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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第73話 ツバサの行方


「それで、ここにドンと森川とサブリナが勢ぞろいしてるわけか」

 オフィーは頷き、大きく息を吐いた。


 彼女が目覚めてから、ドン殿下がこれまでの経緯を丁寧に説明した。

 そして、影流の森に来てからのことは、僕とサブリナが話を引き継いだ。


 その間、オフィーはドン殿下からもう一本ハイポーションを受け取り、ちびちびと飲みながら、時折考え込むような表情を見せつつも、最後まで黙って話を聞いていた。


 ポーションは傷や疲労は癒せても、精神的な疲れまでは回復できるわけではない。

 体力的には問題なさそうに見えるが、彼女の瞳はどこかぼんやりとしていた。


 それでも、確かめなければいけないことがある。


 大切なことだ。

 もちろん、オフィーにとっても。


 僕はオフィーの目を真っ直ぐに見据え、訊ねる。


「オフィー、疲れてるかもしれないけど、確認させてくれ。ツバサさんは? 一緒にいたんじゃないのか? 彼女は今どこにいる?」


 オフィーはハッとしたように顔を上げた。

 しかしすぐに顔を歪め、額に拳を押し当てる。


 まるで記憶を手繰り寄せるように、拳で何度か軽く額を叩いた。

 やがて、ゆっくりと口を開く。


「……そうだ。あの時、私とツバサはダンジョンで魔法の練習をしていた。すると突然、ダンジョン内の魔素の密度が急激に高まり、どこからか誰かの詠唱する声が聞こえてきた。そして気がつくと、私たちの足元に赤い魔法陣が浮かんでいた」


 オフィーは視線を宙に泳がせ、当時の情景を思い出しながら続けた。


「次に気がついたときには、私とツバサは木々に囲まれた広い空き地に倒れていた」


 ——オフィーが話しているのは、転送されたときのことだな……。


「周りには私たちのほかに魔獣も倒れていて、足元には広場いっぱいに魔法陣が描かれていた。それを見て、すぐにツバサを起こし、近くに見えた塔のような建物……そう、あそこにある建物だ。そこへ走ったんだ」


 オフィーは息を吐き、残りのハイポーションを一気に飲み干す。


「すると、建物から魔法局の服を着た連中が出てきて……そうだ! あいつがいた! カルビアンだ!」


 オフィーはドン殿下に詰め寄るように訴えた。


「奴らは『なぜお前らがここにいる』って問い詰めてきた。でも、それを言うならこっちのセリフだ! 私も奴らに何をしたのか詰め寄ったんだ。すると、ツバサが抵抗したせいで縄で縛られ、私にも縄を掛けようとしてきた。そのとき——」


 オフィーは髪をかきむしりながら、必死に記憶を掘り起こす。


「突然、奥の方から轟音が響いて……光が走った。振り返ると、そこに黒い渦のような穴が浮かんでいたんだ。そこから魔獣が溢れるように現れて……! 考える暇もなく剣を抜いて戦った。でも、斬っても斬っても次から次へと湧いてきて……!」


「それで!? ツバサさんは!? ツバサさんはどうなった!」


「ツバサは……! 逃げていくカルビアンたちに引っ張られて、連れて行かれた……! 私は、魔獣を押さえるので精一杯で……ッ、クソッ!!」


 オフィーは両手を地面に何度も叩きつけ、荒々しく息を吐く。


「クソッ! クソッ!!」


 叫びながら暴れ出した彼女の腕を、ドン殿下がしっかりと掴み、落ち着かせようとする。


 一方、僕はオフィーの話を聞き呆然とした。


 ——連れて行かれた? どこへ? いったいどこに!?


「まさか、森の中に行ったのか?」


 思わず漏れた言葉に、横で話を聞いていたルオさんが僕の肩に手を置き、「それなら大丈夫だ」と答えた。


「そのツバサって子なら、きっと無事だ。俺たちが森を出る時、魔術師たちが大勢で逃げていくのを見た。奴らと一緒なら安全なはずだ」


 ルオさんの言葉に、ソラさんも頷く。

「ええ、私も見ましたよ。黒いローブを着た小柄な子もいました。一瞬、子供かと思ったので印象に残っています」


 それを聞き、今度はドン殿下がじっと僕を見つめた。


「兄と一緒ならツバサさんも無事でしょう。決していい人とは言えませんが、臆病な人ですからね。彼女の素性が分かるまでは手を出さないはずです」


「森川、サブリナ。ツバサは——必ず、私が命を懸けてでも取り戻す。絶対にだ」


 オフィーは僕とサブリナを真っ直ぐに見据え、断言する。

 その言葉に、僕たちは頷いた。


「さて、ツバサさんの行方を追うにしても、まずはここを何とかしないとね」


 ドン殿下があえて明るい声で言う。


「何とかするって言っても、周りは魔獣だらけで動きが取れないぞ」

 ルオさんが難色を示す。


「そうですね」

 ドン殿下が膝についた土を払いながら立ち上がる。


「これはあくまで推測ですが——極大転移魔法でここに魔素を集めた時、ちょうど近くにこの森のダンジョンコアがあった」


「彷徨えるダンジョンコア……ですか?」

 僕が訊ねると、ドン殿下が頷く。


「そして、魔素が飽和状態になったことで、ダンジョンコアが共鳴して暴走が発生した。そんなところでしょう」


 

殿下はさらりと言うが、事態の深刻さは変わらない。


「ってことは、結局、ダンジョンコアを潰さなきゃ暴走は止まらねぇのか……」

 ウメさんがぼそりと呟く。


「そう! そして、そのダンジョンコアは意外にも近くにある」

 殿下はぐるりと皆を見回した。


「さっきオフィーは言ったね。『振り返ると黒い渦があった』と」


 ——それが、ダンジョンコア?


「あれなら、広場の奥にあったぞ!」

 オフィーが前のめりになる。


 そんな彼女の肩を支えながら殿下は言った。

「そう、広場の奥。そこにダンジョンコアがあるはずです」


「とはいえ、広場は魔獣だらけだ。それこそ通る隙間もないくらいに」

 ルオさんが言う。


「だから、そこを突っ切ってコアまで行くしかない。他に方法はありますか?」


 殿下は皆を見回し、再び笑った。



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