表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/199

第68話 大樹ネット


「そんなに痛くなかったろ? 大袈裟な奴らだな」

 ウメさんはそう言いながら、濡れた布を放ってよこした。


 ここは、ルリアーナさんが言っていた宿屋『ウメ』の一階だ。

 広々とした空間に、丸テーブルが六卓、椅子がいくつか並んでいる。


 日中は食堂、夕方からは飲み屋として営業しているらしく、今はちょうど、その間の休憩時間のようだった。


 ウメさんはバイクを宿の裏手の小さなスペースへ運ぶと、表の看板を「閉店中」に裏返し、僕らをカウンターの椅子に座らせた。


 そして今、カウンター越しに僕らを見下ろしながら、キセルの煙をくゆらせている。


 ——兵頭梅子さん、通称ウメさん。


 以前、梢ラボの社員の中に異世界へ移住した者がいると、岩田さんや詩織さんが言っていた。

 たしか、その時は「ウメばあさん」と呼ばれていたはずだ。


 目つきこそ猛禽類を彷彿とさせる鋭さがあるものの、スタイルも整っており、顔立ちも妖艶な美女と言って差し支えない。


 見た感じ20代後半、いや30代くらいか? もしくは若作りの40代かもしれない。

 どちらにせよ、「ばあさん」と呼ばれるような年齢には到底見えなかった。


「あのー、ウメさんって、おいく……」

 何気なく聞きかけた瞬間、「あぁ?」と鋭い眼光が飛んできた。


「なんか文句あんのか!」


 ——もう二度とこの話題には触れないと心に誓った。


「ウメさんは、僕らのことをご存じだったんですか?」


 彼女は勢いよく煙を天井へと吹き上げ、ちらりと僕を見る。

「『ボッチで頼りなさそうな男が入社した』ってのは聞いてたな。でもそっちの嬢ちゃんのことは知らん。……バイトか?」


「私は天才ハッカーのサブリナだい!」

 さっき頭をはたかれたのがよほど癪に障ったのか、サブリナは食ってかかるように言い放つ。


「彼女は外部委託でPC関連のサポートをしてもらってます。僕は森川裕一。先月、梢ラボラトリーに入りました」


 一応、軽く頭を下げて挨拶する。


「それで、さっきはどうして僕らが梢ラボの人間だとわかったんですか?」

 彼女は頬杖をつきながら、半眼でこちらを見据え、吸った煙を思いっきり僕の顔に吹きかけてくる。


「今日は朝からいろいろあってね。あちこち散歩がてら見て回ってたら、門のところで聞きなれた音がしたんだよ。それで見に行ってみりゃ、黒髪の腑抜けた男とジャージ姿の小娘が、あたしの懐かしい愛車を引っ張ってたってわけさ。そりゃ、一目でわかるさ」


「朝からいろいろって……もしかして、転移魔法のことですか?」


「なんだい、そいつが気になってこんなとこまでやって来たのかい?」


「それだけじゃありません。その転移魔法に仲間の二人が巻き込まれた可能性があるんです。それで、ここまで来ました」


「巻き込まれただぁ!? どういうことか説明しな!」


 ウメさんはカウンターから身を乗り出し、ぐいっと僕の服を掴んだ。

 僕はその手を振りほどき、今回の件について順を追って話す。


 説明の間もウメさんは時々眉をひそめ、「オフィーってのはドラゴンスレイヤーのオフィーリアか? それに、なんで岩田んちの末っ子が魔法を使えるんだ?」と矢継ぎ早に問いかけてくる。

