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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第53話 照れるぜ!


「日曜日の朝は、毎週欠かさずテレビの前に座って夢中で見てたんです」


 ナスの煮びたしをつつきながら、ツバサさんが楽しそうに話す。


「あー、あれね! 私も見てたな、ニチアサ」

 サブリナが共感するように頷いた。


「恥ずかしいんですけど、けっこう大きくなるまで、ずっーと、ずっと『私もあんなふうになりたい』って思ってたんです」


 そう言いながら、ナスをパクリと口に運ぶ。そして、箸を置き、オフィーと梢社長を見つめた。


「でも、これで夢がかなうかもしれません!」


 ——いや、変身はできないよー。


「でも、魔法を使えるのはあくまでダンジョン内だけだからね。外では禁止! 約束だよー!」

 梢社長がサツマイモの天ぷらを頬張りながら、もごもごと注意する。


 ツバサさんは、素直にコクリと頷いた。


 そんな会話をしていた午後、タイミングがいいのか悪いのか、話題の岩田さんがやって来た。


「なんだ、ツバサも来てたのか」

 事務所にいた彼女を見ても、別段驚く様子もなく言う。

「朝からいないと思ってたが、梢さんとこにいたんだな」


「はい。ちょうど収穫する野菜もありましたので」


「野菜のついでみたいな言い方は感心しないな」


 ——ん? なんだろう、いつもの岩田さんらしくない。


 ツバサさんも、さっきまでの明るさが消え、なんとなく窮屈そうに見える。


「ガンちゃん! ツバサちゃんは採れたて野菜を持ってきてくれたんだよ! そういう言い方しないでよね!」


「社長も、あんまりツバサを甘やかせないで下さい」


 ツバサさんは俯いたまま、何も言わない。


 ——なんだ、この違和感。


 この会社に入ってから、散々なことばかりで、毎日のように驚かされてきた。

 けれど、人間関係だけは恵まれていると思っていた。


 個性的な……いや、個性が強すぎる人ばかりだけど、みんな憎めない人たち。

 けれど、今日の岩田さんの態度には、どこか冷たさを感じる。


 ——ちょっと、ツバサさんへのあたりが強いような……。


 とはいえ、仲良しごっこで済まされないのが仕事だ。

 人それぞれ事情があるのは当然だろう。


「で、ガンちゃんこそ何しに来たの?」

 梢社長が、少しきつめの口調で問いかける。


 だが、岩田さんは気にする様子もなく続けた。


「森川くんの入社手続きと、この前言ってた登記簿の変更、それと社判が必要な書類を持ってきた。確認をお願いします」


「分かったよー。じゃ、こっち来てー」


 二人はパーテーションの向こうへ消えていく。

 その際、岩田さんが振り返り、「明日の午後、税理士の浩司を来させるから、時間開けといてな」と言い残した。


 事務所に残ったのは、セルビアと僕、それにツバサさん。

 オフィーは用事があると言って異界へ戻っていった。


 ——どうやって戻ってるかは‥‥‥ちょっと気になる。


 僕らは昼食後の食器を片付けるため、三人でキッチンへ向かう。


 キッチンは、大樹の部屋の手前、三つある扉の一つを開けた先にあった。

 立派なシンクが備え付けられ、奥には洗濯場と浴室まである。


 そういえば、社内をちゃんと案内してもらってない。

 改めて、まだ自分が何も知らないことを痛感する。


 とはいえ、うっかり扉を開けて異世界に飛ばされたらシャレにならない。


 ——今度、ちゃんと案内してもらおう。


 そんなことを考えながら食器を洗っていると、サブリナが口を開いた。


「イワッチって、あんな言い方するんだなー。ちょっと意外だよ」


 大皿を洗いながら、彼女は首を傾げる。

「ツバッチーへの当たり、きつすぎない?」


 相変わらず、サブリナはデリケートな話題にもズバッと切り込む。

 僕だったら本人を前にして、こんな話はとてもできない。


「兄から見れば、私は不甲斐ないんです。岩田家の恥だと思ってるんじゃないかな?」


「えー、だってツバッチーも社労士さんじゃん! すごくない?」

「ですです。社労士って国家資格ですよね? 取るの、大変だったんじゃないですか?」

 僕もサブリナに便乗する。


「社労士がどうこうじゃないんです……」


 ツバサさんは、手に持った皿を丁寧に拭き、棚へ片付けながら呟く。


「私、人見知りが激しくて……初めて会う人とか、知らない人の前だと話せなくなっちゃうんです」


 ——人見知り?


「そんな風に見えないですね。さっきも普通に話してたじゃないですか?」


「梢さんとこの人たちは大丈夫です。みんな優しい人ばかりですし」


 ——えー、そうかなー?


 サブリナをチラリと見やる。


 僕の視線に気づいたサブリナが、手についた洗剤の泡を指で弾き、僕に投げつけてきた。


 ——どこが優しいんじゃい!


「サブリナさんだって……最初、話せなかった私を気遣って、いろいろ話しかけてくれたんです」

 ツバサさんが、少し恥ずかしそうに微笑む。

 その横で、サブリナがドヤ顔で僕を見る。


 でも僕は知っている。彼女は優しいんじゃなくて、ただの無神経なのだ。


「まぁそだねー。ツバッチーは真面目だけど、優しすぎるとこあるからねー」

 そう言いながら、生ごみを袋に詰めるサブリナ。


「でもさ、もっと自信持った方がいいよ? ツバッチー、めちゃ優秀じゃん」


 サブリナらしからぬいい発言。グッジョブ!サブリナ!


 しかし、僕も自己肯定感は低いけど、彼女ほどのエリートでも自信が持てないとは意外だ。


「そうですよ。ツバサさん、国家資格だって持ってるし、おいしい野菜も育てられる。何より、どんな仕事でも手を抜かずに丁寧にこなしてる。それってすごいことです」


 僕の言葉に、ツバサさんは「そんなことありません」と小さく首を振る。


「だって、森川さんは入社されたばかりなのに、すっかり皆さんと仲良くされてます。それに、聞きましたよ! すごい傭兵部隊と戦って、正面から打ち負かしたって!」


 ま、まーねー。


 照れるぜ!


「ちがうちがう。モリッチは棚ボタで手にした力だよ。ツバッチーみたく、自分の努力で得たものじゃないから」


 ま、ま、そーねー。


「それに、傭兵部隊を前に最初はトンズラしようとしてたしねー。ヒトミッチに喝入れられて、仕方なく戦っただけでしょー? ウヒヒヒ」


 間違ってないけど……、いいかた―!



お読み頂きありがとうございます!

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何卒よろしくお願いいたします

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