表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/199

第61話 根界の扉


「おー、良いじゃん良いじゃん!」

 サブリナが手を叩いて喜ぶ。


 大樹の部屋——ダンジョンへ続く小屋の前に、梢社長とドン殿下、それにキャリーケースを引くサブリナが待っていた。


 僕は倉庫から引っ張ってきた単気筒バイクを押していく。


「そんなの、どこにあったのー?」

 梢社長が驚いた様子で寄ってくる。


「倉庫にありました。専用の牽引トレーラーもあったので、くっつけて持ってきました」


 そう、倉庫にあったこの単気筒バイク——。

 最初に見たときから気になっていた。


 梢社長が乗るとも思えないし、以前の社員が使っていたとも考えにくい。 

 それでも妙な存在感があった。


 その時は、深く考えなかったけど、今となって思えば、このバイクで異世界に行ってたんじゃないか……とも思う。


 いや、さっきのドン殿下の話だと、向こうの世界では馬が主流らしいし、単にその影響かもしれない。


 ともかく、持っていけるなら持っていこう——くらいの気持ちで準備した。

 ちょうどバイクの近くに専用の牽引トレーラーまであったので、近場のスタンドで満タンにした後、バイクに連結した。


 こんな物まであるなんて、やっぱり以前に誰かが行ったことがあるのかもしれない。


 倉庫にはサイドカー付きのバイクもあったが、さすがに扉を通れるか不安だったので、それは諦めた。


 とはいえ、これで準備は万端。


「本当に行くんだね……やっぱり、私も行く!」

 梢社長が縋るように訴える。


「ダメだよー! ヒトミッチはこっちにいなきゃ! 二人が戻ってくるかもしれないし、何かトラブったときの最後の砦なんだからさー」


 シュンとする社長。そんな彼女を、ドン殿下がフォローする。


「大丈夫。いざとなれば、命をかけて二人を守るよ」


 ——命をかけるって……そんなにヤバいのかな?


「それじゃ、行きましょう」


 ドン殿下の一言で、僕らはダンジョンへと足を踏み入れた。


 昼前にここを出てから、すでに3時間以上が経っている。

 それでも、ダンジョンの中にゴブリンの姿はなかった。

 

 ドン殿下を先頭に、僕らは進んでいく。


 ダンジョンに入ると、梢社長がバイクを押すのを手伝ってくれた。

 僕の反対側から支えて、一緒に押してくれている。


 その間も、彼女は「危ないことはしちゃダメだよ」とか「怖くなったらいつでも帰ってきていいんだからね」とか、さらには「剣持った? ハンカチとかも持った?」なんて声をかけ続け、完全にオカンモードだった。


 そんな社長の様子に、ドン殿下は苦笑いを浮かべる。


 一方、サブリナは「安心しなよ、ぜってー二人連れて帰るからさ」と、男前なことを言っている。


 ボス部屋の前にある広いスペースに到着すると、ドン殿下は抜いていた剣を鞘に収めた。

 そして、ボス部屋の扉の横——土壁から扉二枚分ほどの根が露出している部分に手を押し当てる。


 すると、剥き出しになっていた根がざわざわと動き出し、まるで「潜れ」と言わんばかりに穴が広がっていった。


 ——これが、根界の扉……。


 ぽっかりと空いたその穴の奥は、薄暗い闇が広がっている。


「ここを抜けると、すぐ転移の間です。あちらとの時差は4時間ぐらいですから、今だと丁度お昼前ですね。行けますか?」


 ドン殿下が僕とサブリナを見つめながら言う。


 僕らは黙って頷いた。


「社長。行ってきます」


「うん……気をつけてね。みんな、オフィーとツバサちゃん、頼んだよ」


 目を潤ませながら見つめてくる梢社長に、僕ら三人は揃って頷く。


 そして、ドン殿下の「行こうか」という合図とともに、闇の穴へと足を踏み入れた——。


 一瞬、視界が暗くなる。

 同時に、ジェットコースターに乗ったときのような、ヒュッとした浮遊感に襲われ、思わず目を瞑った。

 そして、もう一度目を開けると、目の前の光景が変わっていた。

 

 白い壁に囲まれた空間。

 ちょうど会社の事務所ほどの広さだ。

 気が付くと、僕たち三人はその中央に立っていた。

 

