第54話 キメ☆ってね
翌日もツバサさんは朝から会社にやって来た。
しかも、一緒にハーブの採取を手伝ってくれ、デリバリーまで付き合ってくれた。
本当に、いい人。
この会社に関係する女性に年齢を聞くのは命懸けだけど、ツバサさんなら大丈夫だろうと思い、デリバリーの途中でさりげなく尋ねてみた。
すると、あっさり「23歳ですよ」と教えてくれた。
年齢的に魔法少女とは言えないかもしれない。でも、見た目はそれっぽいからアリでしょ……。
さて、デリバリーから帰ってくると、オフィーが満面の笑みでツバサさんを迎えた。
「これ、用意しといたから良ければ着てみるといい」
差し出されたのは、濃いえんじ色のローブだった。
「大したものじゃないが、一応アラクネの糸を混紡してある。そこそこ丈夫で、ちょっとした剣なら簡単には通らないからな」
ツバサさんはローブをそっと受け取り、俯いてしまう。
「こんな……こんな私なんかに……」
そう呟くと、肩を震わせて泣き出した。
「魔法使いは後方支援の立ち位置だが、モンスターたちには狙われやすい。私からのプレゼントだ。良かったら着てくれ」
オフィーが優しく微笑む。
次に、その後ろから梢社長が現れ、銀色の装飾が施された棒のようなものを差し出した。
「これは私から。昔使ってた杖だけど、ロッドとしても使えるからちょうどいいかと思って。よかったら、これも使ってみてね」
ツバサさんは、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度もお礼を言いながら、二人からの贈り物を受け取る。
「昨日ね、ツバサちゃん、『魔法使いになれる!』って本当に喜んでたから、なんだか応援したくなっちゃって、オフィーに取りに行ってもらったんだ」
——昨日の用って、それか!
泣きじゃくるツバサさんに、「おいおい、まだ魔法使いの道は始まったばっかだぞ。お礼なら、魔法が使えるようになってからにしてくれよ」と苦笑いするオフィー。
「ウヒヒ! こりゃ、ツバッチーの成長が楽しみだね! 魔法覚えたら見せてよね!」
サブリナまで笑っている。
——なにこの感動的な場面!
梢社長も、オフィーも、サブリナですら、みんなすごくいい人に見える!!
「さあ! それじゃ行こうか!」
オフィーの掛け声で、僕らはダンジョンへと向かった。
ツバサさんは、さっそく貰ったローブを身に着け、杖——というかロッド——を手にしてすっかり魔法使いらしい姿になった。
それに、なんと! 杖のおかげか、自力で火球を作り出せるようになった!
「実は、昨日も帰ってからずっと、魔力を体の中で循環させる練習をしてたんです」
そう微笑みながら、「おかげでちょっと寝不足です」と、はにかんで答えるツバサさん。
そんな彼女の表情に、思わずドキリとしてしまう。
「もーりーかーわー。デレてんじゃないぞ! 前衛は任せたからな!」
——オフィー! 何言ってるかちょっとわかんない。
ゴブリン狩りでは、もう恐れることなく戦えるようになった。
とはいえ、少しでも隙を見せれば、打ち込まれてしまうのも事実。
正直、デレてる余裕なんてない。
それに、ゴブリンをいくら倒しても、前ほど成長している実感がなくなっていた。
オフィー曰く、「ゴブリンから吸収できる魔素量では、成長の限界を超えてしまった」のだろうとのこと。
これ以上を求めるなら、より強い魔物で経験を積む必要があるらしい。
「そもそも、なんで魔物を倒すと強くなるんですかね?」
「魔物を倒すことで取り込む魔素が、体の許容量を拡張する。だから、筋肉や神経、知覚まで、魔素を使って機能するようになるんだ」
「つまり、魔素を浴びれば浴びるほど、あらゆる機能が魔素によるエネルギーを利用できるようになる……ってことですか?」
「簡単に言えば、そうだな」
「もしかして、大樹からも、その魔素みたいなものは出てるんですか?」
「厳密には魔素とは違うが、同じようなエネルギーは放出されている。大樹の部屋の植物が切ってもすぐに再生するのは、その影響だな」
なるほど。魔素という未知のエネルギーを浴び続けることで、体がそれを利用できるようになる……そんな感じか。
実は、昨日からちょっと気になっていたことがある。
ツバサさんの魔力についてだ。
もちろん、生まれつきの素質かもしれない。
でも、もしかすると 大樹のエネルギーを浴びていた影響 なんじゃないか……と考えていた?
何しろ、彼女が管理していた畑は、大樹の部屋と 壁一枚隔てただけの場所にあるのだから。
この仮説をオフィーにぶつけてみると、彼女は少し考え込み、「可能性としてはあるかもな」と頷いた。
「ツバサの兄弟には魔力を感じなかったし、案外それ、当たってるかもしれん。実際、昨日の野菜にも大樹のエネルギーを感じたしな」
「え! そうだったんですか!」
ツバサさんが驚きの声を上げる。
「大樹の部屋で育ったものほどじゃないが、確かに影響は受けていたな」
「言われてみれば、収穫量は多いし、季節外れの実がつくこともありました」
ツバサさんは「そうだったんだ……」と、納得した様子で呟いた。
「まあ、魔力があっても使えなきゃ意味がない。ツバサは野菜じゃないから、おいしくいただくわけにもいかんしな!」
そう言って、一人楽しそうに笑うオフィー。
——おいしくいただくって……。怖いよオフィー!
結局その日、ツバサさんは『火球の発動』までは成功したものの、発射までは今一歩届かなかった。
酷くしょんぼりする彼女に、僕はアドバイスする。
「恥ずかしがらずに、技名を大きな声で叫んだ方が良いよ!」
——ポーズを付けて、キメ☆ってね!
そんなツバサさんの姿を見たいと思った僕。
「む、無理ですってば……!」
顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向くツバサさん。
でも、帰り際に こっそりポーズの練習をしていたのを、僕は見てしまった。
可愛い‥‥‥。
生きる楽しみ、できちゃった。
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