第60話 異世界に行く!?
その後も、梢社長とドン殿下があれこれ言葉を尽くして説得してくる。
しかし、サブリナはまったく臆することなく、次々と反論を繰り出す。
最初こそ猛反対していた二人だったが——最終的には、サブリナにあっさり論破されてしまった。
「そういうさ、何々のためとか、こうしなきゃいけないとか、そんなのは二人を助けてから考えればよくない?」
社長とドン殿下は言葉を失い、サブリナを見つめる。
「私とモリッチにとっては、連れ去られた仲間を取り返す。ただ、それだけだもん。もしかしたらさー、うちの大樹様も同じこと思ってるかもね」
いつもの彼女とは違う。
その姿が、やけに眩しく見えた。
……カッコいい! 気がする、たぶん。
そうだ。今は四の五の言ってる場合じゃない。
二人を探して助ける——それだけだ!
僕はグッと拳を握りしめた。
その横で、サブリナは——
「異世界だぜ~! 楽しみすぎる! ウヒヒヒヒ!」
……残念。やっぱり、いつものサブリナだった。
「いやしかし、あまりに無謀すぎる」
ドン殿下が砂を噛むような顔で呟く。
「そうだよ! 二人とも、何も知らないんだよ!」
梢社長が悲鳴のような声を上げる。
それでも、サブリナは平然としていた。
「だからいいんじゃん! そっちの常識なんて、私たち知らないんだもん。怒られたら、『知りませんでした〜、ごめ~ん、テヘ♪』で済ませる」
いつもの軽い調子でそう言うと、社長を見てニヤリと笑う。
「それでさ、ヒトミッチが何か言われたら、『うちのバカたちがすいません何も知らずに暴走しました。ゴメン』って謝ればいいじゃん! それが社長の仕事でしょーよ!」
そんな簡単に済むとは思えない。
だけど、迷っている時間がないのも事実だ。
「ドン殿下、そっちの世界へはどうやって行くんですか?」
僕は尋ねる。
「根界の門を通れば、あちらの転移門につながっています」
「僕らでも行けます?」
「行けるか行けないかで言えば——行けるね」
「二人が、どこにいるのかも、ある程度あたりがあるって言ってましたよね」
「そうだね。大体の予想はついてる。だけど、そこは安全な場所とは‥‥‥」
「じゃあ行こうぜ! モリッチ、準備があるから“こかげ”行くぞ!」
サブリナがドン殿下の言葉を待たずして叫んだ。
そこからの動きは、あっという間だった。
まるで何かに背中を押されるように、とんとん拍子で話が進んでいった。
とはいえ、サブリナが強引に話を進めていっただけだけど。
……というわけで、まずは“喫茶こかげ”に向かうことになった。
「シオッチー! でっかいキャリーケースあるー?」
店に入るなり、詩織さんに声をかけるサブリナ。
「なになにー、どうしたのー?」
そう答えた詩織さんを、そのまま店の奥へと連れ去っていった。
カウンターに腰かけた僕に、淳史くんがコーヒーを淹れてくれる。
「なんかあったんですか? サブちゃん、やけに張り切ってますけど」
「まあ、いろいろあってね。後で梢社長に聞いてみてよ」
僕は首を振り、大きくため息をつく。
「……なんか、大変そうっすね」
苦笑いする淳史くん。
「モリッチ! これとこれ、車に積んどいてー!」
サブリナが、大きなキャリーケースとコンテナケースを抱えて戻ってきた。
僕はそれを持ち上げる——
「重っ! こんなの持ってくつもりかよ!」
「これでも絞ったんだよ! いやー、自分の優秀さが怖い! 一応、こっちに持ってきといてよかったわー!」
「いや、そもそも持って行けんのかよ、こんなに」
「オフィーだって自分の剣持ってきてたし、大丈夫っしょ! これは私にとっての剣なの! ほら、さっさと積めって!」
そんなサブリナを見て、詩織さんが首を傾げる。
「ねーねー、どっか行くの?」
「ちょっとねー、異世界行ってくる!」
「「 はぁ!? 」」
淳史くんと詩織さんが固まる。
僕はそんな二人に向かって言う。
「しばらくデリバリーできないかもしれません。すみません。何かあれば、社長に伝えておいてください」
唖然とする二人を残し、僕らは会社へ戻った。
そこには、ドン殿下が待ち構えていた。
「本当に行く気かい? 正直、何が起こるか保証できないよ」
「保証なんていらんわ!」とサブリナが叫ぶ。
「行くしかないでしょ! ああなったサブリナは止まらないです」
僕が言い切ると——
「言い方!」
サブリナのキックが思いっきり尻に入った。
その横で、持ってきた荷物を見た梢社長が眉をひそめる。
「……これ、全部持ってくつもり?」
「えー、持ってけないのー?」
「いや、まあ……持っていけるけど……」
たしかに。
持って行けたとしても、その先での移動を考えると——
「向こうでは、結構移動することになるんですか?」
僕はドン殿下に尋ねた。
「転移門からは、そこそこ距離があるね。私の竜馬は預けてあるけど……馬車か魔動車を手配するとなると、少し時間がかかるかな」
竜馬! 魔動車! なにそれ、すごい興味ある!
でも、そんな余裕あるのか?
ふと、倉庫にあるアレを思い出し、向かう。
——そう、最初に見たとき、何か違和感があった。
その時は、まあ、趣味人がいたのかなー程度で納得していたけど、もしかして……。
僕はイグニッションにカギを差し込み、セルを回す。
単気筒のエンジンが、咆哮を上げた。
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