 そのたびに僕らは丁寧に事情を説明した。


 一通り話し終わると、ウメさんは遠くを見るように視線を宙に彷徨わせ、キセルをふかしながら、何か考えを整理しているようだった。


 その間、サブリナは背負っていたバックパックからノートPCを取り出し、カチャカチャといじり始める。


 僕は特にやることもなく、サブリナが一緒に出してくれた水筒の残りのお茶をすすっていた。


「で、一緒に来たドングラン殿下は今どこにいるんだ?」


「ここに来る前に別れました。一応、ここで落ち合う約束をしてます」


「ふーん」

 ウメさんは鼻で返事をする。


「ちなみに、その王子様は信用できるのか?」


「今日初めて会ったばかりで正直なんとも言えませんけど……多分、大丈夫だと思います」


「根拠は?」


「社長……今の梢社長の幼馴染ですから」


「あたしゃ、今の社長……ルリアーナの妹のことは知らないんだよね」


「ヒトミッチはいい奴だよ! 天然入ってるけどさー」

 キーボードを叩きながらサブリナが口を挟む。


 ウメさんは「そーかい」と軽く流した。


「ちなみに教えといてやるが、実験の首謀者であるカルビアン第二皇太子ってのは、他人のことなんざこれっぽっちも気にしない、筋金入りの下種野郎だ。まあ、お貴族様ってのは大なり小なり似たようなもんだが、その頂点に立つ王族連中は言わずもがな、ってわけさ」


 そう言いながら、ウメさんはまたゆっくりとキセルの煙を吐き出す。


 と、そこで突然——


「うひゃ!」

 サブリナが奇声を上げた。


 声につられ視線を向けると、彼女はキーボードを叩きながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「なにかあったの?」

 僕が訊ねると、サブリナは興奮したようにキラキラした目でこちらを見てきた。


「この世界じゃネットは繋がらないと思ってたから、オフライン用に持ってきただけなんだけど……」


 そう言いながら、彼女はPCの画面をこちらに向ける。


「繋がっちゃった」


 ——え!?


「ネットに繋がっちゃった」

 サブリナはもう一度、ゆっくりと同じ言葉を繰り返す。


「ネットって……まさか、あっちの世界の?」


「そう。インターネット」

 彼女はモニターの隅にある小さな樹のアイコンを指さした。



「こんなアイコン、見たことないんだけどさ。最初から入ってた覚えもないし、不思議に思って起動してみたら……インターネットに繋がっちゃった!」

 嬉しそうにキーボードを叩きながら操作を続けるサブリナ。


 すると、突然——


 PCから聞き慣れた電話の呼び出し音が鳴り響いた。


「え?」


 驚く間もなく、モニターに一瞬だけ梢社長の顔が映る。


「——社長!?」


 だが、それも束の間、画面は暗転し、代わりに『ナニコレ?なに?』と騒ぐ声がスピーカーから流れてきた。


「ヒトミッチー!ハロー! 聞こえてる?」


 即座にサブリナがPCに向かって声をかける。


「携帯をスピーカーにして、顔が映るように前に構えて!」


 すると、しばらくのノイズの後、再びモニターに梢社長の顔が映し出された。


「ヤッホー!ヒトミッチ、見えてるー?」


 モニターに向かって手を振るサブリナ。


『え? え? なにこれ? サブちゃんなの? そこどこ?』

 梢社長の動揺が声にも表れている。


「今ねー、こっち異世界だよー!ピース!!」

 サブリナは満面の笑みでダブルピースを決める。


『なんで!? なんでそっちから電話かかってくるの!?』


「わかんないけどー、繋がった!」


 そう言いながら、サブリナは「ほらモリッチも!」と僕をモニターの前に引っ張る。


『 森川くん!』


「はい、お疲れ様です! 森川です」

 そう呼びかけると、今度は梢社長の隣から岩田さんと詩織さんが顔を出した。


「森川くん! ツバサは? ツバサ見つかったかい?」


 ごつい顔がモニターいっぱいに映し出される。


「すみません、今はまだ情報を集めているところです」


 頭を下げて答えると、岩田さんは途端に落胆した顔を見せた。


「とりあえず、一回整理してからまた連絡するから! コールしたらすぐ出てね!」

 サブリナがそう言い放ち、通話を強引に切る。


 最後に向こう側で絶叫するような声が聞こえたが……まあ、気にしないでおこう。


 僕はサブリナを見た。

 そしてサブリナも僕を見る。


「どーいうこと?」


 僕が訊ねると、サブリナは首を振りながら、両手を挙げてみせた。



お読み頂きありがとうございます!

ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