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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第一章

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第34話 ハイエンドタワー


 後で聞いた話だけど、左手首を切られた僕は気を失い、車の横に倒れていたらしい。


 ラーメンができても戻ってこない僕を呼びに来たサブリナが、倒れている僕を見つけてくれた。


 そして、そこからはてんやわんやの大騒ぎになったそうだ。


 通常なら手首を切られれば、痛みと出血で気を失うどころではない。だが、ブレスレットを盗む際にかけられていた呪術が奇しくも幸いし、即死は免れたらしい。


 呪術が掛けられていることをすぐに見抜いた梢社長は、病院には運ばず会社に戻り、大樹の治癒を使うという英断を下した。そして車で僕を会社に運んでくれたらしい。


 車はサブリナが運転した。

 ちなみに彼女が免許を持っていたかどうかは未だ定かではない。


 大樹を守るべき立場の梢社長が、その枝を折って使うことにオフィーは反対したそうだ。しかし、梢社長は迷うことなく枝を折ったと言う。


 その決断には感謝しかない。


 梢社長曰く、「あの時は、大樹が『そうしなさい』と言ったんだよ」と教えてくれた。


 なお、大樹の治癒術がなければ、左手首を失うどころか、出血多量で命を落としていたらしい。


 これで僕にも、大樹を守るべき立派な理由ができたというわけだ。



 その後、僕は丸一日、まるで死んだように目を覚まさなかったそうだ。


 その間に、岩田さんや詩織さん、淳史くん。それにピンク亭の大将まで、見舞いに駆けつけてくれたらしい。


 岩田さんは「自分が危険性をきちんと伝えきれていなかった」と、ずいぶん自分を責めていたそうだ。


 ——今度会ったら、ちゃんとお礼を伝えよう!


 それにしても、こんなにも人とのつながりができていたことに驚いた。


 数日前まで、一人でじっと部屋にこもるだけの日々が続いていたのに……。


 今じゃこうして心配してくれる人たちがいるなんて、少し前の自分には想像もできなかった。


 ——不思議な気分だけど……悪くない。


 

 ▽▽▽ 


 午前 00:00時


 日付が変わって、僕が梢社長と初めて会ってからちょうど7日目が始まろうとしている。


 僕は今、オフィー、サブリナの三人で、都内の一等地にそびえる『ハイエンドタワー』の地下3階駐車場にいる。


 真夜中、車の行き来がなくなった広い空間は、誰もいないはずなのに、どこか不気味な気配が漂っていた。


 冷たいコンクリートの床から染み出す湿気と、遠くから断続的に聞こえる低い機械の音、息苦しいほどの緊張感がわいてくる。


 3人でここにいる理由は一つだけ。


 僕のブレスレット、いや、守護精霊を奪還するためだ。


 梢社長は、さすがに今のタイミングで大樹を離れるわけにもいかず、会社で岩田さんと一緒にお留守番だ。


 ちなみに、「社長、一人で大丈夫ですか?」と心配して聞いた僕に、いつものスエットを着たオフィーは呆れ顔を向ける。


「お前なー、私がセーシアと戦っても、よくて相打ち。下手すりゃコテンパンにやられるぞ」


 ——梢社長って、そんなに強いんだ……。


「イワッチも柔道で黒帯らしいぜ」

 サブリナがボソリと呟く。


 彼女は、車の後部スペースにモニターやPCを持ち込み、まるで秘密基地のようにしている。


「いやー、なんだかワクワクするよなー。この緊張感、たまらん!」


 会社を出る時にサブリナが呟いたその言葉が、不安で忘れられない。


 今もモニターとにらめっこしながら、サブリナは怪しげな笑みを浮かべている。


 ——ジャージ姿のテロリストめ!


『ハイエンドタワー』は、最新鋭のインテリジェンスビルだ。


 不審者を寄せ付けない入退室管理システムに、外部への情報漏洩を防ぐ高度なセキュリティシステム。


 さらには、無許可で侵入しようとすれば迎撃システムまで作動するという徹底ぶりで、まるで戦場の基地のような建物だ。


「とはいえ、私にかかればちょちょいのちょいだけどね! ほら、インカムとIDパッチ。IDパッチは体に貼っとけよ。これでどこに入ってもダイジョ―V!」


 ピースサインを真顔で決めるサブリナ。


 ——案外、この子、年いってるんじゃない?


