第39話 なんだ、この茶番は!
「森川! ちょっと手を貸せ」
オフィーは、どこからか取り出した紐で、神戸氏と一緒に兵士たちを縛り上げている。
僕も慌てて作業に加わると、オフィーが突然動きを止め、じっと僕の肩辺りを見つめた。
「お前、肩のそれ‥‥‥守護精霊か?」
彼女の視線を追い、右肩の方向を見ると、そこには例のちっこい妖精が浮いていた。
僕の目線に気づいた妖精は、遠慮なく肩にちょこんと腰を下ろす。
——微かに重い。定位置にさせると肩コリしそう‥‥‥。
「たぶんそれです」
僕が答えると、妖精がすかさず反論してきた。
『たぶんじゃねーし、可愛い守護精霊ちゃんでしょーに』
「なんか喋ってるな‥‥‥。皆にも聞こえるように喋ってくれないかな」
「そんなことできるんですか?」
僕が尋ねると、オフィーが肩をすくめる。
「できるだろう?‥‥‥たぶん。お前の守護精霊だろ? 仲間なんだし」
そう言うと、オフィーは肩で胡坐をかいている妖精に向かって語りかけた。
「なあ、喋れるんなら皆に聞こえるように話してくれないか。できるだろう?」
オフィーの強めの口調に、妖精はわざとらしく悲しそうな顔をして、首を小さく横に振る。
だが、その直後、僕の頭の中にはしっかりと声が響いてきた。
『めんどい。疲れるからヤダ』
——お前、全然悲しくないだろ。
僕は肩の上のちっこい存在に小さくため息をついた。
「なんだ、できないのか?」
オフィーが精霊を見て声をかける。精霊はわざとらしく胸を両手で押さえ、俯いた。
『うぜー、メンドイって言ってるだろ~!』
オフィーはそんな様子を優しく微笑むと、「できないのか。無理言って悪かったな」と言いながら精霊の頭を軽く撫でる。
「まだ顕現したばかりだしな。焦らなくていい。徐々に慣れていけばいいんだよ」
すると、精霊は両手を祈るように胸元で組み、目をキラキラさせてオフィーを見つめる。
『過干渉だって! うっさいわ!』
にっこりと微笑み合うオフィーと妖精。
‥‥‥なんかさっきから、態度と発言が違いすぎるんだが。
——この精霊。腹グロ精霊って呼んでやる!
そう考えていると、それを察知したのか、腹グロ精霊が僕のこめかみにグーパンを入れてきた。
——ちっこくても痛い!
思わず睨みつける。が、当の本人はそっぽを向き、口笛を吹くような仕草をしている。
もちろん吹けてないけど。
その様子を見ていたオフィーが「すっかり仲良しだな」と笑みを浮かべた。そして、嬉しそうに「本当に無事でよかった」とウンウン頷く。
『ねぇねぇ、あの女戦士、ちょろすぎない?』
——お前もう黙ってろ! 精霊への憧憬が摩耗するから!
とりあえず、腹グロ精霊は放っておいて、辺りの様子を見渡す。
「で、どうすればいいですか」
「お前、名刺持ってたよな?」
「妖精が作ってくれた名刺ですか? たくさん持ってますけど」
——誰も受け取ってくれないからね!
「それを、こいつに渡しな!」
オフィーは血だらけの右手を押さえ、顔を青くして蹲っている神戸総一郎を顎で指す。
——今さら!しかも何でぶっ倒れてる奴に!?
「剣持さん。この男は当方で預かりたいんですけどね」
神戸氏が主張する。
「好きにすればいい! ただ、こちらも最低限の保険はかけておきたいんでな」
そう言って、オフィーは不敵な笑いを浮かべる。
「さあ、名刺をこの男に渡せ!」
オフィーに急かされ、名刺入れから1枚取り、男の前に差し出す。
「梢ラボラトリーの森川と言います。よろしくお願いします」
もちろん、死にかけてるコイツは受け取ろうともしない。
——なんだ、この茶番は!
オフィーは名刺を差し出した俺の手をぐっと掴むと奴の頭に押し付けた。
すると、手に持った名刺が微かに震え淡く光る。
その瞬間、まるで吸い込まれるかのように消えてしまった。
「何ですか? コレ!」
僕が大声で叫ぶと「騒ぐな!」とオフィーが言う
「これで、こいつがまた悪意を持って近づいて来ても、お前には直ぐにわかるようになる」
しれっと説明するオフィー。
——何ソレ!
「相変わらずの異世界テクノロジーですね」
神戸氏が呆れたように薄く笑みをこぼす。
『それさー、こないだ僕が作ったやつだよね! こんな死にかけにやるの? 勿体ない』
——お前が作ったのかよ! 腹グロ精霊!
あと、死にかけって言うのやめなさい。下品です。
「それで? こいつらいったい何なんだよ。貴様はもうわかってるんだろ?」
オフィーが神戸氏を睨む。それに動じることなく彼は俯いてクククと零す
「まぁいいでしょ。隠してもいずれ分かることですし、それに、我々は御社に敵対するつもりもありませんから」
そう言いながら、手に持っていた刀を腰にのベルトに戻す。
——敵ではない。でも味方でもないんだろ?
「この装備を見る限り、この兵隊は海外で活動する傭兵部隊ですね。確か…ヘルハウンドだったかな?そんな名前です」
「フン! 本物のヘルハウンドはもっと手ごたえあるけどな」
——オフィー! 突っ込むとこそこですか?
彼女の言葉をスルーして神戸氏は続けた。
「さっきも言いましたが、ここは某国直営のフロント企業です。この国、国際社会の中ではちょっと困った立場にありましてね。だから、優位に立つためにどこからか聞き込んできた御社の力を奪おうとしていたんでしょ」
「そんな事かよ」
「そんな事、と言いますが、御社の持つ潜在的脅威は計り知れないものです。その欠片の力でさえ一国がそれを所持すればその国自体脅威となります。しかも御社は表向きは小さな零細企業です。上っ面の情報しか持たないものからすれば、つい手を出したくなる」
「なるほど。で、こいつらは雇われた傭兵隊っというわけか」
「でしょうね」と締めくくる神戸氏。
「おい、貴様のスポンサーは何を欲しがってるんだ」
オフィーは蹲る神戸総一郎の胸ぐらを掴み立たせる。
奴は呻きながらオフィーを睨む
「知らねーよ。なんか、不老不死の力がどうのこうのって言ってたけどな」
「大樹の力か?」
「知らねー。こんな世の中、長生きしたってロクなことねーのにな」と言い捨てると、ケッと唾を吐いた。
オフィーがもう一度男を殴ろうと手を挙げると、神戸が止めに入る。
「それ以上は死にます。コイツにからはまだ聞きたいことあるんでそこまでにして下さい」
「好きにしろ! それと、何か判ったらちゃんと教えるんだぞ。ほーれんそーだ!」
——報連相って、使う場所間違ってるって!
その時、インカムからサブリナの声が響く
『なんか大事な話してるみたいだけど、そろそろヤバくなってきたぞー』
相変わらず危機感のない声でヤバさが伝わってこない。
「どうしたんです?」
『武装した奴らが、このビル取り囲んでんだよねー』
——マジか!?
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