 壁は平面だが、微妙にボコボコしており、人工物とは思えない。


 何も音はしない。


 目の前の壁には大きな穴がぽっかりと開いており、そこから一本の通路が奥へと伸びている。


「転移‥‥‥した?」

 僕が呟くと、ドン殿下が頷き、後ろを指さした。


 振り向くと、そこには観音開きの扉があった。

 壁と同じ白地に、輝く金色の縁取りが施された扉。


「この扉を通って来た?」

「そう。帰るときもここを通る」


「でも、どうやって?」


 気になって尋ねると、ドン殿下はにっこりと微笑んだ。


「大丈夫。帰るときは一緒です」


 そう答えたあと、今度は少し申し訳なさそうに眉を下げた。


「ところで、申し訳ないんだけど、公の場では一応、僕のことは敬称で呼んで下さい。それと、二人のことは、こっちの人間として呼び捨てで呼ばせてもらいます」


「もちろん」


 僕もサブリナも頷く。


「サブリナさんはそのままサブリナで、森川さんは……ちょっと聞き慣れない名前だから……」


「ユウじゃダメですか?」


「ユウ……。それがいいですね。じゃあ、ユウで」


 そう言って、ドン殿下は目の前の通路へと歩き出した。


 しばらく歩くと、更に広い、まるでホテルのロビーのような場所に出た。


 すると、待っていたかのように白い服を着た老人が近づいて来た。


「随分と早いお戻りでしたね。ドングラン王子」

 老人は、僕とサブリナの方に視線を向ける。


「えーと、この二人は僕の従者だ……ってことにしておいてくれないかな」     

 ドン殿下がそう言うと、一瞬、僕らをじろりと睨んだ後、恭しく「分かっております」とお辞儀をする。


「お名前をお聞きしても?」


「こっちはユウで、女性はサブリナです」  

  殿下の指示に合わせ、僕はぺこりと頭を下げる。


「お荷物は、一旦こちらでお預かりしますか?」

 老人が尋ね、殿下が僕に頷く。


「置くところはありますか?」と問うと、老人はこちらへとカウンターらしき奥にある奥部屋を案内してくれた。


 僕はバイクを、サブリナはキャリーケースを置かせてもらい、ロビーに戻る。


「じゃあ、とりあえず、ルリアーナさんに挨拶に行きましょう。たぶん、力になってくれる‥‥‥はず」


 ——その人って…


「そお、セーシアのお姉さんで、大樹管理連盟・僻遠(へきえん)統制局の局長さん」

 そして殿下はニッと笑う。

「梢ラボラトリーの前社長さんですね」


 ——我らが親愛なる残念エルフのお姉さんか……


「その人さー、会う必要あるのかなー? 推進派の人でしょ?」


 サブリナが駄々をこねるように尋ねた。


 人懐っこいサブリナには珍しい反応で、僕は思わず訊ねた。

「サブリナは会ったことないの?」


「ないよー、私はヒトミッチが社長になってからの契約だから」


 態度のデカさに、古株だと思ってたわ。


「別に推進派じゃないですよ。彼女は、中立‥‥‥かな」

「なおさらヤバイじゃん。こっちでは、私達ゲリラだよ! ゲ、リ、ラ」


 ——ゲリラじゃないだろ? 


「彼女ならきっと力になってくれます!」

 と、ドン殿下が食い下がる。


「ウソだねー。ゲリラ戦仕掛ける前に裏ボスに挨拶するって、どんだけお人よしだよ!」


 ——サブリナ。裏ボスではないと思うぞ。


 とはいえ、サブリナの言うことも完全に理解できないわけではない。


「殿下。目星つけてる場所に直接向かうんじゃダメなんですか?」


「それは無謀すぎる‥‥‥」


 三人で言い合っていると、その時、「ドングラン王子!」と誰かが呼ぶ声が聞こえた。


 ドン殿下はその声に振り返り、驚きで目を見開いて固まった。

 その視線の先には、一人の女性が立っていた。


「ルリアーナ‥‥‥さん」

 ドン殿下が絞り出すように言う


 女性はにっこりと微笑み返す。

「ご無沙汰しております、殿下。今日はどうなさったんですか?」


 ゲリラ失敗!!



お読み頂きありがとうございます!

ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