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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第65話 湖畔で休憩


 1時間以上は走っただろうか。


 途中、馬車や剣を携えた冒険者らしき一団とすれ違うことが何度かあった。


 彼らは皆、バイクの轟音に驚き、反射的に剣を抜こうとする者もいたが、後ろに乗るサブリナが「イエーイ!」と能天気に叫ぶ様子を見て、呆れたように剣を収めた。


 すっかりノリノリになったサブリナは、馬車や旅装束の集団を見つけるたびにダブルピースを掲げてはしゃぎ、道行く人々をさらに唖然とさせていた。


 しばらく進むと、左手に大きな湖が広がる道に出た。

 そのほとりで、僕たちは一旦休憩を取ることにした。


 サブリナが荷物から水筒を取り出し、三人で湖を眺めながらお茶を飲む。


 澄んだ空気、青く輝く湖、遠くに連なる山の稜線。

 目的を忘れそうになるほどの絶景に、自然と気が緩んでしまう。


 僕らは芝生のような草の生えた地面に腰を下ろし、しばらく景色に見とれた。


 横に座る殿下の横顔を見る。

 彼は今、ローブを纏い、スカーフ状の布で顔半分を隠している。


「殿下、顔をさらしていて大丈夫ですか?」

 僕が訊ねると、当の本人は笑いながら答えた。


「半分隠しているから大丈夫ですよ。一応、認識阻害の魔法もかけてますしね」


 認識阻害は見破られやすい魔法だ。

 以前、大谷モドキ改め神戸総一郎にも簡単に見抜かれたくらいだし、それに——瞳にあふれる高貴な雰囲気は隠しきれていない。


 知っている人には、すぐに殿下だとバれるよな。


「それにしても、綺麗だよねー。二人を助けたら、ここでキャンプしようよ!」


 サブリナはそう言った後、一瞬考え込み、すぐに言い直した。


「いや、待って! シオッチたちも連れてきたいなー。改めて社員旅行として来るの! そんで、みんなでバーベキューしよーぜ!」


 サブリナは目を輝かせながらはしゃいでいる。


「それ、いいですねー! 絶対やりましょう! このあたりなら危険な魔獣もいませんし!」


 ……なぜか、殿下まで乗り気になってるし。

 でも、社員旅行が異世界ってアリなのか?


 ——まあ、楽しそうではあるけど‥‥‥


「でも、まずはオフィーとツバッチーを助けないとなー! さあ、さっさと助けに行こうぜ!」

 サブリナが良い笑顔で言う。


 普段はちゃらんぽらんだけど、肝心な場面ではしっかり締める。これがサブリナだ。


 僕は「もちろん!」と答え、腰を上げる。

 殿下も「その通りだね」と言い、竜馬にまたがった。



「あともう少しで目的のトーマの街です。がんばりましょう」

 殿下が手綱を軽く引き、前へ進む。僕たちもバイクにまたがり、再び走り出した。


 その後、僕たちは、ひたすら走り続けた。


 いつの間にか、道は森の中へと続いていた。


 すれ違う人が増えてきたな、と思った矢先——前方を走る殿下が振り返り、先を指さしている。


 視線の先には、森が途切れ、横に広がる石造りの壁と大きな門が見えてきた。

 さらに、その門の周囲には、長い列を作る人々の姿まで見える。


 小さな街って聞いてたけど……想像より大きそうだ。


 僕は殿下の横に並び、一旦止まるよう声をかける。

 殿下は頷き、少し外れた木の陰に移動して、バイクを停めた。


「僕らと一緒にいると、殿下が目立つから。一旦ここで別れた方がいいんじゃないか?」


 一瞬、迷ったような素振りを見せる殿下。

 しかし、僕は構わず続ける。


「すれ違う人たちの様子を見ると、このバイクが悪目立ちしてるみたいだし。一旦ここで別れて、街に入ってから別の場所で連絡を取り合いましょう。僕らはたぶん『ウメ』って宿屋に行く予定です」


 殿下は顎を指でさすり、悩むような表情を見せた。


 基本、彼は仲間を見捨てるなんてできない良い奴だ。

 それに、上に立つ者としての矜持もある。


 だけど、正しくあろうとすることが必ずしも良い結果をもたらすわけじゃない。


 ここは、嫌われてもハッキリ言っておくべきか‥‥‥。

 そう思い、意を決して話す。


「殿下。正直に言っていいですか? 殿下の立場が悪くなるような状況は、僕らも望んでいません。だって、それじゃ殿下の権限を利用できなくなるじゃないですか」


 一瞬、殿下が悲しげな目で僕を見る。


「だからこそ、僕らを矢面に立たせて、殿下は裏からバックアップしてください」


 僕は真っ直ぐ殿下を見つめる。


「直情的に動くのは僕らに任せてください。殿下は……思いっきり暗躍しちゃってください」


 ニッと笑ってみせると、殿下も少し驚いたような顔をしてから、ふっと笑った。


「分かったよ。じゃあ、そっちは任せてくれ! ありがとう」


「お礼を言われる筋合いはありません。僕らはチームです。それに、これは適材適所の役割分担です」


「……そうだね」

 殿下は僕を見つめ小さく呟いた。


「くれぐれも、自分の身を危険にさらさないでください。殿下は僕らにとって最後の保険なんですから」


「わかったよ。肝に銘じておく」

彼は真っ直ぐ僕を見て、しっかりと頷く。


「ドンチーはさ、逆に私たちを追い立てるフリをしながら、情報を取ってきなよ!」


「つまり、スパイだね」

 殿下はそう言って、手を突き出し、パチンと指を鳴らす。


 サブリナは「分かってるじゃん」と嬉しそうに笑った。


「じゃあ、ここで一旦解散だ」


 そう言って、僕は拳を掲げ、前に突き出す。

 殿下が、拳をコツンと合わせてきた。


 僕らは殿下を残し、バイクのスピードを上げた。



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