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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第71話 救え!


「頼んだぞ」

 そう言い残して、ウメさんは木々の奥へと消えていった。


 僕とソラさんは、実験棟のぎりぎりまで進み木の隙間から前を窺う。


 前方にはオフィーが仁王立ちに剣を振るい、それを囲むように魔獣が群がってるのが小さく見えた。


 此処から見ても、オフィーの体がぐらぐらと揺れているのが見て取れる。


 もう待っていられない状態だ。


 横ではソラさんが小さく詠唱を始めた。


 僕は、腰に差した鋼の剣を抜く。


 ダンジョンでゴブリン相手のトレーニングをしていたとはいえ、この大群では足もすくんでしまう。


 それでも、今行かなければ、オフィーは助からないだろう。そのことだけは事実だ。


 僕は確かめるように、もう一度、剣の柄をギュッと握りしめた


 瞬間、右手の方からウメさんの雄叫びが聞こえる。


「グリー!」

 声を掛けると『ほいよ!』とグリーが手を振る。


 いきなり、前方を塞いでいた木々が、一世に横にどき、オフィーの背中が見えた。


「フレアボム!」


 ソラさんが叫ぶと、前方の奥で赤い閃光が膨れ上がる。


 グオーン。

 地響きととも炎が舞い上がり、同時に僕はオフィーめがけて走り出す。


 何度も躓きそうになる足に力を入れ、地面を蹴る。


 眼前に見えたオフィーの背中に手を伸ばし、掴むと同時に引き寄せる。


 ——重い!


 掴んだ手を思いっきり引き寄せオフィーの体ごと後ろに放り投げる。


 と、その反動で、体が前に出てしまい、魔獣の目の前に飛び出る格好となってしまう。


 すかさず剣を横に振り魔獣たちをけん制。


「後ろだ!」


 声に振り返ると、今まさに棍棒を振り下ろそうとするゴブリンの姿が見えた。


 間に合わない。


 その瞬間、ゴブリンの胸から剣が生え前に倒れる。

 そこにはウメさんが立っていた。


 彼女の手を借り、立ち上がり周りを見渡す。

 周りにはゴブリンや牙を剥く狼が新しく現れた獲物を警戒しながら遠巻きに囲んでいる。


「チ、囲まれたか」

 ウメさんが呟く。


 周囲に目を遣るが、方向感覚がなくなり、どっちが元来た方向か分からなくなっている。


 ウメさんと背中合わせにになり、じりじり近づいてくる魔獣に剣を振り牽制する。


 ヤバイヤバイヤバイ


 頭の中が真っ白になる。


 目の前がチカチカと明滅する……。


 チカチカ?


 その光源をたどると——魔獣たちの上で、ドローンが揺れていた!

 ドローンは姿勢を揺らしながら、先を示すように浮かんでいる。


 ——誘導してる!?


「ウメさん! 見えますか?」


 声を掛け、ドローンの方向を指すと、ウメさんが頷くのが見えた。


「あたしが突っ込んで道を開く!その隙に、お前は全力で駆け抜けろ!」


 ウメさんは言い終わらぬうちに、ドローンの示す方向へ突っ込んでいった。


「ツッ!」


 一歩遅れて、その背中を追う。


 ウメさんは大声で威嚇しながら、剣を振り下ろす。


 その背後、狼モドキが跳びかかろうと身を躍らせる。

 僕は、咄嗟に剣を合わせ、狼モドキを叩き落とした。


 そのまま勢いで体を捻り、できた隙間に飛び込むが——すぐにゴブリンたちに行く手を塞がれる。


 ——グリーンフラッシュを!


 左手に意識を集中しようと力を込めた矢先に、横腹に鈍痛が走り、地面に叩きつけられた。


「ギャギャギャ!」


 棍棒を振り抜いたゴブリンが、醜悪な声で笑ってやがる。


 周囲を見回せば、棍棒を振り上げるゴブリンたち、牙を剥き威嚇する狼モドキたちが、じりじりと包囲を狭めていた。


 ウメさんの姿を探すが、魔獣の壁に阻まれ、もう見えない。


 視線を巡らせると、心配そうに、頭上を旋回するドローンの姿が映る。


 早く!立って! と言ってるようにクルクルと頭上を旋回している。


 わかってる、見えてる。

 けれど——動けない。


 腹の奥で鈍い痛みが波のように押し寄せ、腕も脚もまるで鉛のように重い。

 息をするだけで肺が軋むような気がする。

 立ち上がるどころか、手を伸ばすことさえできない。


「……ここまでか」


 全身の力が抜け、肩が地面に落ちる。

 目の前には、棍棒を構えたゴブリン。

 ゆっくりと口元を吊り上げ、醜悪な笑みを浮かべている。


 ゴブリンの背後、じりじりと包囲を狭める魔獣たち。

 

 牙が光る。

 鋭い爪が鈍く反射する。


 喉の奥からこみ上げる恐怖を押し殺そうとするが、指先が小刻みに震えた。


 もう、だめだ。


 終わった……ここで、俺は——


 そう思った瞬間——

 視界の端を、白い影が走り抜けた。


「アクセラレーション」


 白い影が呟くと、白い閃光が周囲の魔獣たちをなぞるように駆け巡る。


 そして、目の前で背中を見せ、ぴたりと止まった、その姿——


「ドン殿下!」


 白い影は首だけ振り返り、にっこりと微笑む。


「間に合ってよかった」


 そこへ、緑や赤の液体で全身を濡らしたウメさんが駆け寄ってきた。


「大丈夫か!」

 ウメさんは僕の肩を掴み、無理やり立たせる。


 既に周囲には、新たな魔獣の壁が出来上がっていた。


「いくら倒しても、こうも数がいるんじゃ埒が明かんぞ」

 ウメさんが吐き捨てる。


 ドン殿下が頷いた。


「いったん戻って、態勢を立て直した方がよさそうですね」


 僕とウメさんは頷き、ドローンが浮かぶ方向へ目を向ける。


 左手に意識を集め、グリーンフラッシュを放とうとした——そのとき。


「これくらいなら、いけそうですね」

 ドン殿下がそう呟くと、軽く剣を構え——


「エアカッター」

 同時に、剣を横に薙いだ。


 斬撃が弧を描きながら前方へと飛ぶ。


 そのまま魔獣の壁を薙ぎ払い、魔獣たちの体が真っ二つに切り裂かれ吹き飛んでいく。


「意外としぶといですね。でも——」

 そう呟き、ドン殿下がもう一度エアカッターを放つ。


 その斬撃に、残っていた魔獣が切り裂かれ、目の前に隙間が生まれた。


 その向こう——木々の間に、ぽっかりと口を開けた木の洞窟が見える。


 入り口の脇で、剣を構えたルオさんが「早く!こっちだ!」と手を振っていた。


 僕は、ウメさんの肩を借りながら、無理やり足を動かす。

 その後ろでは、ドン殿下が剣を振るい、魔獣を牽制している。


 横腹の痛みで体を動かすたびに呻き声が漏れてしまう。

 それでも、無理やり体を前に進める。


 駆け寄ってきたルオさんに担がれ、穴の中へと滑り込んだ。


 最後に、ドン殿下が振り返り、もう一度エアカッターを振りだす。

 駆け寄る魔獣たちが、斬撃に吹き飛ばされた。


『塞ぐぞ!』


 グリーの声が響き、木々が揺れ、大きな幹が壁を作るように倒れ込む。


『ホント、お前はドジで間抜けで大馬鹿だ!』


 なじるグリーの声が、頭の中でガンガンと響いた。



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