ。とりあえず、攻撃魔法で内部を狙おうかと……」
「フム。しかし、それではコアは潰れんと思うぞ」
「どうしてですか?」
「おぬしらの魔術は、魔素を術に取り込んだものじゃ。つまり、厚い外殻の組成と同質のものでもある。じゃからの、攻撃魔法を撃ってもコアまで届かん可能性があるのー」
「……じゃあ、攻撃手段がない?」
「方法は二つじゃ。一つは、コアを剣や拳で直接叩き壊す」
「それは厳しいですね。高密度の魔素の中、生身では入れません」
「じゃろうな。そんな環境に無事でいられる者などおらんじゃろう」
「それで、もう一つの方法は?」
焦れたように、オフィーが殿下と幼女の話に口を挟む。
「ふむ……魔素を使わず、外から核を破壊する方法じゃ」
『しくったなー。あのとき、ヘルハウンドからロケットランチャー奪っときゃよかったな!』
「いやそれ、僕らで壊しちゃったから」
『おしいことしたよなー』
未練がましく呟くグリー
「どのみち、こちらの武器をそこに持ち込むことはできまい。しかも、このままでは数刻もたたぬうちに街も潰れるじゃろうて。今一番近くにいるのはおぬしたちじゃ。辛かろうが、おぬしらに頼らざるを得ぬ状況じゃ」
「とはいえ、攻撃手段が無けりゃ、犬死だ」
ウメさんが吐き捨てるように零す。
「剣を投げ入れるのはどうだろうか?」
オフィーが思いついたように言う。
「それも一つの手じゃの。ただ、見えん的にうまく当たればの話じゃがな」
『お前の、なんだっけ? グリーンフラッシュ(笑)をぶつけりゃ良いんじゃねーの?』
——おい!(笑)って!
「なんじゃ、そのへんちくりんな名前は? 魔法の類か?」
『ちげーよ、こいつの体に宿る大樹の力だよ』
「大樹って、こっちにある大樹の事か?」
『こっちか、どっちか分かんねーけど、僕らの大樹のことだよ』
グリーの言葉に、「フム」と考え込むのじゃロリ幼女。
「それは、試してみる価値がありそうじゃの」
——マジか!? 僕がやるの?
お読み頂きありがとうございます!
ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!
何卒よろしくお願いいたします。




