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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第70話 ‥‥‥追い詰められて


 間違いない。


 上からだと顔まで確認できないが、あの大剣、剣の構え方、その背格好は間違いなくオフィーだった。


 しかし、彼女の周りには魔獣ばかりで、人の姿は見当たらない。


 ‥‥‥追い詰められてる。


 そう思った瞬間、僕は駆けだしていた。が、足を掛けられ、盛大に転ぶ。

 振り向くと、そこには僕を見下ろすウメさんが立っていた。


「バカたれ!下手に突っ込んでも犬死するだけだぞ」


 彼女は僕の頭を乱暴にかき回しながら、森の方に目を遣る。

「落ち着け、お前が行って何ができる? あいつはあんな状況でも戦えてる。とはいえ、限界も近そうだがな……」


 ウメさんはサブリナに目を向ける。

「魔獣たちはどっから湧いてんのか分からんか?」


「湧いてるってどういうことよ?」


「あれだけの数だ、どこからか湧いて出てる場所があるはずだ。それをなんとかできなきゃ、一時的にあいつを助けても意味がない。魔獣の群れが街に来るだけだ。おめえはそれを捜せ!」


「わかった!」サブリナがゴーグルをはめ直し、リモコンを操作する。


「あと、ギーブ。お前はすぐ街に戻って、このことを知らせるんだ。あのドラゴンスレイヤーが倒れたら、いずれ魔獣たちは街を襲うぞ! 戦える奴らを集めといてくれ」


「了解だ」

ギーブが直ぐに街に向け走っていく。


「さてさて、このまま突っ込んでも、あの女……オフィーリアだっけ? あいつのところまでたどり着くのは難しそうだな」


 と、その時、聞き覚えのある声が頭に響いた。


『お! あの女剣士ピンチじゃん!』


 ——!‥‥‥この声!


『なんだよ、久々に出てきたら、いきなり全滅寸前じゃん?』


 慌てて周囲を見回す。

 サブリナも同じく、ゴーグルを上げて声の主を探している。


 ふと視線を落とすと――


 そいつはウメさんのタブレットの上に座り込み、画面をペタペタ触っていた。


 腹グロ精霊!!改め‥‥‥。


「 「グリー!」 」


 サブリナと一緒に叫んでしまう。

 すると当の本人はうるさそうに耳をほじる


『大声あげんなって、暑苦しーなー』


 見た目は可憐な少女の妖精だが、仕草は中年のおっさんだ。


 ——コイツ、こんな時でも口悪いな。


 当のグリーは、サブリナに『元気してたかー、サブリナ』とのんきに声をかけ、手を振っている。


 突然現れたグリーを見て、さすがのウメさんも動揺したのか、目を見開いて僕の方をじろりと見る。

「おい、こいつはいったいなんだ?」


「あー、こいつはグリー。一応、僕の守護精霊です……」


 なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら紹介する。



『よう! みなのもの。僕はこの腑抜け野郎の守護精霊やってる魅惑の美女グリーだ!よ、ろ、し、く!』


 ウメさんはあっけに取られ、ルオさんも目を見開いたまま固まっている。

 美人魔法使いのソラさんに至っては、震える指でグリーを指しながら、「ホントに……精霊?」とかすれた声を漏らしていた。


 だが、そんな周囲の反応など気にも留めず、グリーはタブレットを覗き込む。


『ふーん。あの女剣士、強いけどさすがにあの数はきついかもなー。このままじゃ、遅かれ早かれ食われちまうな』


 大きなあくびをしながら言う。


「おい、グリー! 何かできるだろ、仲間なんだから!」


 焦る僕がグリーを掴もうとすると、それをひょいっとかわし、今度は僕の左肩にどすんと腰を下ろした。

これがまた、意外に重い。


『あー、休み明けで体だっるー』


 グリーは首をぽきぽき鳴らしながら、面倒くさそうに言う。


『しゃーねぇな。ま、お前みたいに無能呼ばわりされるのも気に食わねーし、特別に手ぇ貸してやるよ』


 そう言うと、グリーが片手を軽く振った。


ゴゴゴゴッ!


 突如として地面が揺れ、森の木々がざわめく。

 根が持ち上がり、枝が不自然にうねるように動き始めた。


 まるで意思を持っているかのように、目の前にぽっかりと開いた空間が奥へ奥へと広がっていく。


そして――


 目の前には、まるでオフィーの元へ導くかのように一本の道ができていた。


『おーおー、いい感じじゃねーの? ほら、行けよ』


 グリーが肩の上で胡座をかき、ひらひらと手を振る。


「行こう!」


 僕は迷わず、その道を駆け出した。


 ウメさんは、ルオとソラに向かって「二人はドローン娘の援護を頼む」と声を掛ける。


 目の前に開けた道は、人が一人通り抜けるのには十分な幅だ。

 さすがに足元の根はところどころ隆起していて、転ばないよう注意しながら先を急ぐ。


『サブリナ! このまま真っすぐでいいんか?』


 グリーが後ろのサブリナに声を掛ける。


「あーと、もうちょっと右寄りー!」


 どうやらドローンでこちらの動きを確認しているようだ。


 サブリナのナビに従い、グリーがひょいと手を振ると――

 目の前の木々がざわざわと動き、道が緩やかに右へと変わっていった。


「もうすぐだぞー」


 サブリナの声と同時に、目の前にベージュの建物が見えてきた。


 辺りは薄暗く、木々の隙間から見える空は燃えるような赤色に染まっている。

 それは、もうすぐ夜の闇が訪れることを告げていた。


 建物の方からは、ひっきりなしに魔獣たちの唸り声が響いている。


「止まれ」

 ウメさんが小さく呟く。


 僕らは足を止め、身を低くして集まった。


「とりあえずドローン娘はここで待機。ルオ、頼んだよ」


ルオさんは無言で頷く。


「精霊の嬢ちゃん、あんたの魔法で何とかできないのか?」


『できるっちゃできる? でも、その時に女騎士も死んじゃうかもな』


 ——何ちゅーこと言うんだ!


『この先の広場を周りの木で埋め尽くしたり? そんぐらいかなー? でも、その時に女騎士も巻き込まれるかもなー』


「そりゃマズいな」

 ウメさんが顎に指を当てて考え込む。


「グリーさ、ここはお前の世界だろ? もっとすごいことできないワケ?」


『あーん? お前なに言ってんの? 僕は生まれも育ちも日本だっつーの』


 ——え! そうなの?


『僕はお前んとこの大樹から生まれたんだぜ? こんな世界は知らねーっつうの』


 えーーーー!?

 まさかの同郷発言にびっくりだ。……だから品がないのか?


 次の瞬間、グリーに後頭部を蹴られる。地味に痛い。


『とにかく、ここまで引っ張って来れりゃー、周りの木でガードはできるけど、やってそれぐれーだな』


ウメさんが考え込む。


「ソラ! フレアとか撃てるか?」


「まあ、一回ならできますけど」


「じゃあ、奥の方に頼む。あたしは横から出て奴らの気を引く。その隙に、お前がオフィーリアをここまで引っ張って来い」


 ウメさんが僕をじっと見つめる。


「できるよな?」


 僕は黙って頷いた。



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