第41話 帰るだけです
「どうする。腹はきまったか?」
オフィーがにやけた顔で聞いてくる。
「普通に帰ります。もう、用事は済みましたから」
僕が答えると、オフィーは「なるほどな」と嬉しそうに笑った。
「でさー、こいつらどおすんのー。もうこの階までいっぱい来ちゃったけどー」
サブリナが楽しそうにモニターを指差す。
そこには傭兵たちが集まる様子が映し出されていた。
「最短ルートで外に出ます。それで、向かってこればぶっ潰すだけです」
「言うね~」
サブリナが揶揄うように笑う。
「とはいえ、無用な攻撃は避けたいので、ルート以外はシャッターで遮蔽しちゃってください」
「おまかせあれー!」
サブリナがキーボードを叩き始める。
『で、僕は何をすればいいの?』
肩の上でふんぞり返る腹グロ精霊が聞いてくる
その瞬間、オフィーとサブリナの視線が一斉にこちらに向いた。
「今のは、その守護精霊の声か?」
オフィーが珍しくおずおずと訊ねてくる。
僕は頷き、肩に座る腹グロ精霊に目を遣る。
『仕方ないだろ!一緒にやるんだから。メンドクセーけど、僕だけ役立たずと思われたくないしな』
腹グロ精霊の言葉に、オフィーとサブリナは目を見開き、動きを止めた。
「なんか、見た目と違って口悪いなー。しかも僕っ子とか……」
サブリナが呆然と呟く。
——いやいや、それサブリナが言う?
オフィーは嬉しそうに笑い、「良いじゃないか。歓迎するぞ! よろしくな」と声を掛けた。
僕は改めて腹グロ精霊に訊ねる。
「逆に、なにができるんだ?」
『なんだい。しつれーだな! なんだってできるっちゃーできるけど……一人じゃメンドーだし、友達の子たちに手伝ってもらう?』
「友達?」
僕が聞き返すと、腹グロ精霊は自信満々に胸を張って答えた。
『そう、あの大樹の下で遊んでた子たち。近くにいるから呼べば来てくれるよ。』
「こんな街中に?」
僕の疑問に、精霊はニヤリと悪戯っぽく笑った
『ほら、この街のどこにだって植物はあるだろ? 公園の木、路地裏の雑草、オフィスの観葉植物、ぜーんぶ僕の友達なんだぜ!』
その言葉にオフィーとサブリナは驚きの表情を浮かべる。
「観葉植物まで友達か……なかなかの社交性だな」
オフィーが呆れたように呟く。
「モリッチ、瞬殺で負け確定だな」
サブリナがウヒヒと笑い、肩をすくめる。
——え、僕は何に負けたの?
気を取り直し、腹グロに目を向ける。
「じゃ、頼んでもらえるか」
『了解……ただ、街の子たちはストレスたまってるからなー。ちょっとだけ暴れちゃうかもな』
なんかサラッと不穏なこと言った!…けど、まぁいいだろ。
僕は運転席に座り、オフィーが助手席に腰を下ろした。
周囲からシャッターの閉まる音が響く。
「外へのルート以外は封鎖したぞ!」
サブリナが報告する。
「なんかさー、ド興奮してきたぞー! こんなの映画で見たよな、『明日になんちゃら』ってさー」
——なんちゃらって‥‥‥。
たぶん、言ってる映画は状況も設定も全然違うし、ラストも違う。‥‥‥作品に失礼ですよ!
まぁ、いざとなったら左手の大樹の力で吹き飛ばしますけど。
「とりあえず、あまり殺さない方向で行きましょう……甘いですか?」
僕は隣のオフィーに尋ねる。
「甘いな。でも、今回は貴様に従おう。お前がリーダーだ」
オフィーはそう言って、二ッと笑った。
「行けますか?」
僕がエンジンをかけながら尋ねると、「無論だ」とオフィーが短く答えた。
クラッチをつなぎ、アクセルを踏む。
スルスルと車が前に進んだ。
「前方いるぞー」とモニターを見つめるサブリナが言う。
——早速かよ。
ハンドルから左手を離し、ブレーキを踏もうとしたその瞬間——
「任せろ」
オフィーが短く言い放ち、『アクセラレーション』と呟きながら車を飛び降りた。
すると、彼女の姿が消え、その後を追うように赤い軌跡が走る。
同時に、目の前の傭兵たちが、まるで何かに吹き飛ばされたように宙を舞った。
「ヒュー! オフィー凄いじゃん!」
『あの女騎士。やるな』
二人が手を叩いて喜ぶ中、オフィーはいつの間にか助手席に滑り込んで戻ってきた。
「これでいけるな?」
僕を見てオフィーが呟く。
「ありがとう。お疲れ様です」
そう答えながら、僕は車を前に進めた。
進むたびに車の周囲に弾丸が降り注ぐが、ボディには傷一つつかない。
「バーカ! 魔改造チューンしたこの車に、その程度の豆鉄砲じゃ歯が立ったねぇよ! ガーハハハハ!」
サブリナが大声で笑いながら手を叩く。
そして、前方を傭兵が囲むたび、オフィーは車を飛び降り、再びアクセラレーションを発動。
傭兵たちがまるで見えない力に飛ばされるように左右に散り、道がどんどん開けていく。
車が進むたび、サブリナが後方のシャッターを操作し、速やかに背後を封鎖していく。
「取り残された連中?‥‥‥知らん! しばらく閉じ込められとけ! ザマァ見ろってんだ!」
サブリナが勝ち誇ったように一人突っ込みする声を聞きながら、僕はスピードを緩めず車を進めた。
——って、僕なにも活躍してなくない?
そんな思いが頭をよぎる中、車は地下1階に到着し、駐車場の出口へと向かう。
途中も、幾度か銃弾の雨を浴びるが、オフィーが素早く処理し、後方には意識を失った傭兵たちが小山のように積み上がっていた。
そして今、僕らは出口スロープの登り口の前にいる。
そこには、出て行くのを拒むかのように、頑丈なシャッターが閉じていた。
「開けんぞー」
サブリナが気だるそうに言いながらPCを操作すると、シャッターが重い音を立てて動き始める。
僕は深く息を吸い込んだ。
——さて、これで最後かな?
決めるぞ! エンディングだ!!
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