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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第二章

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第46話 梢ひとみの業務日報という日記 1/3

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ロイマール歴 ⒓503年 8月 12日


お姉ちゃんの後任として、別の世界にある世界樹を守ることになりました。


正直、これってひどくない?


そりゃ確かに、私は家をほとんど出ないし、お仕事なんかしたことないよ。

知らない人と話すなんて怖いし、ルリお姉ちゃんみたいに美人じゃないし、頭もよくないし、品もない。


絶対ムリだって泣いてお願いしたのに、全然聞いてくれなかった。


「きっといい経験になるよ」って、上から目線で言ってくるんだから!


まあ、実際、お姉ちゃんは私より50歳も年上だけど……そこは内緒。


いつも「大事な妹」だって言うけど、絶対ウソだよね。


だって、意地悪ばっかりしてくるし、いつも怒ってるし!


バーカ、バーカ!



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ロイマール歴 12503年 9月 1日


今日から働く『梢ラボラトリー』という会社に連れてこられた。


ここは『日本』という国の『広原町』にあるらしい。


建物は、数本の木々に囲まれるようにして建っており、その周囲には水面が光る田園風景が広がっていた。


整然と区画された水田には緑が茂り、一面に広がる景色の中で、建物だけがぽつんと孤立しているようだった。


それはまるでい大きな石の棺みたいに見えた。


建物の中は複数の部屋に分かれていて、中央にはこの世界の大樹があった。


その大樹はまだ若くて、元気がなさそうに見える。


「毎日、必ずお話しするように。それがあなたの仕事だよ」


お姉ちゃんにそう言われたけど、大樹に触れて話しかけても、何も応えてくれない。


やっぱり私には無理だ。


そう思ったけど、今さら言い返しても怒られるだけだから、「分かった」とだけ答えた。


それから鉄の板でできた机に座らされて、「コンピューター」という機械の前に案内された。

文字が並ぶ黒い板と大きな鏡みたいなものがついている。


「毎日ここに業務日報を書きなさい」と言われたけど、業務日報なんて何を書くのか全然分からない。

そう言ったら、「日記でいいのよ」と言われた。

それどころか、今まで書いてた日記も全部ここに記録しろと言われてしまった。


それで、今こうやって記録している。


文字の並んだ板を押して書いてるけど、とにかく面倒だ。

ここまで書くだけで5時間もかかってしまった。


苦しい。

手が痛い。

やめたい。


もう帰りたい。



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ロイマール歴 ⒓503年 9月 2日


 今日は、お姉ちゃんの紹介で岩田さんという男性と会った。


 事前に「とても忙しい人で、約束した時間以外では会えない」と聞いていたけれど、話してみると、「困ったことがあればいつでも言ってください」と優しい言葉をかけてくれた。


 どっちが本当なんだろう。


 岩田さんは、一見ぶっきらぼうで近寄りがたい雰囲気だけど、話すと意外と親しみやすい人だった。


 顔はちょっとオーガっぽくて怖いけど、目は優しくて、なんだか楽しい気分にさせてくれる。


 でも、話している間もずっと「パソコン」とやらを操作していて、落ち着かない感じだった。


 お姉ちゃんが言うには、この世界の人たちは寿命が短く、常に忙しそうにしているらしい。


 それが原因かな。


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ロイマール歴 ⒓503年 9月 3日


今日は、「喫茶こかげ」の今川詩織さんという女性を紹介された。


お姉ちゃんとは仲が良いらしく、会社に来るなり二人でキャッキャと楽しそうに話していた。


お姉ちゃんが「ここを去るから、社長が変わる」と伝えると、今川さんはひどく落ち込んでいた。


ごめんね。

私も好きでここに来たわけじゃないんだよ。


そう思いながらも差し出された手を握った。


彼女は、紹介された私の手を取って、笑顔いっぱいで「よろしくね!」と言ってくれた。


くるくる変わる表情が可愛くて魅力的だけど、人見知りの私からすると、ちょっと眩しすぎて疲れる。


明日から私が、指定された薬草を毎朝摘み、それを今川さんに渡すらしい。

彼女が来られないときは、弟さんが代わりに来るそうだ。


正直、面倒だけど、これをやらないと、ご飯が食べていけないと言われた。


……やだな。


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ロイマール歴 ⒓503年 9月 4日


今日はお姉ちゃんと一緒に近くの町まで散歩した。


この世界にはエルフがいないらしく、柔らかな糸で編まれた帽子をかぶって耳を隠した。


それにしても、この世界はどこか変だと思う。


魔法がない。

魔物もいない。


街の中には四角い建物ばかりが並び、広場には見慣れた大きな動物もいない。


魔法がない代わりに、この世界の人たちは「電気」や「ガソリン」と呼ばれる燃料を使って機械を動かし、魔法のようなことをやっているみたいだ。


便利そうだけど、なんだか冷たい感じがする。


帰りに、昨日紹介してもらった今川さんがやっているお店でご飯を食べた。

それが、とてもおいしくて驚いた!