 僕とオフィーがインカムを装着しているとサブリナのつぶやきがインカムを通して聞こえてきた。


『ターゲットは5階のフロアだぞ。ただ、ブレスレットがある場所までは特定できなかった……。もう1時間あれば、メインフレームの奥まで入って解析できたんだけどなぁ』


 サブリナの声に、オフィーが肩をすぼめがら答える。


「その必要はない。セーシアの調査では、このビルにあるのは間違いないんだ。それで十分。あとは中に入って、全部ぶち壊してでも見つければいい!」


 実は、このビルに“大谷モドキ”が入ったことまでは、サブリナの調査で判明していた。ただし、ブレスレットがここにあるかどうかはわからなかった。


 結局、梢社長とサブリナが現地に足を運び、精霊の気配を探ることで、5階フロアにあることが判明したのだ。


 ちなみに、そのフロアには外資系の会社が入っているらしい。名前を聞いたが、誰も知らない会社だった。


 ちなみに僕も確信している。この場所にブレスレットがあることを。


 なぜかって? なぜかはわからない。


 だけど、この場所に僕の守護精霊がいるのを感じる。理由なんてない。ただ、確信があるんだ。


「よっしゃー! 潜り込んだぞー!」


 サブリナが叫ぶのと同時に、車内に所狭しと並べられたモニターにビル内の映像が映し出された。


「よし、じゃあ行くぞ。森川、気を抜くなよ」


 オフィーがそう言いながら車のドアを開けて外に出る。僕も後を追い、運転席のドアを開けた。


 その時、ダークネイビーの細身のスーツを着た男が、まっすぐこちらに歩いてくるのが見えた。


 男はニヤリと口角を上げ、片手を挙げながら言う。


「お久しぶりです」


 僕は反射的にその名を呼んでいた。

「神戸さん……」


「お元気そうで良かった、森川さん。」


 相変わらずこの男は、口元だけは笑っているが、目は全く笑っていない。


「心配してたんですよ。ずいぶん大変な目に遭いましたね」


「おかげさまで、なんとか無事でいられてます」


「確か、手首を切られたんでしたね。それがもう動くなんて、さすが梢さんとこのニューカマーだ」


 サブリナが車の中から顔を覗かせ、僕の肩越しに神戸氏を睨みつける。


「相手にすんなよ、モリッチ。こいつ、あの時現場にいたはずだ。モリッチが斬られてぶっ倒れた時だって、ほっといて何もしなかったんだからな」


 神戸氏は何も言わず、ただにやにやと笑っていた。


「ところで貴様はなんでここにいるんだ?」

 僕と並んで立っていたオフィーが神戸氏を睨みつける。


「いやいや、剣持さん、ご無沙汰してます。スエット姿も相変わらずお美しいですね。今度ぜひ、一緒にお食事でもいかがですか? いいワインを置いてる店を知っているんですが」


 剣持?……あぁ、オフィーの日本名か。


 神戸の誘いに、オフィーはフンと鼻を鳴らして答えると、手に持った袋を捨て剣を取り出した。


「二度言わせるな。なんでここにいるんだ?」


「いやいや、何か誤解があるようですね。私は梢社長から聞いて、何かお役に立てないかと思って来たんですよ」


「どーせ、監視に来たんだろ!」

 サブリナが僕を盾にしながら吐き捨てる。

 

 神戸氏はそんなサブリナに、にっこり微笑む。


 それを見て、サブリナはわざとらしく両手で肩を抱き、ブルルと震えると一言、「キショー」と呟いた。


 ——見た目だけは色男なんだけど……あざとくてキショいな。


「なんだか嫌われてるみたいですけど、私も友人の森川くんが傷つけられたとあっては黙っていられません。組織としては問題がありますが、一個人として一緒に行かせていただきますね」


 ——友人ねぇ。


「ちなみに、剣持さん。その大剣はまだ隠しておいてくださいね。ここには一般の人もいます。先方の会社の中で、皆さんが何をなさろうが構いませんが、立場上、一般市民に迷惑をかけるのは見過ごせませんから」


 ——真夜中の0時だぞ! 一般人なんていねーし!


「貴様が持ってる刀はいいのか? そいつから妖気がだだ漏れなんだが」

 オフィーが突っ込みを入れる。


「さすが、お気づきですか。これ、我が家の家宝でしてね、ミスリルとヒヒイロカネで作った刀なんです」


 ——ミスリルとヒヒイロカネ? ファンタジー素材じゃん!


 僕は、さっきオフィーから渡された剣を見る。


 もしかして……。

 

 そんな僕を見て、オフィーが言う。

「そいつは単なる鋼の剣だ。貴様がミスリルを持つには百年早いわ!」


 ——するってーと、127歳になれば持てるってことですね。ハァ。


 オフィーが剣先を神戸氏の顔に向け、冷たく言い放つ。

 その剣は鈍い光を放ち、彼の笑みの端をかすめるように揺らめいていた。


「ついてくるのはいい。だが、くれぐれも邪魔するなよ」


「友人のつもりなんですがねぇ……まあ、こうして突き放されるのもゾクゾクしますが」


 神戸氏は目を細め、にっそりと笑った。


 それを見たサブリナが再び呟く。

「だからキショイって」


 オフィーが空気を換えるように低い声で呟いた。

「さあ、いくぞ!」


 僕とオフィー、それに神戸氏は三人で並んで『ハイエンドタワー』に入る。

 

 冷たく乾いた空気が肌を撫で、緊張感が胸を締め付ける。


 まるで異世界への扉を開いたような感じがした。



お読み頂きありがとうございます!

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何卒よろしくお願いいたします。

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