第52話 魔法少女 爆誕!
「私、今、魔法を使ったんですか?」
ツバサさんは自分の手のひらを見つめ、震えていた。
「そうだ。初級魔法のファイアーボールをな」
「私、炎属性なんですね!」
——通な言い方だな。
ツバサさんは鼻息荒く、今にもオフィーに掴みかかりそうな勢いで迫る。
それを「落ち着け」となだめるオフィー。
「初級魔法に属性は関係ない。どちらかと言うと、イメージしやすいかどうかの問題だけだ」
「そうなんですね! じゃあ、ウォーターボールとかウィンドショットとかもできるんですか? あとヒールとかも!」
ツバサさんがぐいぐい迫り、あのオフィーがじりじりと壁際まで追いやられていく。
——あれは! 噂の壁ドン魔法?
「あーもー、そう焦るな! 今のファイアーボールだって私の補助があったから成功したんだ。訓練なしじゃ発動は無理だぞ!」
オフィーはツバサさんの肩を掴んで距離を取りながら言う。
当のツバサさんは「はい、すみません」とシュンと肩を落とす。
「ツバサはかなりの魔力を持っていた。それで試しにやらせてみたら、上手くいったんだ。ただ、自分の力だけで発動するには訓練が必要だな」
オフィーはゆっくりと説明する。
不思議な展開についていけなかった僕は、オフィーに訊ねた。
「オフィーは前から気づいてたんですか?」
「そうだな。最初に会ったときから魔力の強さには気づいていた。でも、こっちの世界では使う機会がないだろ? 無用な力は、逆に害をなすことが多いんだ」
——だから教えなかった‥‥‥か。
「やります! 私、魔法が使えるようになります! だって、ずっと憧れていたんです。何か力が欲しいって!」
——いやいや、社労士さんって十分すごいじゃないですか!!
「わかった。自分の力だ、使うか使わないかは自分で決めろ。助力は惜しまん」
——こうして、魔法少女ツバサが爆誕!!
「お前、さっきから何ブツブツ言ってんだ! 来たぞ、新手が!」
オフィーが僕の妄想に突っ込みを入れる。
僕は柄を握り直し、振り向きざまに剣を振る。
「でも、魔法の練習ってどこでやるんですか?」
ゴブリンを薙ぎ払いながら訊ねると、オフィーが肩をすくめた。
「嫌かもしれんが、森川と一緒にダンジョンに潜って、ここで練習するしかないな」
嫌かもって、オフィー、一言多くない?
でも、一緒にダンジョン攻略か‥‥‥悪くないな。
「もちろんです、師匠! 私、頑張ります! 森川さんもよろしくお願いします!」
ツバサさんは胸元で拳を握りしめ、オフィーを見つめる。
「 「お、おー」 」
僕とオフィーは、気迫に押されて思わず返事をする。
その後、僕がゴブリンを二匹倒し、さらにもう一匹現れたところで、ツバサさんがオフィーの介助のもと再びファイアーボールを放って仕留めた。
最初は、ツバサさん一人で発動させようとしたが、うまくいかず、オフィーの手を借りる形になった。
やはり、魔力を自在に操るにはまだ時間がかかりそうだ。
「まずは、自分の体内にある魔力を知覚して、コントロールすることからだな。魔法が使えるのは分かってるんだ、あとは地道に練習あるのみ」
珍しく優しい口調で教えるオフィー。
ツバサさんは「分かりました、師匠!」と元気よく答え、すっかりオフィーを師と仰ぐようになっていた。
——まぁ、嬉しそうで何よりです。
ダンジョンを出たあとも、ツバサさんのテンションは下がらず、その興奮ぶりに梢社長とサブリナが驚いた顔をする。
「でもなー、これ、確実にガンちゃんに怒られるんだよねー。どうしよう……」
梢社長が腕を組み、肩を落とす。
その落ち込み具合に、慌てて手を振るツバサさん。
「大丈夫です! これは私が自分で望んでやったことです。兄さんが何か言ってきたら、私がきちんと説明します!」
こぶしを握りしめ、力強く言う。
「なーなー、とりあえずツバッチーが魔法使いになったことは、言わない方がよくないか?」
珍しくもっともな意見を言うサブリナ。
「超能力者はいても、魔法使いは現世にはいないんだからなー」
——超能力者はいるのか? ……まぁ、いいか。
「まあ、このメンバーの中に余計なことを言う奴はいないからな。本人が言わなければ、当分は問題ないだろ」
オフィーがツバサの肩をぽんと叩く。
「わかりました! このことは絶対に口外しません!」
「ガンちゃんにも?」
梢社長がツバサに尋ねる。
「はい、大丈夫です。何かあっても私の責任ということで」
それを聞いても、梢社長はまだ悩んでいる様子だった。
——見た目と違って社長は正直な人だから‥‥‥
実際、社長が嘘つく姿が想像できない。
「私、見た目も正直ですよー!」
ぷくっと頬を膨らませる社長。
——ヤバい! 久々に思考を読まれた!!
「この話はひとまず置いといて、ツバサ! 昼ごはんどうするんだ?」
「あっ! ごめんなさい!」
ツバサさんは慌ててペコペコ頭を下げながら、キッチンへと駆けていく。
「やれやれ」
そう呟きながら、オフィーもその後を追った。
二人が出ていくのを、梢社長はじっと見送っていた。
なんとなく気になった僕は、社長に聞く。
「もしかして、社長はツバサさんが魔力を持っていることに気づいてたんじゃないですか?」
以前、オフィーは「梢社長のほうが魔法の扱いが上手い」と言っていた。
それなら、オフィーよりも頻繁にツバサさんに会う機会がある社長が、彼女の素質に気づかないはずがない。
僕の問いに、社長は少し悲しそうな顔をして答えた。
「この世界で使わない能力なら、持たないほうが幸せだと思いませんか?」
その言葉に、僕は何も言い返せなかった。
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