これなら毎日でも通いたいと思うけれど、正直、毎日外に出るのはちょっとイヤだな。


それと、この世界の人たちはみんな、小さな石板みたいなものを持っていて、それを大事そうに眺めている。

食事中も、周りに人がいても、暇さえあればその石板をじっと見つめている。


みんな無表情で石板を見つめていて、時々、石板に向かってニヤリと笑ったりしている。


……正直、ちょっと気味が悪い。



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ロイマール歴 ⒓503年 10月 1日


昨日、お姉ちゃんは私を一人残して帰っていった。


一緒にいると何かと怒られてばかりでうるさかったけど、いなくなるとそれはそれで寂しい。


特に、この建物はがらんとしていて、一人きりでいるのがつらい。

広い空間に、ぽつんと取り残されたみたいで、泣きそうになった。


そんなとき、岩田さん(私の中では「ガンちゃん」と命名)が、お客さんを連れてやってきた。


連れてきたのは、一人の少女。


名前はサブリナ。


「パソコンの専門家だ」と岩田さんが紹介してくれた。


サブリナさんは、話し方が独特で、なんだか変わった子だった。

正直、仲良くなれる気はしなかった。


岩田さんが「ちょっと用事があるから」と席を外しても、サブリナさんは机の上の「パソコン」をひたすら操作していた。


そして、不意に「おもしろいゲームを入れといたよ」と言い、ニッと笑った。


「ゲーム」って何だろう?

分からないまま、サブリナさんに教わりながら試しにやってみた。


画面には、ドラゴンに似たモンスターがいて、それをこの世界の武器――銃を持った男性を操作して倒す内容だった。


初めてやったとき、あっけなく男性は死んでしまい、ひどく動揺したけど、サブリナさんが「これは架空のお話だから大丈夫」と慰めてくれた。


彼女に教わりながら、いつの間にか夢中で遊んでしまった。

そのうち岩田さんが戻ってきて、サブリナさんは彼と一緒に帰っていった。


……サブリナさん、変わった人だけど、いい子だったな。


彼女が帰ったあとも、教わったゲームを続けてみた。


気がついたら、日付が変わっていた。


なんで?


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ロイマール歴 ⒓503年 10月 2日


目が覚めたら、もう夜だった。


あの「ゲーム」というもの……本当に恐ろしい。


やっていると、時間の感覚がすっかり失われてしまう。


きっと、画面から何か洗脳効果のある魔術が放たれているに違いない。

次からは、自分に『状態異常解呪』の魔法をかけておかなくちゃ。


……でも、楽しい。


ついつい、またやりたくなってしまう。


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ロイマール歴 ⒓503年 10月 3日


今日は雨が降っていた。


詩織ちゃんに薬草を渡した後、特にやることもなかったのでゲームをして、眠った。


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ロイマール歴 ⒓503年  10月 5日


朝起きて、薬草を摘んで、詩織ちゃんに渡した。


あとは、ゲームをした。


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ロイマール歴 ⒓503年  10月 6日


朝起きて、薬草を摘んで、詩織ちゃんに渡して……ゲーム。



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ロイマール歴 ⒓503年 11月 1日


岩田さんが久々に顔を出した。


「大丈夫かい?」と心配そうに聞かれたけど、私は「大丈夫です」と即答した。


彼は「なんだか疲れてるみたいだね」と言うけど、そんなことはない。


毎日充実してますよー!


「今は私にとって大切な局面なんです」と力説したら、「それは失礼しました」と首をかしげながら帰っていった。


さあ! 苦しい苦しいレベル上げの時期は終わった!


いざ行かん! ラスボス討伐へ!!


パソコンの電源を入れた。


そして、ゲームをした。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


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ロイマール歴 ⒓504年   1月 1日


新しい一年が始まった。


この世界の暦は、不思議なことにロイマールの暦とほぼ同じだ。


私は、去年の9月にこの世界にやって来た。

あれから4か月。


……本当に、あっという間だった。


特に10月ごろから、私は何をしていたのか、まともに覚えていない。

時間が、異様なほど早く過ぎていた気がする。


なんか、この世界怖い。


さて、日本には「一年の計は元旦にあり」という言葉があるらしい。


この一年の行動がすべて、今日に決まる——

そんな恐ろしい言い伝え……だと思う。たぶん。


今年はゲームの時間もセーブしよう。


うん、そうする。


絶対。


取り敢えずは()()()しておこう。



お読みいただき、ありがとうございます!

第2章スタート! これからもよろしくお願いします!


ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

何卒よろしくお願いいたします。


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