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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第63話 パッと、シュと、チャと


 サブリナの猛攻はさらに続く。


「それにさー、あの時、枝を使えって言ったのは大樹だからね!」


 ——それ、梢社長も言ってたっけ。


「大樹が? そんなこと言うわけ‥‥‥」


「私は聞いたよー、大樹が『自分の枝を使って治療しなさい』って言ったの。ヒトミッチも聞こえてたみたいだけどね」


「嘘……」


 ルリアーナさんは固まったまま動かない。


 そんな彼女を見て、サブリナはフフン! と胸を張り、鼻を鳴らした。


「ほらさー、私と大樹はマブダチだからさ! 深~いところでつながってんの。だからわかるんだよねー」


 ——大樹に触れた時、“ふにゃ”ってなってたもんな、サブリナ。

 しかし、大樹とマブダチって……マブダチっていったい何なん?


 ルリアーナさんは片手で顔を覆い、静かに俯いた。


 沈黙が流れる中、殿下が口を開く。


「あまり時間がありません。ルリアーナさんの言うとおり、ツバサさんのことが知られれば何が起こるかわかりません。だからこそ、そうなる前に二人を救い出さなければ」


 殿下の決意に、ルリアーナさんは冷たい視線を向ける。

「……ですが、本当に大丈夫なのですか? 殿下が動けば、波風が立つのは避けられません」


「それは……分かっています。でも——」


「殿下、ご自身のお立場をお考えください。実験を推進しているのは第二皇太子のカルビアン殿下ですよ? しかも、管理局の中にも実験自体の賛成派は多いのです」


「もちろん承知しています。でも、立場を守るために友人を切り捨てるなんて、上に立つ者としての沽券に関わります」


「甘いですね。それがどれほど危険なことか理解されてますか? 今後、殿下ご自身の身に危険が及ぶかもしれないのですよ」


「……それでも、私は梢ラボラトリーの一員です」


 殿下は口を閉じ、拳をぎゅっと握る。


 そんな殿下を見て、サブリナが手をひらひらと振りながら言った。


「だから私たちが来たの! この世界のしがらみがない私らが動く分には問題ないっしょ?」


「ちょっと待って、あなたたち二人で行くつもりなの?」


「そだよー。何? そんなヤバいとこなの? 影流の森って」


「影流のえいりゅうのもりは、ここから東方にあるダンジョンの森よ」


 「 「ダンジョンの森?」 」


 僕とサブリナが揃って声を上げる。


「そんなことも知らないで行くって言ってたの?」


 ルリアーナさんは、これでもかというほど大きな溜息をついた。


 呆れるルリアーナさんを横目に、ドン殿下がゆっくりと口を開く。


「ダンジョンの森とは、その名の通り、ダンジョン化した森のことだよ。つまり、森の中には魔獣が生息してるってわけ」


 サブリナが「へぇ〜」と頷きながら腕を組む。


「それって、ダンジョンコアが森の中にあるってこと?」

 先日オフィーが話していたことを思い出しながら尋ねる。


「そう、よく知ってるね」

 殿下は感心したように目を細め、少し考え込んでから続けた。


「もちろん、影流の森にもダンジョンコアはある。ただし——」


 一拍置き、渋い顔をする。


「あの森のコアは特殊でね。常に移動している」


「移動? ダンジョンコアって動くものなんですか?」


「いや、普通はしない。けど、なぜかあの森のコアは魔素の流れに沿って動き続けている。彷徨えるダンジョンコアなんて言う人もいるね」


——動くダンジョンコア‥‥‥か。


「ある時は最深部で見つかったと思えば、翌日には森の浅い場所に移動している。さらに次の日には、別の場所に現れる。まるで実体のない影のように」


「もしかして、それで『影流』?」


「まあ、そんなところだね」


 僕が黙って考えていると、殿下が続けた。


「そもそも、ダンジョンコアは魔素が集まる場所に発生する。つまり、影流の森には魔素が満ちているってことだ」


 そう言って、殿下は手元のカップを持ち上げ、一口お茶を飲む。


「……急進派の連中は、そこなら大規模転移術式も可能だと考えている。つまり、大樹転移の最有力候補地になっている」


「大樹をダンジョンの中に転移させるつもりなのか?」


「梢ラボの大樹だって、ダンジョンとくっついてるだろう?」


「……まあ、確かに」


 納得しかけたところで、サブリナが「ちょっと待ってよ?」と眉をひそめる。


「実験が行われてるのって、森の奥なの?」


「いや、入口付近のはずだよ」

 殿下が言うと、サブリナはさらに怪訝な表情を浮かべた。


「なんでそう言い切れるの?」


「最近、連中が森の入口付近に“実験棟”と称する建物を建てたって情報が入ってるからね」


 その言葉に、サブリナが勢いよく指を鳴らす。


「スパイだな!」


 殿下は「アハハ」と笑ってごまかした。


「わかったわかった! もういいわ!」

 そんな僕らの会話を聞いていたルリアーナさんが突然声を上げる。


「それで? もちろん、ちゃんとした計画はあるんでしょうね?」

 鋭い視線がこちらに向けられる。


 待ってましたと言わんばかりに、サブリナが腰に手を当て、立ち上がった。


「そんなのさー、パッと行って、シュッと助けて、チャッと帰る! でしょ?」


 ‥‥‥。



「それで、もちろん計画はあるんでしょうね」


 ルリアーナさんが、今度は僕だけを睨んでくる。


 ——デジャブかよ!


 スルーされた当のサブリナは立ったまま固まってしまった。



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